チュチェ107(2018)年も例年どおり、過去ログの読み返しを通して一年間の出来事を振り返りたいと思います。まずは、朝鮮半島情勢について朝鮮民主主義人民共和国(共和国)にスポットを当てて振り返りたいと思います。
共和国にとってのチュチェ107年は建国70周年の年でしたが、(1)国家核武力完成という基盤の上で展開された平和攻勢の一年でした。また、共和国の平和攻勢が大成功をおさめた事実に対して、悔し紛れの無理筋が大規模に展開されましたが、このことを通じて、(2)「朝米関係の行方を占うならば、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国そのものを正面から取り扱うべき」だということが明々白々になった一年でもありました。
この記事では、(1)国家核武力完成という基盤の上で展開された平和攻勢の一年について述べます。(2)については、次の記事に分割して述べます。
振り返り第2弾:チュチェ107(2018)年を振り返る(2)――朝米関係の行方を占うならば、朝鮮民主主義人民共和国とアメリカ合衆国そのものを正面から取り扱うべきだということが明々白々になった一年
■歴史的な急展開を見せた北南関係・朝米関係とキム・ジョンウン委員長の確固たる決意と卓越した外交センス
昨年(チュチェ106・2017年)来の朝米間の激しい対立と緊張は、年明け以降も続きました。1月22日づけ朝鮮労働党政治局決定による朝鮮人民軍創建記念日の変更(40年ぶりに戻す)や2月8日の閲兵式(軍事パレード)は、1月25日づけ「自主独立国家建設の必須的要求である正規軍としての朝鮮人民軍――「2.8建軍節」の意味」や2月11日づけ「BGMから読み解く朝鮮人民軍創建70周年慶祝閲兵式」で論じたとおり、アメリカの脅威・恫喝に屈せず自国の自主と独立をあくまでも守り抜くという決意に満ちたものだったと言えます。
同時に共和国は、韓「国」ピョンチャンで開催された冬季オリンピックへの要人派遣によって北南関係改善の突破口を開き、平和攻勢の機会を逃すことなく3月上旬には韓「国」の「政府」特使団を招待。3月8日づけ「キムジョンウン同志のターン」で述べたとおり、特使団の訪問は徹頭徹尾、共和国側のペースで進んだ模様で、キム・ジョンウン委員長の確固たる決意と卓越した外交センスが光っていました。
その後、韓「国」特使団のアメリカ政府への「ご報告」を受けたトランプ米大統領が朝米首脳会談をぶち上げたことによって、北南関係のみならず朝米関係も歴史的な急展開を見せました。対共和国「圧力」政策に関して最も強硬で頑迷だった日本も、3月11日づけ「各国のメンツが立つストーリーが出揃い、いよいよ朝米首脳会談へ」で取り上げたとおり、「むりやり捻りだした」感が強い理屈ではあったものの、対話局面に入り得るストーリーを編み出すことに成功し、関係各国が対話を突っぱねる動機が一旦はなくなったのでした。
これらの展開について私は、4月21日づけ「「やりたいことはやりきった」というストーリーの延長上に位置付けられる共和国の核実験場廃棄宣言」において、共和国は昨年11月の国家核武力完成によって「やりたいことはやりきった」というストーリーを持つに至り、このことを基盤・スタートラインとして対話攻勢・平和攻勢を展開していると位置づけました。「共和国はまったくブレておらず、従前からの主張を繰り返し続けている」とした上で、にもかかわらずアメリカ側(トランプ大統領)が「非常に良いニュースで大きな進展だ」と称賛したことについて、「現状は「共和国側のペース」と言ってよいでしょう」と述べました。もちろん、共和国は馬鹿ではないので、対話の雰囲気を醸成し平和攻勢を主導しつつも、抜け目なく「わが国に対する核の威嚇や核の挑発がない限り、核兵器を絶対に使用しない」と述べていました。依然として警戒心を緩めない共和国の老熟した外交交渉に全世界が注目しました。
■アメリカの「首脳会談中止」カードを斬って返した共和国
しかしながら5月以降、アメリカ政府内部の「リビア方式の非核化」に拘る一部の頑迷な政府担当者の発言や、相変わらずの米「韓」合同軍事演習の展開など、対話局面とはそぐわないアメリカ側の言行不一致的な行動によって徐々に朝米両国間の溝は拡大。双方から批判の応酬が始まり、ついに5月24日にはアメリカ側が「首脳会談中止」を発表するに至りました。電撃的な首脳会談決定に続く電撃的な中止に、世界は2度驚かされました。そして、舌の根も乾かぬうちの「やっぱり開催」の発表。3度世界は驚かされました。
このジェットコースター的な駆け引きを振り返ると、これもまた共和国側の外交術の鮮烈さに感服せざるを得ません。
