2019年07月17日

「合理的推理」の「理」は、「当事者にとっての理」も含まれる

https://www.excite.co.jp/news/article/Jiji_20190716X320/
処刑説の金革哲氏生存=米朝実務協議担当―韓国情報機関
時事通信社
2019年7月16日 20:31

 【ソウル時事】韓国の情報機関、国家情報院の徐薫院長は16日、国会の情報委員会で、処刑説が出ていた北朝鮮の金革哲・国務委員会米国担当特別代表について「生きているとみている」と報告した。


(以下略)
キム・ヒョクチョル氏「銃殺」説。「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎」説の「付属品」として5月下旬から6月上旬にかけて話題になった件です。「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎」説は早々にガセネタと判明しましたが、いよいよキム・ヒョクチョル氏「銃殺」説の旗色も悪くなってきたようです。この間の騒動は、いよいよ何の根拠のない「創作」である可能性が高まってきました

私は基本的に、予測を外した人について後になってからアレコレ言わないようにしています。とりわけ朝鮮半島情勢は、共和国の秘密主義的体質に加え、各国の利害が複雑に絡み合っているために予測が困難であり、事後論評は「後出しジャンケン」の様相を呈してしまうからです。また私自身は、国際政治に明るくないと自覚しているので、論評しかねる(よく分からない)という事情もあります。

ただ、以下にあげる記事については、例外的に事後論評を試みたいと思います。コリア国際研究所所長のパク・トゥジン(朴斗鎮)氏による「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎」説にかかる自己弁護です。「パク・トゥジン」という筆者名を見ただけで記事の結論とそれを読む価値の無さが一目瞭然だし、その上に1ヵ月も前の記事になりますが、典型的な要素があり「素材」としては「使いやすい」ので、我慢してお付き合いくださいw
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190616-00010001-jindepth-int&p=1
権威回復目論む金正恩の狡猾
6/16(日) 19:01配信
Japan In-depth


(中略)

■ 権威回復の手始めは責任転嫁

ハノイ米朝首脳会談失敗の責任転嫁のために、金正恩が党副委員長の金英哲を労役に、妹の金与正(キム・ヨジョン)を謹慎に、そして統一戦線部室長の金聖恵(キム・ソンヘ)と通訳を強制収容所送りとし、対米交渉特別代表だった金赫哲(キム・ヒョッチョル)を処刑したと朝鮮日報が報道した(5月31日)。ポンペオ米国務長官は、この報道に対して否定も肯定もせず「確認中」という答弁だけを出した。

だがこの報道に対して、金正恩は異例の速さで反応した。重要行事に金英哲と金与正を登場させて「粛清報道」が「誤報」であると印象付ける世論操作を行った。それだけこの報道の拡散が怖かったと見られる。

いまだに姿を現さない金聖恵の処遇や、特には金赫哲の処刑説については未確認ではあるが、健在ぶりを示すために出てきた金英哲が統一戦線部長を解任され幹部席の末席に座らされたことや、慈江道(チャガンド)視察に金与正が同行しなかった(玄松月が同行)ことを見ても、対米交渉関係者に処罰が下されたことは明白だ。また金正恩時代になって処罰から粛清という話もよくあることだ。

労働新聞は5月30日付で「良心は人間の道徳的風貌を規制する尺度」との個人論評を掲載し、北朝鮮で一連の粛清があったことを示唆した。そこには「首領(金正恩)に対する忠実性は、義務である前に良心であり、実践でなければならない。革命の道では、首領の崇高な道徳義理を身につけ価値の高い生活の頂点に上がる人もいれば、一方で首領への忠実性を言葉だけで覚え、甚だしくは大勢に応じて変化する背信者、変節者も現れる。忠実性は決して闘争年限や経歴から出てくるものではない」「首領の構想と意図を実現するために、自身の血と汗、命までも躊躇なく投げ打つ良心を持つ人間、義理の人間が真の道徳の強者、真の革命家である」と綴られ、今回の処罰・粛清がどのような名目のもとで行われたかが暗示された。


(中略)

だが、親金正恩の「ハンギョレ新聞(韓国)」は、情報の深い分析もしないまま、金英哲と金与正が姿を現しただけで、いち早く朝鮮日報報道を「誤報」と決めつけた。金正恩の意中を忖度したとしか思えない対応だ。このハンギョレ新聞報道に合わせて日本で「誤報」との主張を行ったのがコリアレポートの辺真一氏だった。

■ 「クロスチェック」と「合理的推理」で金正恩のウソを見抜け


(中略)

しかし、そうだからと言って、韓国発情報をすべて疑っていては朝鮮半島情報の分析が成り立たない。情報の中からデマでないものを選び出すのが情報分析の第一歩なのだ。そのためには複数の情報源をもって「クロスチェック」する必要があるが、それとともに必要なのが「合理的推理」だ。金正恩のウソを見抜き閉鎖的な北朝鮮を分析するにはこの二つの作業は必須となる。

