2019年06月16日

膠着状態を打開せんとするキム・ジョンウン委員長の先手、そして日本

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190613-00033658-hankyoreh-kr
「6・12」1周年に送られた金委員長の手紙…朝米の膠着の突破口なるか
6/13(木) 7:48配信
ハンギョレ新聞

トランプ大統領「先ほど美しい手紙が届いた」 「何か起きると思う」 朝米の膠着状態にもかかわらず首脳間の疎通は維持 ムン特別補佐官「新しい可能性が開かれたのでは」
 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長がドナルド・トランプ米大統領に6・12シンガポール首脳会談1周年を機に親書を送った事実を、トランプ大統領が11日(現地時間)に公開した。2月末にハノイで開かれた第2回首脳会談が成果なく終わった後も、首脳間の信頼と対話の意志が続いていることを示したものだ。今月末に韓米首脳会談を控えた時点でもあり、朝米の膠着状態に突破口が開かれるかどうかに注目が集まっている。

 トランプ大統領はホワイトハウスで、記者団が「今月末の訪韓時に金正恩委員長と会う可能性」を問うと、「金委員長から先ほど美しい手紙が届いた」とし、「関係は非常に良いと思う。手紙に感謝する」と答えた。彼は「我々は非常に良い関係を保っている」と強調したうえで、「昨日届いた手紙でそれを確認することができる」と述べた。 彼は伝達経路と内容は明らかにせず、「非常に個人的で、とても温かく、とても素敵な手紙」だと述べた。

 トランプ大統領はまた「北朝鮮がとてつもない潜在力を持っていることを、誰よりも感じている人が金正恩委員長だ。彼はそれを完璧に知っている」と語った。「私がここに来たときは深刻な状況だったが、その時とは異なり、今は核実験もなく、重大なミサイル実験もない」と再び強調した。さらに「私は何か起きると思う。大変肯定的なことであろう」と述べた。

 ハノイでの「ノー・ディール」以降、朝米間で、それも首脳間の書簡接触が公開されたのは、今回が初めてだ。朝米はハノイの会談後、互いに「計算法の転換」と「完全な非核化」を要求し、5月初めの北朝鮮の短距離ミサイル発射と米国の北朝鮮の貨物船差し押さえの発表で対立するなど、神経戦を繰り広げてきた。しかし、6・12の首脳会談1周年に合わせた親書は、両首脳が互いに変わらぬ信頼を持っており、トップダウン方式の対話のモメンタムがよみがえる可能性を示している。


(中略)

 しかし、朝米が「非核化と相応の措置」に関する見解の隔たりを埋めるまでは、時間がかかるものと見られる。トランプ大統領は、3回目の朝米首脳会談の可能性に関する記者団の質問に、「実現する可能性もある。しかし、私はもう少し先のことにしたい」と話した。北朝鮮がより大胆な非核化の決断で「ビッグ・ディール」に応じるべきという立場を固守したものと受け止められる。ホワイトハウスのジョン・ボルトン国家安保補佐官も、ウォールストリート・ジャーナル主催の行事で、3回目の朝米首脳会談について「全面的に可能で、まさに金正恩委員長がカギを握っていると考えている」とし、ボールを北朝鮮に渡した。彼は「彼らの準備が整った時、私たちも準備も終わるだろう」と述べた。

 北朝鮮も「寧辺(ヨンビョン)核施設の廃棄と核心的な制裁の解除を交換しよう」という従来の立場を変えた兆候は見られない。統一研究院のホン・ミン北朝鮮研究室長は「北朝鮮は米国に物乞いするような態度は見せないと言ってきた」とし、「金委員長は親書で『早期の首脳会談を望む』などの政治的メッセージは排除し、極めて個人的な親交を強調したものと推測される」と話した。

