自民党職員の改憲ソングに漂う“軽さ” 国家の規範も「もう替えよう」?現憲法を「子どもの服」にたとえ、「♪いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう♪」とする発想――まさしく唯物史観(史的唯物論・マルクス主義史観)的な発想であり、それに対する九大法学部の南野森教授の批判、そして何よりも文筆家・平川克美氏の「憲法には先人たちが積み上げてきた歴史的な英知が反映されている」の批判は、保守主義的発想というべきものです。
3/3(日) 12:00配信
毎日新聞
♪憲法なんてただの道具さ♪ 憲法を改正しようと高らかに歌う「改憲ソング」が、2月に発売された。企画したのは自民党本部の職員で、自身が歌っている。「個人の作品で、自民党とは無関係だ」と強調する。耳になじみやすいメロディーだが、曲全体に漂う「軽さ」は何だろう。歌を聴いて、安倍晋三首相が目指す改憲路線を考えてみた。【江畑佳明/統合デジタル取材センター】
◇現憲法は「子どもの服」か
タイトルは「憲法よりも大事なもの」(CDシングル、1080円)。2月6日に発売された。アマゾンなどで購入でき、動画投稿サイト「ユーチューブ」でも視聴できる。
メロディーはややアップテンポのフォーク調で、なじみやすい。問題は歌詞だ。
♪いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう♪
と、まずは改憲の必要性を訴え、サビの部分で、こう呼びかける。
♪憲法なんてただの道具さ 変わること恐れないで 憲法よりも大事なものは 僕たちが毎日を幸せに安全に暮らすことさ♪
(中略)
◇南野さん「安倍改憲路線に合致」
改憲ソングを、専門家たちはどう見るのか。
九州大法学部の南野森(みなみの・しげる)教授(憲法)は「『憲法は道具』という表現は、確かにその通りです。憲法は国民を幸せにするためのものだから」と一定の理解を示しつつも、「いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう」の部分を「憲法のたとえとしては不適切だ」と批判する。
「本当に改憲したいなら、どの条文をどのように変えたいかの具体的な訴えがあってしかるべきだ。『もう着替えよう』からは『時代が変わったし、細かいことは考えなくていいから……』というニュアンスを感じる。憲法について真剣に考えているのか疑問です」と首をかしげる。その上で、南野さんは改憲ソングを「安倍首相がこれまで唱えてきた改憲論の延長線上にある」と指摘する。
(中略)
◇平川さん「憲法の精神の無視」
「憲法のコモディティー(商品)化だ」と懸念するのは文筆家の平川克美さんだ。「グローバリズムという病」(東洋経済新報社)などの著書がある。
平川さんは、服のたとえの部分を問題視している。「例えば『パソコンが古くなったから新しく買い替えよう』というのと同じ発想だ。憲法には先人たちが積み上げてきた歴史的な英知が反映されている。『時代が変わったから』というような短期的な理由で、国家の規範が変更されないために憲法が存在している。そういう基本的な憲法の精神を無視している」と批判する。
そして「この『買い替えよう』という考え方は、経済発展を遂げた日本で受け入れられやすい。簡単に改憲していいという風潮が広がる可能性がある」と憂慮する。
(以下略)
統一教会系の国際勝共連合は昔っから反共に熱を上げ、その一環として彼らの共産主義理解を開陳していますが、最近では『ほぼ5分でわかる勝共理論』なる動画シリーズを量産しているようです(本当に5分で分かるのではなく、1回5分程度の動画シリーズの模様)。そこで理解されている(勝共流の)唯物史観の発想は、まさに今回ネタになっている自民党職員の改憲ソングの発想と通底しています。すなわち、以下。
https://www.kogensha.jp/news_app/detail.php?id=2333
やがて、生産力がさらに向上すると、奴隷制度が逆に発展の妨げになってきました。労働者が奴隷のままでは効率が悪過ぎます。技術も発展しません。奴隷制度が時代に合わなくなってきたというわけです。それで、体が成長して服が小さくなったら新しい大きな服へと変えるように、社会は次の時代に発展しました。「生産力の向上」という物質的な変化によって、人間の意志とは関係なく社会が発展したというわけです。社会の発展を「体が成長して服が小さくなったら新しい大きな服へと変えるように」と喩える勝共流の唯物史観の理解・発想と「♪いつまでも同じ服は着られない 大人になったらもう着替えよう♪」という自民党改憲ソングの発想。実によく似ています。
唯物史観の発想は、「社会は人間の意志とかかわりなく自然史的に発展してゆくのだから、科学の力を駆使して社会発展を把握し、人間がそれに合わせて諸制度を科学的・人工的に変革して行かなければならない」という結論に容易に至る発想ですが、それに反対する筆頭格が伝統主義・保守主義です。その核心的主張は、「生身の人間の『理性』や『科学』の力などタカが知れており、単なる『思い付き』の域を脱しないであろう。幾世代にも渡る試行錯誤の上で形成されてきた伝統的方法論は、先人たちが積み上げてきた歴史的な英知の結晶だから、これに依拠するべきだ」といったところになります。
その点、記事中で紹介されている「憲法には先人たちが積み上げてきた歴史的な英知が反映されている。『時代が変わったから』というような短期的な理由で、国家の規範が変更されないために憲法が存在している。」という文筆家・平川克美氏の批判は、保守主義的発想と通底していると言えます。
保守政党と言われる自民党の職員が、勝共流とはいえ唯物史観的な発想に基づく改憲ソングを作る。それに対する3人の識者のコメントを掲載する上掲毎日新聞の批判記事では、うち2人が保守主義的発想を基点としている(革新主義的な批判コメントが掲載されていない点に注意!)。保革逆転というべき様相です。
ところで、毎日新聞批判記事の批判ロジックでいくと、「体が成長して服が小さくなったら新しい大きな服へと変えるように、社会の下部構造は次の時代に発展するので、それにあわせて諸制度を科学的・人工的に変革すべし」という唯物史観にもとづく社会変革論も、「『時代が変わったから』というような短期的な理由」に基づいている点において、「先人たちが積み上げてきた歴史的な英知」を軽視するもの、つまり、「唯物史観にもとづく社会変革論は『軽い』」という話になりそうです。保守主義がまさにそういう発想ですが、毎日新聞でこんな理屈を見ることになるとは思わなかった。。。
ラベル:政治