北朝鮮情勢に対する合理的推理は、北朝鮮が首領絶対制システムであることの理解が土台となる。


(中略)

こうしたことから、「対米交渉担当者たちが処罰されるだろう」というのは北朝鮮専門家であれば誰もが到達する「合理的推理」である。誰を最も重罪にするかはその時の政治状況と金正恩の裁量によって決まる。したがって対象人物が映像に登場したからといって「粛清は誤報」とするのは「即断」すぎる。

(中略)

金正恩は未熟だが狡猾だ。金英哲が映像に登場したからと言って彼に対する処罰や対米交渉関係者に対する粛清がなかったと判断するのは早計だ。北朝鮮状況を誤判しかねないだけでなく金正恩の計略にはまる可能性がある。
■党や国家の最高幹部としての肩書を維持しつつの「粛清」・「謹慎」は、可能性としてあり得るだろうか?――ブーメランが突き刺さるパク・トゥジン氏
閉鎖的な北朝鮮を分析するには」、「複数の情報源をもって「クロスチェック」」することと「合理的推理」が必要だという指摘自体は極めてまっとうなものです。私も、しばしば「共和国分析においてこそクレムリノロジー的分析が有効だ」と述べているとおり、極めて秘密主義的ではあるが、正統を重視する儒教文化圏に位置し、科学を標榜する社会主義を掲げている共和国情勢を分析するにあたっては、複数の情報源からのクロスチェックと合理的推理によって断片的な情報をジグソーパズルのように組み立て、ストーリーを構築して理解することが必要だという立場です。

その点、パク・トゥジン氏にはブーメランになってしまいますが、彼こそ「党や国家の最高幹部としての肩書を維持しつつの『粛清』・『謹慎』は、可能性としてあり得るだろうか?」という問いを立て、複数の情報源からのクロスチェックと合理的推理を展開すべきでした

ハノイ会談から粛清・謹慎説が出回るまでの間にあった幾つもの政治イベント――最高人民会議第14期代議員選挙、朝鮮労働党中央委員会第7期第4回全員会議および最高人民会議第14期第1回会議――でキム・ヨンチョル氏とキム・ヨジョン氏はともに最高幹部として名を連ねていたという厳然たる事実から出発すべきです。

このことについては、当ブログでは、3月23日づけ「最高人民会議第14期代議員選挙結果を読む」、4月13日づけ「朝鮮労働党中央委員会第7期第4回全員会議と最高人民会議第14期第1回会議から読み取る布陣と確固たる意志」および6月6日づけ「「キム・ヨンチョル粛清・キム・ヨジョン謹慎説」を振り返る――『労働新聞』に照らして読めばこそ最初から明らかだった『朝鮮日報』誤報」などで繰り返し書いてきました。特に6月6日づけ記事では「党の最高幹部の肩書を維持しつつの「粛清」・「謹慎」は、共和国の政治史においてはかなり異例のこと。絶無とまでは言いませんが、「かなり可能性が低い」と言わざるを得ないストーリーでした」と述べたとおりです。

パク・トゥジン氏も『朝鮮日報』のガセネタと同じく『労働新聞』5月30日づけ「良心は人間の道徳的風貌を規制する尺度」論評を、粛清断行を示唆する間接証拠として挙げていますが、まさに6月6日づけ記事でも書いたとおり、ちょうどこの時期に実施されていた、キム・ジョンウン委員長によるチャガン(慈江)道現地指導における、近年で最強クラスのご立腹ぶりと関連させたほうがストーリーとして合理的であると言わざるを得ません。

■傷口を自らひろげるパク・トゥジン氏
パク・トゥジン氏は「「対米交渉担当者たちが処罰されるだろう」というのは北朝鮮専門家であれば誰もが到達する「合理的推理」である」と言い張ります。しかし、ハノイ会談から粛清・謹慎説が出回るまでの間にあった幾つもの政治イベントでキム・ヨンチョル氏とキム・ヨジョン氏がともに最高幹部として名を連ねていたという厳然たる事実を見落としたのは、あまりにも痛い彼は、いったん決めてかかった見立てに引きずられて、それの修正を迫る新しい事実に直面しても合理的に考え方を変えることはできなかったわけです。

粛清されて強制労働を課されているはずのキム・ヨンチョル氏が健在だという事実を突きつけられたときの言い訳もすごい。「重要行事に金英哲と金与正を登場させて「粛清報道」が「誤報」であると印象付ける世論操作を行った。それだけこの報道の拡散が怖かったと見られる」とのこと。キム・ヨンチョル氏が粛清されたことが暗黙の前提になっている論理構成はこの際は脇において(そのことこそが問題なんですけどね・・・)、なぜキム・ジョンウン委員長が、このことにだけ「怖がる」のかについてまったく説明されていません

