ネット右翼に足を引っ張られた佐喜眞候補【沖縄県知事選挙 現地レポ〜敗北の分析】仮にネトウヨの現状認識が正しく、「中国の沖縄侵略が迫っており、そのさなかでの沖縄県知事選挙の意味は大きい」としましょう(あくまでも仮置きの話ですよ)。そうであるならば、「中国の侵略」に対抗するには、なによりも「日本国内の結束」が重要となるでしょう。さまざまな国内意見を集約し、とりあえずカタをつけ、思想意識的にも組織体制的にも国内の結束を固めて中国側に付け入る隙を与えてはなりません。
古谷経衡 | 文筆家/著述家
10/1(月) 5:30
(中略)
【3】荒唐無稽な在沖縄ネット右翼活動家の蠢動
今回、敗北を喫した佐喜眞氏の敗因は何だったのだろうか。佐喜眞氏は「対決から対話へ」を掲げ、辺野古移設については積極的推進の立場を明確にせず、むしろ経済振興や子育て政策を重点的に主張した。
前述した2月の名護市長選挙に於ける渡具知武豊氏の勝利の方程式を踏襲した格好である。中でも「県民所得300万円目標」など、なるほど具体的とも言える政策もあった。
しかしながら私は、佐喜眞氏の敗因は、佐喜眞氏自身は当然のこと、その「外野」にこそあると分析している。「外野」とは何か。それは翁長前知事が健在であった時代から、反翁長(反オール沖縄)の姿勢を鮮明にして、主にネットやCS放送局などを利用して勢力を高めてきた在沖縄のネット右翼活動家達のことだ。 断って置くが、彼らは佐喜眞選対には一切入っていない。勝手連的に今回の知事選挙で佐喜眞氏を応援していた人々である。彼らは、中央(東京)のCS放送局やネットニュース番組等を行き来し、または保守系論壇誌、あるいは沖縄のコミュニティFM等を活用して、「善意」で以て佐喜眞氏を応援した。
彼らは、那覇、沖縄、豊見城、うるま、宜野湾、名護など県下公民館などを貸し切り、私が確認しただけで都合50回以上に及ぶ小集会や、ビラ配布、那覇市内等に於ける街宣行動を頻繁に繰り返した。
9月13日に今回の沖縄県知事選挙が告示されると、彼らは勝手連的に佐喜眞氏への投票を訴え、併せて「玉城デニー陣営から威嚇、暴力的行為を受けた」などとSNS上で訴え続けた。
これに賛同するネット右翼的傾向を持つユーザーが次々と彼らのツイートを拡散して、「玉城はパヨク」「玉城は売国奴」「玉城は中国の工作員」等というレッテルと共に、恒常的にそれらのリツイートは毎回500〜1,000近くになる勢いとなったのである。
前述した小集会では、「地元新聞・TVによる世論誘導選挙、中国の沖縄侵略隠しを訴える」という横断幕がほぼ毎回会場に掲げられた。
ここで重要なのは、地元新聞とは「琉球新報、沖縄タイムス」の二紙を指すと言うこと。また「中国の沖縄侵略」ではなく「沖縄侵略隠し」を訴えているという点で、極めて陰謀論的世界観である。
つまり、沖縄に於いて中国の侵略が現に行われて居るが、「琉球新報、沖縄タイムス」の二紙がそれを故意に隠している、という主張を繰り返したのだ。
【6】ネット右翼が佐喜眞氏の印象を悪くしたのか?
