共和国情勢が急激に遷移しています。北南会談に続く朝中首脳会談。日本の「取り残され」感は日に日に増大しているところです。焦りの現れなのか、もともと馬鹿なのかは知りません(興味もありません)が、面白言説が多数飛び出しているところです。たとえば、以下。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180329-00000068-san-kr
>> 習近平氏訪朝へ 「千年の宿敵」に屈服した正恩氏■完全に「去勢」さられた日本「保守」の醜い姿を象徴する産経記事
3/29(木) 7:55配信
産経新聞
中国中央テレビと朝鮮中央通信が28日に報じた習近平との会談のやり取りからは、金正恩が訪中に踏み切った微妙な心境が浮かぶ。
(中略)
◆真剣にメモ取る姿も
その言葉とは裏腹に中国のテレビは、習と握手する際のぎこちない笑顔を映し出した。習が発言する間、金が真剣にメモを取る姿もクローズアップした。北朝鮮メディアが、訪朝した韓国特使団が金の言葉を必死にメモする様子を強調して報じたのとは対照的に屈辱的場面ともいえた。
「中国は千年の宿敵だ」。米政府系メディアによると、昨年12月、北朝鮮国内の講習会で幹部がこう中国への警戒を訴えた。中朝関係者によると、中国と密な関係にあった叔父の張成沢(チャン・ソンテク)を処刑したのも、異母兄の金正男(キム・ジョンナム)を暗殺したとされるのも親中派への見せしめの側面があったという。こうした“脱中国”路線から急旋回したことになる。
(中略)
金の動静報道は6日以降、途絶えた。「核は宝剣だ」と強調する労働新聞の記事も7日を最後に途切れる。8日には、金の非核化意思の表明と会談要請に対し、米大統領のトランプが5月までの会談を承諾。一連の動きは軌を一にしていることが分かる。
南北対話とは異なり、習との会談は、予想外に早いトランプとの会談に備え、急遽(きゅうきょ)、準備した可能性がある。北朝鮮メディアは、金が非核化意思を示したことに一切、触れていない。国民生活を犠牲に推し進めてきた核開発の看板を引き下ろす国内向けの論拠が整っていないことを物語る。
(中略)
生き残りを懸け、中国を最大の擁護者とするため、「宿敵」に膝を屈して取り入った覚悟がにじむ。=敬称略(ソウル 桜井紀雄) <<
産経新聞が拠って立つユートピア追求的な観念論が、これでもかと言うくらいに迫ってくる一品です。いやはや、甚だしい平和ボケっぷり。「民族の自主」という観念をマヒさせられ、完全に「去勢」さられた日本「保守」の醜い姿を象徴するものです。
「習が発言する間、金が真剣にメモを取る姿もクローズアップした」ことを「北朝鮮メディアが、訪朝した韓国特使団が金の言葉を必死にメモする様子を強調して報じたのとは対照的に屈辱的場面ともいえた」と書き立てる産経。そんなこと計算ずくでメモを取っているに決まっているじゃないですか。
「ここはとにかく中国をヨイショするのが得策だ」――キムジョンウン同志がそう判断なさったことは極めて自然なことです。このことが「屈辱」かと言えば、「自分たち以外のすべての存在は、自分の目的を達成させるための手段にすぎず、工夫に工夫を重ねて自分たちの目的達成のために周囲環境を利用すべし」というチュチェ思想の根本的要求に照らせば、「朝鮮式社会主義体制を守り抜く」という大目標を達成させるためであれば、あくまでもそのための「道具」に過ぎない習近平をヨイショすることくらいキムジョンウン同志にとっては朝飯前のことでしょう。
アメリカの挑発にまんまと乗っかり「自存自衛」などと口走りながら後先考えずにパールハーバー攻撃を仕掛け、案の定、国土を焼け野原にさせられた日帝の、国際関係論的には完全なる失敗例について「あれは闘わなければならなかったのだ・・・」などと陶酔気味で語る産経・正論路線(正気とは思えませんね)と好対照です。
「民族の自主」という至高の目標を達成するためであれば手段を選ばない。そもそも自分たち以外はすべて「手段・道具」に過ぎず、そんな連中が何を思おうと知ったこっちゃない・・・チュチェを突き詰めれば、「道具」ごときが何をどう思おうと、どうでもいいことです。具体的な言動・行動のレベルではなく、自分たちの目標達成に貪欲であることこそが「筋を通すこと」と見なすチュチェ思想の立場に立てば、身のこなしの急激な変化は「変節」には当たらないことです。
具体的な言動・行動のレベルに拘ることは、チュチェ思想的には枝葉末節に過ぎません。産経・正論路線は、まさにチュチェ思想的には枝葉末節のレベルです。こんな枝葉末節のレベルのことに拘っていられるということは、すなわち、産経・正論路線の甚だしい平和ボケっぷりを示すものであり、「民族の自主」という概念をマヒさせられ、完全に「去勢」させられた日本「保守」の醜い姿を象徴するものです。
■都合の良い時だけ「国内向け説明」を真に受ける産経記事――「虚偽宣伝で国民を騙す独裁政権」ではなかったの?