5月17日づけ「筋を通し公開的に言質を取った共和国」で論じたとおり、共和国は、対話局面で北侵演習を展開するという非常識な行動を理由に北南閣僚級会談を中止し、いわゆる「リビア方式」に拘る一部政府関係者の件も交えて、朝米首脳会談について再考をチラつかせました。これは当然です。体制の安全保障が至上命題である共和国にとって、いったん丸腰になる「リビア方式」は決して受け入れられるものではなく、そんな交渉に参加する意味はありません。日本国内の報道でさえ、面と向かって共和国を擁護することはしない(できない)ものの、共和国側の「大国に国を委ねて崩壊したリビアやイラクの運命をわが国に強要しようとしている」という発言を編集・カットせずにそのまま伝えたり、海外識者・専門家の解説を引用したりする形で、「リビア方式」を朝米交渉に持ち込むことのの無茶さを報じていました。
これに対してアメリカ側がいち早く軌道修正を試みました。ホワイトハウスのサンダース報道官は、「リビアモデルは我々が採用中のモデルではない」と弁明しました。また、「もし会談が開催されないなら、我々は最大の圧迫戦略を継続していく」という発言も引き出しました。これは「ただちに軍事行動に移るつもりはない」ということを意味します。共和国は、機を捉えた絶妙な揺さぶりでアメリカ側から是非とも引き出したかった言質を獲得したのでした。そしてまた、「『対話のための圧力』は、対話を台無しにし得る」という教訓を残しました。今後、アメリカが再度圧力路線に回帰したとしても、この前例がある以上は、抑制する力が働くことでしょう。
アメリカ側が仕掛けた「首脳会談中止」という危機への共和国側の対応も見事でした。5月26日づけ「「寛大さ」と「アメリカの無茶の被害者としてのワタシ」を描き出すキム・ゲグァン談話の戦略性」で論じたように、共和国外務省は、いつになく抑制的な調子を採用して「寛大さ」を強調しつつ、同時に行間に「哀しみ」を漂わせる談話を第1外務次官名義で発表することで、「アメリカが無茶を言ってきて困るんですよ・・・」という被害者としての振る舞いを見せ、「分からず屋のトランプ坊やを諭している」構図を描き出しました。
アメリカ側に対して一定程度の配慮を見せる寛大な論調の談話が、「我々も可能な限り妥結に向けて努力してきたが、やはりアメリカは頑なだった」という、今回に限らず今後もしばらく使えるストーリーを創り上げたのです。折しも5月中旬以降、News Week誌やBBC放送が「トランプ政権が無茶を吹っかけてノース・コリアを困らせている」という構図の記事を書き始めていました。時機を捉えた見事な斬り返しです。
「首脳会談中止」がアメリカの揺さぶりであることは明らかです。朝米首脳会談開催が決まってからというもの、朝中関係が中国が完全に共和国の後見人となる形で劇的に改善され、北南関係も共和国主導の形で改善されました。巻き返しを狙ったアメリカ側は、「首脳会談中止」という特大級のカードを切ってみたものの、その目論見は崩れ去ったわけです。見事と言うほかありません。
■初回会談としては十分に目標を勝ち取りつつ油断なさらないキム・ジョンウン委員長
「やっぱり開催」の方向性が確定してからというもの、ますます情勢は共和国側に有利に傾きました。6月3日づけ「朝米首脳会談中止騒動で共和国が得たもの」において私は、約1週間にわたって展開された「中止騒動」を振り返りました。相手がトランプ大統領であるとはいえ、「キム委員長が権力の座にとどまったままでも北朝鮮の変革は可能だ」や「時間をかけても構わない」、「圧力は継続するが、『最大の圧力』という言葉を金輪際、使いたくない」という言質を取ったことは重要でした。共和国は、アメリカ側から仕掛けられた揺さぶりをも斬ってかえし、国益を確保しました。結果的に見て、共和国側がどうしてもアメリカ側の口から言わせたかったセリフを言わせることに成功したのでした。
結局、事前の有利な情勢はそのまま持ち越されました。6月12日の朝米首脳会談では、6月12日づけ「수령님、장군님が果たせなかった偉業を、遺訓を果たされた원수님 수령님、장군님が生涯をかけて注力されてきた偉大な遺産の賜物」でまとめたように、共和国側は共同文書へのCVIDの明記を回避して「朝鮮半島の完全な非核化」という表現を勝ち取りました。アメリカ側から安全保障の言質を取り付けました。米「韓」軍事演習中止という台詞を引き出しました。制裁解除は叶わなかったものの、ここ最近、自ら「自力更生」を連呼していた点、共和国側は今回の会談にそこまでの期待はしていなかったものと推察されます。キム・ジョンウン委員長は初回会談としては十分に目標を勝ち取ったと言えます。