しかし前述した在沖縄のネット右翼活動家らや、及び全国に存在するネット右翼の、「善意による」佐喜眞氏への勝手連的な応援は、沖縄の有権者に佐喜眞氏への親近感を高めるどころか、却ってマイナスの材料になったのではないか?と私は観ている。
彼らは口々にこう絶叫した。
「玉城デニーが知事になったら、沖縄は中国にのっとられます」
「玉城デニーが知事になったら、中国の工作員が沖縄を破壊します」
このような、トンデモ陰謀論とも思える連呼とセットに佐喜眞氏を応援することで、常識的な感覚を持った有権者の多くは、むしろ佐喜眞氏へのネガティブイメージを持つに至ったかもしれない。「親方思いの主倒し」という言葉がある。親方を思ってよかれと思ってやった行為が、結果として親方の迷惑になる、という意味だ。
「玉城デニーが知事になったら、沖縄は中国にのっとられます」
という絶叫とセットで行なわれた佐喜眞氏を支持する勝手連的訴えは、まさにネット右翼による「親方思いの主倒し」の典型ではないだろうか。
沖縄に中国の工作員などいないし、彼らの破壊工作を沖縄二紙が隠蔽しているはずが無いことは、他でもない沖縄県民が一番よく知っているからだ。
【7】争点にすらならない「中国沖縄侵略説」
沖縄に中国の工作員が忍び込んでいる、というのは「大阪にスリーパーセルなどと呼ばれる北朝鮮の特殊潜伏工作員が存在する」という「工作員妄想」にも通底する陰謀論だ。
百歩譲って中国の工作員が日本に潜入するとすれば、それは自衛隊司令部のある市ヶ谷や横須賀や朝霞でなくては理屈に合わない。なぜわざわざ沖縄に潜伏しているのか。少し考えれば常識で分かるデマである。沖縄の有権者は、こういったデマを一蹴した。
今回の知事選挙でNHKが行なった出口調査の中に、「投票で重視した争点」を有権者に聴いた項目がある。それによると1位が「普天間(辺野古)移設」で34%、2位が「地域振興」の31%、3位が「教育・子育て」の21%、4位に「医療・福祉」14%と続く。
このことからも分かるように、「中国の沖縄侵略」とか「沖縄二紙の問題」は、有権者の中で争点にすらなっていないのである。
こういったネット右翼が叫ぶトンデモ陰謀論的世界観は、中央(東京)から放送される一部の極端に偏向したCS番組や保守系論壇誌、あるいはネットニュースの中で俎上にあがるだけで、実際には「保守」「ネット右翼」という自閉した巨大なサークルの中でしか通用しないジャーゴン(組織内言語)に他ならない。 だから、在沖縄の街頭で行なわれたこのような叫びやSNSでの拡散は、沖縄の有権者にとってノイズとしてしか認識されなかった。
彼らが「なんかトンデモな人たちが佐喜眞氏を応援している」という印象を与え続けたのなら、これは佐喜眞陣営にとって痛打以外の何物でも無い。それを実際に実行したのが、「善意」を以てデニー氏を攻撃し、佐喜眞氏を応援した在沖縄のネット右翼活動家らである。
【8】オウンゴールと沖縄民意の確定
むろん、佐喜眞氏の敗因はこういった外野だけでは当然無い。佐喜眞氏自身も公約として「携帯電話料金を4割値下げ」など、知事の職権では実現不可能とされるアピールを行ない、後に修正したというオウンゴールもある。
しかし、全般的には、デニー氏の圧倒的強さには勝てなかった。故翁長氏に対する県民の想いと、辺野古移設への拒絶感は、中央が想像するよりも遙かに大きかったと判決するしか無い。
ことことに至って、沖縄県民の民意ははっきりとデニー氏の言う「辺野古移設反対」に決定した。民主的選挙で「辺野古移設にNO」が突きつけられたのだから、中央政府は沖縄県民の民主的決定に従い、アメリカに対し「普天間基地の無条件返還」を突きつけるべきだ。「普天間返還の唯一の解決策は辺野古移設」と繰り返してきた日米両政府だが、そもそもトランプ大統領は「在日米軍、在韓米軍は撤退する場合もある」と断言した時期もあった。当のアメリカのトップでさえもその見解が動揺している。
「唯一の解決策」という信仰を捨て去り、「民主的プロセスで辺野古移設は不可能になった」と中央政府はアメリカに通告する義務を有する。それが出来なければ民主主義の根幹が崩壊しかねない。
【9】沖縄保守の静かな憤慨
最後にこの事実を書いておく。冒頭の大広間で、私は或る佐喜眞陣営選対関係者に詰問した。
「どうして、在沖縄のネット右翼活動家らを放っておいたのですか。却って佐喜眞さんの足を引っ張っただけじゃ無いですか」
関係者は、「それは彼らの政治活動の自由であり、私達が強権的に制止することは出来ない」と苦渋の表情で前置きした上で、
「連中、星条旗と日章旗を一緒に掲げて中国の侵略がどうのこうのと・・・。正直、やめて欲しかった。勘弁して欲しかった。冗談じゃないよ」
佐喜眞氏敗北が確定したことも重なってか、関係者の瞳の奥には、ネット右翼への敵愾心とも取れる静かな憤怒を感じた。
