2019年02月02日

労組運動に、より大きなスケールを意識した視点が定着しつつある吉兆

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20190107-00110361/
「ブラック私学」でストライキ! 私学に蔓延する違法状態は改善できる
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
1/7(月) 12:33


(中略)

理事長への朝6時半からの早朝挨拶をストライキ!

 以上のように問題が山積している同校の職場だが、その中でも組合員らが特に許せないことは、法律が守られない、正当な評価や対価が無いことに加え、毎朝6時半から始まる理事長への挨拶の慣行だという。

 数十人の教職員全員が理事長室の前の廊下に一列に並び、一人ひとり理事長に挨拶をするという「儀式」である。もしこの早朝の儀式がなければ、授業準備・教材研究や、生徒に向き合ったり、自分の体を休めるなど、様々なことに時間を使えるだろう。

 この「無益なサービス労働」の強要に対して、組合員の先生たちは我慢の限界を超えたという。

 そして、理事長への「早朝挨拶の儀式」をストライキすることを決意したのである。

 この経緯からわかるように、同校の先生たちは、単に自分たちの待遇改善を求めているのではない。

 彼らは、早朝挨拶儀式ではなく、生徒のために時間を使いたいのだ。学校の民主化・健全化をし、理事長の利益のためではなく、生徒の教育のための学校作りを目指している。

 私立学校に限らず、保育や介護といった「利用者」がいる業種では、労働者が「責任感」から劣悪な環境に耐えてしまうことが多い。しかし、結局、長時間労働や残業不払い、細切れ雇用が続けば、「サービスの質」を保つことはできない。

 今回のケースのように、「生徒や利用者」のためを思えばこそ、あるいは学校そのものをよくしたいと思えばこそ、先生方は「労働法上の権利」を行使すべきだということもできるだろう。


(以下略)
■「順法闘争」連呼から「単に自分たちの待遇改善を求めているのではない」へと進歩した今野晴貴氏
ストライキを敢行した同校教職員がそう言っているのをそのまま伝えている(と思われる)とはいえ、今野晴貴氏がいつもの妙なコジツケに走らずに「同校の先生たちは、単に自分たちの待遇改善を求めているのではない」や「早朝挨拶儀式ではなく、生徒のために時間を使いたいのだ」とそのまま言及したことについて私は「今野さんも変わったなー」と思いました。

当ブログでは、今野氏についてはときどき取り上げていますが、昨年4月25日づけ「消費者には影響を及ぼさないタイプのストライキの原則的推奨と消費者直撃が例外的に正当化されるケースについて」と同5月20日づけ「ここまで話を膨らませられるのは、ある意味すごい」では、東京駅における自販機への飲料水等補充にかかるストライキについて、消費者・顧客直撃型の戦法を取っているにもかかわらず、そのことについて一切触れず、それどころか「順法闘争」という不吉な単語(駅=鉄道だけにねぇ・・・)を連発している姿を批判的に取り上げました。ほぼ同時期に敢行された両備グループ(岡山県の交通事業者)の2労組が展開した集改札ストが、バス等を通常どおり運行する点において消費者・顧客には影響を及ぼさない一方で、集改札ストである点において経営側には打撃を与え組合側の要求の実現を迫っておりスマートなストライキであったのと対比させました。消費者・顧客直撃の方法論を取っているにも関わらず、そのことについて言及していない点において、昨年春の時点での今野氏は、労使対決にしか意識が向かっていないことが推察されました

昨年の総括記事でも改めて強調しましたが、以前から何度も繰り返し指摘しているとおり、「システムとしての市場経済」という現実・事実から出発しなければなりません。一企業の労使は顧客(消費者)との関係においては「一つの事業システム」であり「呉越同舟」の関係にあります。この事実を直視し「顧客を敵に回してはならない」ということを十分に承知した上で戦術を練らなければ、「呉越もろとも沈没」という末路を辿ることになり、結局は労働者自身の首を絞めることに繋がります。自分たちの待遇改善を目指すのは正当な権利追求ですが、やり方について熟慮しなければ、結局は自分たちの首を絞めることになるのです。

あれから半年以上の歳月が過ぎました。冒頭でも述べたとおり、「今野さんも変わったなー」。労働環境とサービスの質を関連させ、ストの目的をあくまでも「サービス受益者=生徒たちのため」と位置づけ、「期間中のサービス提供を見境もなく完全に停止させる」といった従来型の消費者・顧客直撃型ストではなく「理事長への早朝ご挨拶に対するスト」にとどめる・・・「順法闘争」を連呼していた今野氏が「顧客を敵に回してはならない・顧客への影響は極力避けなければならない」という立場に至ったようです。ようこそお越しくださいました!

集改札ストを選択・敢行した両備グループについて私は、昨年の総括記事において僭越ながら、「利用者・消費者が置き去りにされがちだった労働争議からの進歩、「労使の対立」ばかりに気を取られ「生産業者と消費生活者の関係」を見落としがちだった労組運動に、より大きなスケールを意識した視点が導入されつつある進歩の吉兆」と位置付けて支持しましたが、今野氏についても認識を新たにする必要がありそうです。

■労組運動に、より大きなスケールを意識した視点が定着しつつある吉兆
労働環境とサービスの質を関連させることは重要な視点です。

ミクロ経済学でおなじみの供給曲線の本質が「生産者の受け取り下限価格(売価下限)とそれに対応する供給量の軌跡」であり、完全競争市場においては限界費用曲線であることからも明らかなとおり、消費者・顧客にとって価値ある財・サービスを提供するに当たっては、生産者に対して一定水準の報酬・待遇を用意する必要があるわけです。顧客志向と待遇改善を両立する必要があります。ここに加えて「社会一般への貢献」も考えておきたいところ。日本には「三方よし」という言葉がありますが、大切なところを的確に捉えた言葉です。

私は今まで、「三方よし」の観点から労働問題、そして国の社会経済的在り方を考えねばならないという立場に立って来ました。それゆえに「システムとしての市場経済」という見方の重要性を説き、階級二分法的発想に立つ従来型の労組活動家たちの粗雑な「ストライキのススメ」を批判してきました。

同校の先生たちは、単に自分たちの待遇改善を求めているのではない」「早朝挨拶儀式ではなく、生徒のために時間を使いたいのだ」――日本労働界において影響力をもつ今野氏がこう仰ったことは、私はたいへん良かったと思います。「労使の対立」ばかりに気を取られ「生産業者と消費生活者の関係」を見落としがちだった労組運動に、より大きなスケールを意識した視点が定着しつつある吉兆だと言えるかも知れません
posted by 管理者 at 23:45| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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