「中国は千年の宿敵だ」などという「米政府系メディア」の報道をここで持ち出してくるのも噴飯ものです。このことは、かの高英起「同志」が詳細に書き立てているところです。どうやら、おなじみの「北朝鮮国内情報筋」なる真偽(存否)不明の情報です。
仮にその「北朝鮮国内情報筋」が実在し、その証言が事実だったとしましょう。しかし、「中国は千年の宿敵だ」なる言説が党中央の真意であるという保証は、どこにもありません。
このことは、まさしくこれらの手合いの基本的認識・立場であるはずです。いつから共和国は、国民に対して党中央の真意を伝える国になったのですか。高英起「同志」たちによれば、共和国政府は「独裁」政権を維持するために国民に対して日常的に虚偽の情報を流布させてきたといいます。「『労働新聞』に書かれていることのうち真実と言い得るのは日付だけ」と言わんばかりの論陣を張ってきたものです。どうして、「中国は千年の宿敵だ」などという言説だけがファクト扱いされるのでしょうか?
■そもそも「核武装は必要悪」というのが国内向け宣伝
「北朝鮮メディアは、金が非核化意思を示したことに一切、触れていない。国民生活を犠牲に推し進めてきた核開発の看板を引き下ろす国内向けの論拠が整っていないことを物語る」とも書き立てています。チュチェ106(2017)年10月8日づけ「共和国の自衛論理が報じられるようになった」でも触れましたが、共和国は以前から核廃絶は人類の念願であると言明してきました。しかし、アメリカと直接的に対峙せざるを得ない状況下では自衛目的の抑止力は不可欠であるために、已む無く核爆弾やICBMといった核武力の整備に邁進してきたというストーリーを持っています。いわゆる「並進路線」は、その認識の上に据えられているものです。
その点を踏まえれば、「北朝鮮メディアは、金が非核化意思を示したことに一切、触れていない」というのは結局、「国内向けの論拠」の有無の問題ではなく、アメリカの真意を解析中である証拠とみるべきです。
「核武装は必要悪」というのが、共和国の国内向け宣伝です。「中国は千年の宿敵だ」などという国内向け宣伝は真に受ける一方で、「核廃絶は人類の念願」はスルーする・・・都合の良い事実に飛びつく、典型的な観念論者の姿にほかなりません。
だいたい、共和国のしたたかな外交の背景に「北朝鮮には配慮すべき『世論』が存在しないこと」があるのは、国際関係論の初歩的認識であるはず。いわゆる「独裁国家」であるからこそ、「筋」を通せるのだといわれているところです。あれだけ共和国への誹謗中傷を展開してきた産経が、急に「国内向けの論拠」がどうのこうのとは、いったいどうしちゃったんでしょう? そういうことを「踏みつぶす」のが「北朝鮮のキム王朝」だと書き立ててきたのが産経だったはずです。
支離滅裂と言うほかありません。
■チュチェ思想の立場に立つ人間が屈服するとき
「生き残りを懸け、中国を最大の擁護者とするため、「宿敵」に膝を屈して取り入った覚悟がにじむ」という結び。目標達成を第一に掲げるチュチェ思想の立場に立つ人間が屈服するときは、唯一、目標を達成できなかったときだけです。一見して「中国に膝を屈した」ように見えても、その中国を「道具」として使い倒した結果、目標を達成したのであれば、それは勝利です。
産経・正論路線のこのトンデモ言説は、以前にも指摘した「ゲリラが建国した国の文化とインパール作戦を生んだ文化的土壌の国との決定的差異」を底流としつつも、何を最優先にすべきかという点において日帝レベル以下に落ち込んでいる現代日本「保守」の甚だしい平和ボケっぷりを示すものです。本質的な意味での「民族の自主」という概念をマヒさせられ、混乱の挙句に取るに足らないことを重要視するレベルにまで幼稚化させられた姿、完全に「去勢」させられた日本「保守」の醜い姿を象徴するものです。