ワシントン/ファン・ジュンボム特派員、キム・ジウン記者

最終更新:6/13(木) 7:48
ハンギョレ新聞
■これぞ「ジャパン・パッシング」
ハノイ会談以来の膠着状態を打破すべくキム・ジョンウン共和国国務委員長が先手を打たれました。具体的な動きはまだ見えてこないので論評はできませんが、対米関係改善の強い意欲を感じるところです。そしてまた、共和国の眼中には「本丸としてのアメリカ」しかないことが改めて判明しました。必要や目標に対して回り道せずにダイレクトにアタックしてゆく共和国の御国柄がよく現れています。

このことはすなわち、仲介役をかって出た安倍首相の面目がつぶれたことを意味します。

ここ最近、安倍首相は急に「無条件で会う用意がある」などと不気味な転向を見せました。ハノイ会談がノー・ディールに終わり、キム・ジョンウン委員長の訪露についても報じられる範囲内では目覚ましい成果があったとは言い難いことを受けて、自分もプレイヤーの一員だと思い込んでいる日本政府が「今なら存在感を出せるかも!」と踏んで勇み出てきたのです。短距離ミサイルを打たれても「無条件に会う」と言い、チュチェ91(2002)年の朝日首脳会談以来、共和国が抱き続けている対日不信感(日本政府は世論を盾にする)を払拭すべく世論調査を持ち出して雰囲気を盛り上げようと画策してきました。

しかし、共和国は日本を仲介とせず直接アメリカとコンタクトを取りました。これぞ「ジャパン・パッシング」。これは第一に、日本の対米影響力の無さを見抜かれているということ、第二に、参議院選挙前の安倍首相にとっては会談の開催自体が得点になるがキム・ジョンウン委員長にとってはそれだけでは得点にはならず、共和国が是非とも手に入れたいものは日本ではなくアメリカが持っているということ、そして第三に、日本を介して伝言ゲームをするくらいなら直接アメリカと話した方がよいということ、によると思われます。

キム・ジョンウン
委員長が今回お送りなさった手紙が今後の朝米関係改善においてどのような役割を果たすのかについては、現時点では不明であると言わざるを得ませんが、朝日関係の現状を明らかにする役割は果たしたといえるでしょう。共和国は日本を相手にしていないということです。

■「対話は北朝鮮の時間稼ぎにしかならない」じゃなかったの?
今回のキム・ジョンウン委員長の手紙についてトランプ米大統領は「とても素敵な手紙」と述べ、また、「今は核実験もなく、重大なミサイル実験もない」としています。先日の新型短距離ミサイル発射は制裁強化に値するものではなく、また、いまの対話雰囲気に水を差すものでもないという認識を示した格好です。この1年間、ときに政権内部の意思統一を怪しむくらいまでにトランプ政権幹部たちはアレコレと好き勝手なことを口にしてきましたが、トランプ大統領自身そして政権としての基本方針は、ほぼ一貫してこの調子でした。日本メディアの報道を見ていると、トランプ大統領はリップサービス担当で政権の本音と方針はボルトン補佐官が口にしているといった構図が描かれがちですが、すこし引いて見てみると、決してそのようなことにはなっていません。

ところで振り返れば、朝米会談が初めに現実的日程として浮上してきたとき、日本国内では「対話は北朝鮮に核・ミサイル開発の時間的余裕を与えるだけ。トランプさん、会談予定を撤回してください!」といった言説がかなり広範に広まっていました。一刻も早く軍事行動に移らなければ、核・ミサイルが量産・実戦配備されてしまい正真正銘の核武力保有国になってしまうというわけです。対話より「斬首」、膠着状態も核・ミサイル開発の時間的余裕に繋がるので、とにかく一分一秒も早く「斬首」という主張が声高に展開されていたものです。

ところが最近の世論動向をみると、「斬首」という主張がすっかり鳴りを潜め、むしろ膠着状態を歓迎するような言説が主流になっているように見えます。1年前あれだけ評判が悪かったトランプ大統領の「急がない」姿勢も、彼自身は少しも変わっていないのに日本世論における評価は大きく変わってきています

