東京医大の女子受験者一律減点報道に尾木ママ「あまりにも時代錯誤」片山さつき氏「男女差別でアウト」■あまりにも「生産性」に偏り過ぎている東京医科大の判断
8/2(木) 11:39配信
スポーツ報知
尾木ママこと教育評論家の尾木直樹氏(71)が2日、自身のブログを更新。東京医科大が今年2月の一般入試で女子受験者の得点を一律で減点していたと報じられたことに「酷い差別」と怒りをあらわにした。
尾木ママは「女子は大学入試の得点を一律減!酷い差別」との記事で報道に言及。「いや〜驚きました!!驚きました!!文科省役人の息子さんを裏口入学させたかと思いきや 他方では、女子受験生のみなさんの得点を一律に減らし、入学差別していた つまり女子入学者数を押さえていたのです!それも一切公表せず、秘密裏に進めていたのです!」とつづり、「あまりにも時代錯誤 あまりにも大胆なやり方に言葉を失います」と吐露。
(中略)
同報道に関しては脳科学者の茂木健一郎(55)もこの日朝に「東京医大の認識の古さ、時代遅れ感は、とても残念です」とツイート。自民党の片山さつき参院議員(59)も「試験一律減点が事実なら男女差別でアウト、処分すべきだが、1人の医師が稼ぐ保険点数の男女比が10:7という問題、働き方から抜本改革しないと。医師会に女性会長なしも時代錯誤!」とつぶやくなど、衝撃が広がっている。
最終更新:8/2(木) 13:32
この問題は、女性差別であることは間違いありません。しかし、単なる「時代錯誤の女性差別」ではないし、啓蒙的女性運動として解決を目指すべき問題ではありません。東京医科大側の言い分を見るに、もっと根が深い問題であると言わざるを得ないでしょう。
東京医科大の「関係者」の言い分は、要するに「女性は私事都合(結婚や出産)で離職しがちで、せっかく育成しても「使えない」可能性があるから、初めから受け入れない」ということです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15100134/
外科では女性医師敬遠がち「女3人で男1人分」大学医学部はさまざまな役割を担っていますが、最大の役割は、臨床医の育成・供給であることは間違いのないことです。しかし、仮に結婚や出産で離職しがちだといっても、そんなものは普通、医師としての職業人生のうちでたかだか数年の話であるし、そのほか諸々の勤務制限が掛かりやすいために「女3人で男1人分」だというのが事実だったとしても、その程度は、使用者たる病院側が受忍しなければならない範囲のものでしょう。何から何まで使う側にとって都合がいいほど、世の中甘くはありません。
2018年8月2日 16時30分
読売新聞
東京医科大(東京)医学部医学科の一般入試で、同大が女子受験者の得点を一律に減点し、合格者数を抑えていたことが明らかになった。
同大出身の女性医師が結婚や出産で離職すれば、系列病院の医師が不足する恐れがあることが背景にあったとされる。
(中略)
この関係者によると、同大による女子合格者の抑制は2011年頃に始まった。10年の医学科の一般入試で女子の合格者数が69人と全体(181人)の38%に達したためだ。医師の国家試験に合格した同大出身者の大半は、系列の病院で働くことになる。緊急の手術が多く勤務体系が不規則な外科では、女性医師は敬遠されがちで、「女3人で男1人分」との言葉もささやかれているという。
この程度のことも受忍できない東京医科大の判断は、あまりにも「生産性」(いままさに物議をかもしている単語です)に偏り過ぎていると言わざるを得ず、このような経営姿勢を見るに、東京医科大の幹部陣は、医療スタッフを「単なる生産要素としてしか見ていない」ものと推察できます(もちろん、「生産要素」であることは間違いではありませんが、「単なる生産要素としてしか見なしていない」ということが問題なのです)。
■性別を超えた労働の問題・自主権の問題の一種として捉えるべき
「女3人で男1人分」という表現は、「男」に焦点を合わせると更に彼らの魂胆が明白になってきます。
女性の結婚や出産を機とする生活の変化は、大きな契機であるとはいえ、ワーク・ライフ・バランスの観点から述べれば、特に異常なことではありません。家事・育児等で独身時代のようには働けなくなるでしょうが、そもそもそれが普通の人間的生活です。「結婚や出産があって、仕事以外にもやることがあるから、『女3人で男1人分』だ」という言い分は、「男はワーク・ライフ・バランスが取れているケースの3倍働け」と言っているに等しい言い分です。ごく一般的な人間的働き方の3倍働くことを期待する――とんでもないブラックであると言わざるを得ません。
このように、この問題を動機レベルに分解して追究すれば、単なる「古臭い、時代錯誤的な女性差別」として片づけられるものではなく、勤務医の労働力の使用者としての姿勢にも波及する点において、労働問題の一種として捉えるべきでしょう。そうであれば、啓蒙的女性運動のレベルの話ではないだろうと言わざるを得ません。
また、「男は女の3倍働け」と言っているに等しい言い分を踏まえれば、この問題は単なる女性運動・女性解放運動に留まるものではなく、「3倍もの働きを要求されている男性の解放」であるとも言えます。やはり、啓蒙的女性運動の枠に留まるものではなく、さらに広範な層を取り込み、「勤労人民大衆の自主権の問題、勤労人民大衆の解放運動」として発展させるべきでしょう。