沖縄の保守陣営からも、蛇蝎のごとく嫌われるトンデモ陰謀論を訴えるネット右翼は、ネット空間から「選挙」というリアル空間に這い出て、それが「ネット右翼活動家」になった時点で、いかなる陣営にとっても害毒しかもたらさない。そう私は確信した。
しかし、ネトウヨのやっていることといえば、同胞の中に「中国側の内通者」を見出すことに終始しています。そして、いったん「内通者」認定しようものなら、「なぜ彼らが中国側に魂を売ったのか」という経緯に関心を寄せず、彼らを排斥することにのみ注力します。もしかすると、「内通者」の不満の根源を解きほぐせば、彼らを中国側から奪還して祖国の隊列に復帰させることが出来るかもしれないのにも関わらず! また、「内通者」の不満の根源を解きほぐして対策を打てば、今まさに祖国への愛と中国側からの誘惑との間で揺れている動揺層を、祖国の隊列に繋ぎ止められるかも知れません。しかし、ネトウヨにはそのような発想は浮かびさえもしません。
中国との対決において沖縄が地政学的に重要だと言うのであれば、沖縄を日本側に繋ぎ止める必要がありますが、そのためには沖縄県民の声を聞いて、ひとつひとつ丁寧に合意を形成してゆくこと以外に方法はあり得ません。「中国側の内通者さえ排除すれば、残るのは『沖縄県の日本国民』だ」などというのは粗雑な理屈です。なぜ同胞の中から「中国側の内通者」が生まれるのかといえば、それは祖国に対して何らかの不満があるからに他ならず、それは「中国の侵略」に対抗するに当たっては事前に解決しておかなければならない弱点です。しかし、ネトウヨは愚かにもそういう発想には至らず、不満意見の表明に罵声を浴びせかけて黙らせようとし、団結上の弱点を見逃しています。不満の原因は解消されず、次から次へと祖国からの離反者を生んでいます。
さらに述べれば、同胞の間に「敵か味方か」という対立軸を持ち込むことは、「中国の侵略」が差し迫っていればいるほど国内の結束を揺るがせかねない危険要素であり、それはすなわち中国側に付け入る隙を与えます。世論の不安定化が増悪し、日本が更に弱体化しかねません。ネトウヨ連中は「サヨクは『階級闘争』を筆頭に、ありとあらゆる軸を設定して、国内の対立を煽っている」と憤っていますが、自分たちだって同じことをしているわけです。
キム・ジョンイル総書記が指摘されているように、愛国を称するのであれば、仁徳を行動指針とすべきです。キム・ジョンイル総書記は『社会主義は科学である』で次のように仰っています。
わが党の仁徳政治は領袖、党、大衆の一心団結の源となっている。愛情と忠誠にもとづく領袖、党、大衆の一心団結はもっとも強固な団結であり、このような一心団結に根ざしている朝鮮式の社会主義は必勝不敗である。
また、『民族主義にたいする正しい認識をもつために』では次のように教えられています。
金日成同志の大きな度量と気高い人柄に引きつけられて、多くの民族主義者がいまわしい過去に別れを告げ、民族の団結と祖国統一のための愛国の道を歩み出しました。一生を反共で通してきた金九も、晩年には連共へと人生の舵を切り替えて愛国の道を歩むようになり、崔徳新のような民族主義者もまた、金日成同志のふところに抱かれて、愛国者としての生を輝かすことができました。結局、愚かなるネトウヨ連中は、本来であれば「中国の侵略」なるものが迫っていればこそ同胞間で虚心坦懐に意見交換し合って利害調整を進めることで「敵前での結束」を固めなければらない局面で、逆に同胞の中に「中国側の内通者」を見出すことに終始し、「敵前での分断」を自ら進めているわけです。同胞を分断する「内通者狩り」の発想・「闘争」の発想にとらわれています。敵勢力の戦力分割は戦略・戦術の定石。それがオウンゴール的に展開されているのだから、「侵略する側」としては有難いことこの上ないことでしょうw
(中略)
わたしもやはり、金日成同志が明らかにしたように、真の革命家、共産主義者になるためには熱烈な愛国者、真の民族主義者にならねばならないと主張します。人民大衆の自主性を実現するためにたたかう共産主義者は、真の民族主義者になるべきです。自国人民、自民族、自分の祖国のためにたたかう人が真の共産主義者であり、真の民族主義者、熱烈な愛国者なのです。自分の父母、兄弟を愛さない者が国と民族を愛せるはずがないように、自分の祖国と自民族を愛さない者は共産主義者になれません。われわれは金日成同志の国と民族、人民を愛する崇高な思想をそのまま受け継いでおり、幅の広い政治をもって民族の各階層を一つに結束し、かれらを愛国の道へと導くためにあらゆる努力を尽くしています。
ネトウヨのような馬鹿な連中に「応援」されていた佐喜眞候補陣営には、「お気の毒様でした」とお見舞い申し上げる次第であります。