「バイトテロ」は訴えても抑止できない、3つの理由「バイトテロ防止のための昇給」については、2月10日づけ「賃金のせいなの?」において、NPOほっとプラス代表理事で聖学院大学人間福祉学部客員准教授の藤田孝典氏の言説を懐疑的に検討する形で取り上げました。藤田氏は、「賃金を上げれば、アルバイターたちが改心して仕事にやりがいを持つようになり、勤め先に愛着を持って熱心に働くようになるはず」といった具合に賃金を服務規律遵守精神の主要変数とした位置づけ、昇給が「ロクデナシ」の改心のキッカケになると論じていますが、賃金と服務規律遵守精神との関数的対応関係は、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは言い難いと思われます。
2/12(火) 8:27配信
(中略)
低賃金は「バイトテロ」のリスク要因
「出た! 何かとつけて賃金上げろ、賃金上げろ病。人として最低限のルールを守られないバカどもが問題であって、賃金など一切関係ない!」と怒りでどうにかなってしまう方もいるかもしれないが、賃金を上げるだけでも、「バイトテロ」のリスクはかなり軽減できる。
学生がバイトを選択する際に重視するのが、「勤務日数・時間・シフト変更・休みの融通がきくこと」とともに「給与が高いこと」というのは、「anレポート」の調査でも明らかになっている。つまり、給与を上げれば、それだけ人が集まるので、企業の採用活動と同様に優秀な若者に働いてもらえるということなのだ。
逆に言えば、給与が低いと、優秀な学生バイトは集まらないということでもある。さりとて、店は人手不足なので誰かを雇わないといけない。選り好みはしてられないので、面接時に言動がおかしな者、素行の悪そうな者でもサクサクと採用をしなくてはいけないのだ。
そういう危ない若者でもとにかく働いてくれるだけでもありがたいので、立ち振る舞いや社会常識などを口うるさいことは言えない。辞められたら明日からどうシフトを回せばいいのかという心配が先にきてしまうからだ。
つまり、低賃金は「バイトテロ」のリスクファクターとなっているのだ。
(以下略)
今回の引用記事において窪田氏が主張していることは、「バイトテロ防止のための昇給」という点において表面的には藤田氏の主張と同一に見えることでしょう。しかし、窪田氏は、「給与を上げれば、それだけ人が集まるので、企業の採用活動と同様に優秀な若者に働いてもらえる」、つまり、「労働供給の増加によってロクでもない輩が競争淘汰されるようになるので、バイトテロを敢行するような輩を弾くことができるはず」と言っています。この点において、藤田氏の主張と窪田氏の主張は、根本的にまったく異なる論理構成であります(よくよく記事を読むと窪田氏は、低賃金労働者をかなりバカにしている書きっぷりですよね)。
経済理論的に考えれば、窪田氏の主張は、「高い買取価格を提示することによって売り手の市場参入を増やし、競争を激化させ、低品質の商品を競争淘汰する」という意味で正しいと言うべきでしょう。「賃金を上げれば、売り手の市場参入が増えるので競争を激化され、結果的にロクデナシが競争淘汰されるはず」というわけです。
しかし、現実問題として考えたとき、前回記事でも指摘した「賃金と服務規律は関数的対応関係にあるのか?」という疑問を依然として投げかけざるを得ません。理論空間ではすべての商品に関するすべての情報が価格に凝縮されているとされるので高価=高品質という対応関係が成立しますが、現実問題としては疑わしいでしょう。
また、理論空間と異なり現実空間では、商品の売り手と買い手との間に情報の非対称性があります。応募者について採用側が持ち合わせている情報は乏しく短時間の採用面接で合否を判定しなければならないのが通例です。高い賃金提示に釣られるのは「優秀な若者」ばかりではなく、ロクでもない輩が上手いこと自分を売り込んで採用を勝ち取るというケースは、実例を鑑みても十分に考えられるところです。単に賃金水準を操作するだけでは、必ずしも品質の向上にはつながらないでしょう。ロクでもない輩を見抜くことはできるのでしょうか?
公然の秘密ではありますが、優秀な若者を採用したがっている企業の採用活動においては、「学歴フィルター」が横行しています。単に高賃金を提示して広く募集をかけるだけでは、確かに応募は増えるでしょうが箸にも棒にも引っかからないような連中も大挙して応募してくることでしょう。それゆえ企業は、「高学歴であれば人材として優秀なはず」という前提の下、「学歴フィルター」を掛けているわけです。
藤田氏の「賃金を上げれば、アルバイターたちが改心して仕事にやりがいを持つようになり、勤め先に愛着を持って熱心に働くようになるはず」という苦しい想定に対して、窪田氏の「賃金を上げれば、売り手の市場参入が増えるので競争を激化され、結果的にロクデナシが競争淘汰されるはず」は、上述のとおりの疑わしさは残るものの、藤田氏のそれと比べれば遥かに現実味のある想定です。安定した企業経営のためにこそロクでもない従業員を競争淘汰する必要があり、そのためにはある程度の待遇を用意しなければならないというわけです。
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