いま現在の膠着状況は、秘密裏の継続核開発・継続ミサイル開発にとっては時間的猶予になるものです。実際、共和国が新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の実験準備を進めているという報道が出てきました。日本世論の1年前の指摘は、「まったくの悪意的言いがかり」というわけではなかった格好です(あくまでも「停戦中の対話局面」に過ぎず、戦争が正式・完全に終結したわけではないのだから、どのように転んでも対応できるように共和国が軍事面でも備えておくことは当然でしょう)。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190614-00080026-chosun-kr
(朝鮮日報日本語版) 北朝鮮、新浦でSLBMの発射実験を準備か
6/14(金) 10:20配信
朝鮮日報日本語版

 北朝鮮が、新浦造船所で新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)実験を準備している状況が捕捉された。

 米国の北朝鮮専門メディア「38ノース」は12日(現地時間)、「新浦造船所で、また別の新浦級弾道ミサイル潜水艦(SSB)の可能性のある潜水艦の建造が続いている様子が分かる」として、このような内容を明らかにした。

 「38ノース」は、最近撮影された商業衛星写真を根拠として、船舶の係留場に今年4月11日から5月5日までクレーンと推定される物体12基が一定間隔で設置されているなど、変化があったことを示した。その上で「これらのクレーンは、潜水艦のハッチや(SLBMの)水中発射のためのフローティングドック(はしけ)に、軽量の部品や装備を降ろせるようにする役割を担っていると考えられる」と記した。


(中略)

 韓国国防安保フォーラムのシン・ジョンウ事務局長は「北朝鮮は新型の水中戦略弾道弾『北極星3号』の図面などを意図的にさらしてきた。SLBM実験用フローティングドックの動向は、新型SLBM実験の準備の可能性とともに、米国を圧迫しようとする意図があるとみられる」と語った。

最終更新:6/14(金) 11:15
朝鮮日報日本語版
この報道が出ても日本世論の膠着歓迎風潮に特段の変化はみられていません。モタモタしていると新型SLBMが試験発射されてしまうにも関わらず! あれだけ自分たちが声高に主張してきたことをケロリと忘れてしまい、新型SLBMの脅威がますます深刻化しているにも関わらず無反応になり、発射実験をみすみす見逃しそうになっているのです。

これはおそらく、シンガポール会談が予想以上にキム・ジョンウン委員長有利の結果に終わって以降、日本世論の関心は、「北の脅威」の具体的深刻化よりも「大嫌いな北朝鮮が困っている姿を見たい!」の一心に凝り固まってしまったことによると思われます。いま現在の膠着状況は、一方において経済封鎖解除を求める共和国を困らせていますが、他方において前述のとおり秘密裏の継続核開発・継続ミサイル開発にとっては時間的猶予になるので共和国にとって有利になるという二面性を持っています。プーチン露大統領をして「草を食べてでも核開発を続けるだろう」と言わしめた共和国について日本の国家戦略(国益)の立場に徹すれば、後者の「時間的猶予」に注目すべきところですが、比較的どうでもいい前者に注目がいってしまっています(そこらへんの国であれば経済封鎖されれば即干上がってしまうでしょうが、共和国はあんな小国であるにもかかわらず驚異的な強靭さをもっており、そう簡単に干上がりそうにはありません)。

「大嫌いな北朝鮮が困っている姿を見たい!」といえば、報道によると、東京オリンピック組織委員会が「技術的問題」なる口実で各国オリンピック委員会に対して発行する連絡用エクストラネットへのアクセス用IDを、共和国オリンピック委員会に対してだけ発行しなかった件も、通底していると言わざるを得ないでしょう(報道各社で取り上げられるや否や急に「技術的問題」が解決してID発行されるだなんて、そんなタイミングのよい話が普通あるでしょうか?)。「朝鮮に対する差別を企図した政治的介入の一例」という記事中の指摘は、そう言われても仕方ないでしょう。

戦略的動向といった合理性よりも、敵に一泡吹かせたい・一矢報いたいという感情が優先してしまう――先の大戦ではこれで失敗しました。同じようなことを繰り返しつつあります。
posted by 管理者 at 00:26| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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