2月8日挙行の朝鮮人民軍創建70周年慶祝閲兵式について。
普通のことを書いてもあまり面白くないし、ヤフーニュース等を引用したところで「有識者」なる人々のご高説(割と外れる)を再構成するだけになるので、ここは趣を変えて「閲兵式中にどんな曲がBGMとして流れたのか」という点に絞って記事を執筆したいと思います。題して「BGMから読み解く朝鮮人民軍創建70周年慶祝閲兵式」。
以前から述べているとおり、共和国は「音楽政治」の国。音楽をプロパガンダの主要な手段としてフル活用している国です。音楽に乗せてあからさまにメッセージを伝えるケースもあれば、その場では面と向かっては言えないような内容を含む曲をBGMとして流すことで腹の内を婉曲に伝えるケースもあるものです。
たとえば、太陽政策を掲げていた南側のノムヒョン大統領(当時)は、任期満了直前のチュチェ96(2007)年に訪朝しましたが、歓迎の花束を渡された際と儀仗隊行進の際に流されたBGMが何と「朝鮮人民軍歌」。この歌は、朝鮮半島の赤化統一を歌う曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=yZR3isKgY20#t=231
中国やベトナムなどの要人訪朝の例を見るに、花束贈呈時は「歓迎曲」、儀仗隊行進時は「遊撃隊行進曲」が定番である点、わざわざ「朝鮮人民軍歌」を流したのは異例であり、ここには意図があると見るべきでしょう。
周知のとおりノ大統領の太陽政策は、武力を用いず、吸収統一を目指さず、和解と協力を推進する外交政策です。そんな彼の任期満了直前における訪朝は、当然、太陽政策の集大成的な位置づけでありましょう。それに対する共和国側の接遇は、キムジョンイル総書記自ら出迎え、一般大衆を大量動員して歓迎の花束を渡すという点では一見してノ大統領と南側当局者を大歓迎しているかに見えるものの、わざわざ「朝鮮人民軍歌」をBGMとして流している点において、実は腹の内では嗤っていたものと思われます。
前置きが長くなりましたが、今回の2.8절(2.8節)について見てみましょう。
動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=sgMj7OOss3Eより。
「キムイルソン大元帥万々歳」またはそれに準じる曲から閲兵式の本行進(太陽肖像画の行進ではない方)が始まるのが最近の定番であるところ、「祖国保衛の歌」(00:58:03)に始まり、「決戦の道へ」(01:00:20)、「進軍また進軍」(01:01:56)、「党中央を命懸けで死守しよう」(01:03:50)といった、祖国防衛系の戦時歌謡が続いた点、やはり今回の2.8節は、「正規軍・自衛戦力としての朝鮮人民軍」の位置づけを強調するための閲兵式と言えそうです。
「キムイルソン大元帥万々歳」は、ようやく5曲目に登場。チュチェ96(2007)年4月25日の人民軍創建75周年記念閲兵式で演奏された、「遊撃隊行進曲」や「今日も七連隊はわれらの前にいる」といった抗日パルチザン時代を歌う作品や、「朝鮮の姿」「我らは銃をさらにかたく握らん」あたりの伝統的一品は採用されませんでした。
共和国も世代交代の時代なのか、こういった昔ながらの定番の曲が採用されなかった一方で、モランボン楽団の持ち歌と化している「戦車兵の歌」(01:21:24)や「砲兵の歌」(01:23:47)は採用。「正規軍・自衛戦力としての朝鮮人民軍」の位置づけを強調するにあたっても適した歌詞内容なので納得の選曲です。
戦車・装甲兵員輸送車・偵察戦闘車よりも自走砲・自走式多連装ロケット砲・地対空ミサイル車両の方が登場台数が多く、そして名曲「海岸砲兵の歌」(01:24:29)に合わせて登場したのもメッセージ性を強く感じるものです。戦車等は敵地に侵攻・制圧できるが、自走砲・自走式多連装ロケット砲・地対空ミサイル車両はそういう目的で設計されていません。後者の登場台数が多いという事実、そして「海岸砲兵の歌」をBGMとしている事実は、この閲兵式のテーマが「正規軍・自衛戦力としての朝鮮人民軍」という位置づけを強調する点にあることを更に論証するものであると考えられます。パレード映えする侵攻向けの兵器、好戦的な軍歌など幾らでもあるのに、それらが採用されなかったわけです。
そして最後の最後に「共和国ロケット兵行進曲」の曲に合わせての戦略軍部隊の行進。昨年は頻繁に発射実験を実施していたものの、1回の発射実験で登場するのは単一の形式だけだったので、こうして複数形式が一堂に会するのは実は初めてのケースかもしれません。「あれ、いつの間にこんなにバリエーション豊富に揃えたんだ?」と一瞬思ってしまうくらいの壮観であります(もちろん、それこそが閲兵式を全世界に公開している狙いであるわけですが)。
朝鮮労働党政治局の1月23日づけ決定によって、40年ぶりに2月8日に「戻ってきた」建軍節。当ブログでは1月25日づけ「自主独立国家建設の必須的要求である正規軍としての朝鮮人民軍――「2.8建軍節」の意味」にて、このタイミングでの党政治局の決定は、「自主独立国家建設の必須的要求である正規軍としての朝鮮人民軍」という位置づけを強調するところにあると考えるのが自然な見立てだと述べましたが、その内容を論証するかのような閲兵式でした。
なお、共和国が「マルクス・レーニン主義」の旗を降ろし、「共産主義」について言及しなくなって久しい今日。チュチェ100(2011)年10月10日の建国63周年閲兵式の時点では掲げられていたものの、チュチェ101(2012)年4月15日の太陽節閲兵式の時点では撤去済みだった(すなわち、キムジョンウン委員長の時代になるや否や早速撤去された)、マルクスとレーニンの肖像画は、あいかわらず画面から確認はできませんでした。「社会主義企業責任管理制」を政策の大黒柱として掲げている以上は、いまさらマルクスやレーニンの肖像画を掲げている場合ではないので、当然といえば当然ですけど。
「キムイルソン大元帥万々歳」を後回しにしてまで「祖国保衛の歌」や「決戦の道へ」といった戦時歌謡を先発させ、「砲兵の歌」や「海岸砲兵の歌」を歌う。戦車・装甲兵員輸送車・偵察戦闘車よりも自走砲・自走式多連装ロケット砲・地対空ミサイル車両を大動員する。多種多様にわたる戦略軍の陣容を誇示する――完全に自衛モードに入っている共和国です。
2018年02月11日
この記事へのコメント
コメントを書く