■実は「生産性」を損ねている――スウェーデンとの比較
ところで、北欧スウェーデンは女性運動・男女平等運動が盛んで、女性の社会進出が進んでおり、男女平等が実現しつつある社会だとしばしば紹介されます。このことはスウェーデン社会の一面を正しく表現している認識ですが、スウェーデンにおける女性の社会進出は、単なる女性運動・男女平等運動の成果ではありません。当ブログでも昨年11月19日にご紹介したとおり、同国の男女平等担当大臣が自ら「男女平等は人権の問題でもありますが、同時に経済成長のツールでもあります。これは、決して女性への贈り物ではない、ドライでテクニカルなものなんです。」と言明しています。
この観点から本件について考察すれば、「女3人で男1人分」などとうそぶく東京医科大の幹部陣は、あたかも「生産性」を重視しているように見えて、実際には思惑とは真逆の、大変な「社会的資源の無駄遣い」に走っているわけです。
医師は依然として偏在・不足しています。医師は知識労働の極致であると同時に、対人(対患者)活動である点において、増やそうと思って急に増やせるものではありません。医師の卵は社会の宝です。「女だから」という理由で門前払いするのは、それこそ「非効率」であると言わざるを得ません。もはや一切弁護の余地はないのです。
■女性の解放は男性の解放――スウェーデンの経験から
先に私は、本件への取り組みは「3倍もの働きを要求されている男性の解放」になると述べましたが、これは私のオリジナルな発想ではなく、スウェーデンの取り組みの輸入品です。高橋(2011)p5-6がスウェーデンの経験を明確に記しています。
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/11j040.pdf
先述の通り、スウェーデンでは、国際的な枠組みでワーク・ライフ・バランスという概念が提唱される前から、男女の機会均等という理念に基づく「家庭と仕事の両立」というビジョンが打ち立てられていた。スウェーデンの父親役割の変遷を、 「父親政策(Pappapolitik)」という視点から捉えた Klinth (2005)は、1960 年代の性別役割論争に ついては、女性の解放としてだけではなく、男性の解放としても捉えるべきであると し、同国の男女平等の出発点は、両性の解放であったとの見解を示している(Klinth 2005)。女性の解放が、仕事の権利と経済的自立によりなされるのに対し、男性の解放 は、積極的で公平な親としての家庭参画であった。男性の解放なしには、女性の解放は成しえなかった、とする。育児休業制度における父親への割当制度、いわゆる「父親の月」の導入が、男女双方にとっての「二重の解放」であった。つまり女性はケアの担い手であると同時に働き手となることができ、男性は働き手であると同時にケア の担い手にもなることができたからである(Klinth 2005, Ahlberg et al. 2008)。ちなみに、「性別を超えた労働の問題・自主権の問題」とか「女性の解放は男性の解放」と私は述べましたが、これはスウェーデンを参考にしたからこその認識である点において、決して階級闘争的な意味あいではない点を誤解ないようお願いいたします。前掲過去ログ(昨年11月19日づけ「男女平等は人権問題であると同時に経済成長のツール――福祉国家革新の先駆者としてブレないスウェーデンの現実を正しく報じる意味」でも述べたとおり、スウェーデンの福祉国家モデルは、「国民の家(Folkhemmet)」構想による労使対話の産物であり、これは、明らかにマルクス・レーニン主義的な労使間の階級対決・階級闘争路線を否定するものだからです。
同国での WLB の実現に向けた労働環境は、労働者が性別や家族状況(配偶の有無、子どもの有無)に関わらず、人として尊厳ある生活ができるよう整備されていること がその基盤にある。労働者の基本的権利を定める労働時間法(Arbetstidslagen:所定労 働時間は週 40 時間以下)や有給休暇法(Semesterlagen:年間最低5週間、国家公務員 は6週間)は遵守され、徹底化されている。
■総括
東京医科大の判断は論外ですが、それへの反対論も間違いではないが少し物足りないというのが正直な感想です。
■続報について
5日読売新聞報道によると、「女子一律減点」ではなく「3浪以下男子に段階別の特別加点」だったという続報が出ています。
・女子だけでなく、3浪の男子も抑制…東京医大
・「女子の一律減点」はなかった? 読売が「3浪以下の男子に加点」と修正
本ブログ記事の主張の核心は、性差別云々ではなく、東京医科大幹部陣の思考があまりにも「生産性」に偏り過ぎているところにあります。その点、「3浪以下男子に段階別の特別加点し、女子と4浪以上の受験者には加点していなかった」という続報は、この問題を性差別の問題として片づけるべきではないという私の主張の線を更に補うものです。
主張内容を変更する必要はなく、それどころかむしろ、主張を裏付ける続報であると見ています。しかし、結果的に不十分な内容・一部誤報の報道記事を基に執筆したことになるので、一応、断り書きをしておきます。