大いなる快挙でありつつも、6月13日づけ「朝米首脳会談を報じる朝鮮中央通信配信記事から読み取る「要点」」で指摘したとおり、米「韓」合同軍事演習が「無条件の中止」ではなく「朝米間の善意の対話が行われている間」という限定付きである点を共和国側は十分に理解して、それを自国民にも伝えている点、依然として油断しておらず、さすが共和国であると言えます。そしてまた、アメリカ側が朝米関係の改善のための真の信頼構築措置を取る限りにおいて自分たちも追加的な措置を取ると宣言し、ボールはアメリカ側にあるという構図を描きました。
アメリカが米中貿易戦争や中間選挙対策で忙しかったこともあり、12月31日現在で第2回朝米首脳会談は開催されていませんが、依然として対話局面は続いており、開催が前向きに模索されていると報じられています。しばらく時間が空いてしまったため、6月時点での共和国に有利な情勢がそのまま続いているとは言い難いものの、不利に転落したという事実もありません。有利かは分からないが不利ではない現状を今後どのように活用してゆくのか、今後の共和国の外交手腕に注目です。
■総括:軍事力の担保があるからこそ外交交渉が成り立つ好例、共和国の歴史における苦労が報われた勝利の証
朝米首脳会談までを振り返ると、11月29日づけ「チュチェ朝鮮の戦略的地位を最上の境地に引き上げた国家核武力の完成1周年」でも論じたとおり、これは、国家核武力完成をスタートラインとしていると言えます。軍事力の担保があるからこそ外交交渉が成り立つ好例であると言えます。
共和国の国家核武力完成は、他の国であればたったの一日も耐えられない前代未聞の困難な試練と難関を一歩も退かずに乗り越えて達成したものですが、ここにおいては、首領・党・大衆の一心団結、すなわち、思想の団結と社会・政治の組織的な団結構造が最大の秘訣であったと言えます。
9月30日づけ「김정은위원장 문재인대통령과 백두산에 오르시였다」で言及したとおり、キム・ジョンイル総書記は、チュチェ84(1995)年1月1日発表の≪당의 두리에 굳게 뭉쳐 새로운 승리를 위하여 힘차게 싸워 나가자≫(党のまわりに固く団結し新たな勝利のために力強くたたかっていこう)において、「わが党には自己の指導者に忠実な中核が多くいます。党に忠実な中核がわたしを積極的に支持し助けてくれるので、キムジョンイル将軍も存在しているのです。一人では将軍になることはできません。わたしは中核の知恵をまとめて、彼らに依拠して政治をおこなっています。」と仰っています。
総書記のご指摘は、政治権力の本質を主体的立場から言い当てています。為政者や政権与党というものは、自己・自派の政治的ビジョンを貫徹させるべく社会を動かそうと努力するものですが、多くの国では「政権機関・行政機関を動かす」ようには「社会を動かす」ことはできないものです。政権機関や行政機関を意のままに動かすことはできても社会そのものを直接的に意のままに動かすことはできないのが一般的です。これは、社会そのものは、為政者や政権与党が意のままに操れるほど結束していないし、指揮系統が組織化されていないのが一般的だからです。
その点、共和国が、他の国であればたったの一日も耐えられない前代未聞の困難な試練と難関を一歩も退かずに乗り越えて国家核武力を完成させた事実の背景、数十年来のビジョンが貫徹された背景には、世界にまたとない思想的にも組織的にも高度に結束した共和国の姿があると言えるでしょう。首領・党・大衆の一心団結、すなわち、思想の団結と社会・政治の組織的な団結構造が最大の秘訣であったと言えるのです。この歴史的偉業は、偉大な指導者の周りに千万軍民が一心団結したがゆえの偉業なのです。
思想の団結と社会・政治の組織的な団結は、チュチェ思想においては重要テーマです。偉大な指導者の周りに千万軍民が一心団結したがゆえの国家核武力完成という歴史的偉業は、同時に、チュチェ思想の偉大な実践的成果であるとも言えるでしょう。
国家核武力完成は、共和国の戦略的地位を更に高め、帝国主義者たちの横暴無道な核恐喝を終わらせ、帝国主義者たちを対話と交渉のテーブルに着かせました。また、安全保障が確立されたがゆえに、共和国は社会主義経済建設に全力を集中できるようになり、革命の前進速度をさらに加速していくことができる断固とした担保ができました。
朝米首脳会談の開催は、先軍政治を含む共和国の路線がついに結実したものであり、共和国の歴史における苦労が報われたことを意味します。建国70年目の象徴的出来事は、首領・党・大衆の一心団結;思想の団結と社会・政治の組織的な団結構造の賜物であり、これはチュチェ思想の偉大な実践的成果であります。この歴史的偉業は、勝利の証だったのです。
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