パク・トゥジン氏が、キム・ヨンチョル氏らが処罰をうけたとあくまでも言い張る理由は、次のくだりが該当するでしょうか。すなわち、「金英哲が統一戦線部長を解任され幹部席の末席に座らされたことや、チャガン(慈江)道視察に金与正が同行しなかった(玄松月が同行)ことを見ても、対米交渉関係者に処罰が下されたことは明白だ」。このことについては、私も繰り返し述べているとおり、共和国は遊びで対米交渉しているわけではないのだから、交渉担当者の党内序列が低下するくらいは当然でしょう。それに、そもそも、単なる序列低下と「粛清・謹慎」説および「銃殺・収監」説はまったく別物です。キム・ヨンチョル氏が末席に座ったこと、キム・ヨジョン氏が現地指導に同行しなかったことは、序列低下に留まるものです。もっといえば、キム・ヨジョン氏がチャガン道という、まあまあ田舎の地方現地指導に同行しなかったことなど、単に本人あるいは家族の体調不良の可能性だってあるでしょう。キム・ヨジョン氏はまだ幼子を育てる母親です。現地指導(地方視察)に同行しなかったくらいで、ここまで書き立てられるとは・・・

「そもそも北朝鮮情勢の分析自体は難しいものだけど、ぼくちゃんこれだけ頑張って考えたんだもん!」という心の叫びは痛いほどに伝わってきますが、「党や国家の最高幹部としての肩書を維持しつつの「粛清」・「謹慎」は、可能性としてあり得るだろうか?」という重要論点の見落としを取り繕ろうとアレコレ言い訳を展開してむしろ傷口をひろげているように思えてなりません・・・

■一度決めてかかった認識を改める契機がないパク・トゥジン理論
そして最後の捨て台詞。「金正恩は未熟」というのは、パク・トゥジン氏としてはどうしても言わずにはいられない・我慢できないお決まりの台詞なのでスルーするとして、「金英哲が映像に登場したからと言って彼に対する処罰や対米交渉関係者に対する粛清がなかったと判断するのは早計だ」もすごい。悪魔の証明的の発想。普通は、「ある」と主張する側に立証責任があって十分な材料を提示できないときは「ない」とするのが、それこそ合理的推理の掟。パク・トゥジン理論でいくと、一度決めてかかった認識を改める契機がありません。どんなに推理と異なる事実が発生しても持論に固執できることになります。

「疑いをもって判断を保留すること」と「事実だとして主張すること」との間には根本的な違いがあります。パク・トゥジン氏は、そこを混同しています。

仮に一連の粛清・謹慎説および銃殺・収監説が事実だとしましょう。キム・ヨンチョル氏に強制労働が科されていて、キム・ヒョクチョル氏が刑死していて、キム・ソンヘ氏とシン・ヘヨン氏が収監されているとしましょう。死んでしまったキム・ヒョクチョル氏は生きて登場できないとしても、キム・ソンヘ氏とシン・ヘヨン氏がいまだ消息不明なのはなぜなのでしょうか? 本当に怖がっているのならば、何かテキトウなタイミングで朝鮮中央テレビのワンシーンや『労働新聞』の掲載写真の端っこの方に顔の半分でも写し込めばいいものを。キム・ソンヘ氏とシン・ヘヨン氏の消息不明には、何か別の理由があると考えることも可能でしょう。

■「合理的推理」の「理」は、当事者にとっての「理」も含む
ちなみに僭越ながらお勧め申し上げると、「合理的推理」の「理」は、「第三者的な理」だけではなく、「当事者にとっての理」も含まれると考えるべきでしょう。特に相手側陣営の内部事情を探るというのであれば、相手陣営内部を司る論理や力学に注目すべきです。つまり、「朝鮮労働党や共和国政府のいつもの主張や動向、またはチュチェ思想の原則からその思考回路を推測すれば、こういう理屈でこういう結論に至るだろう」という視点を交えることも大切だということです。

側近たちの肩書は、無秩序につけられているわけではなく幹部同士の忠誠競争・相互牽制の分かりやすいシンボルとして重要なものです。部外者が思っている以上に、ヒエラルキー的構造の社会主義体制内部においては肩書は重要です。相手陣営内部(朝鮮労働党の組織内)を司る論理や力学に注目し、「党や国家の最高幹部としての肩書を維持しつつの「粛清」・「謹慎」は、可能性としてあり得るだろうか?」という問いが必要になるのです。

この視点に立脚して「今回の粛清・謹慎」説を見たとき、最高人民会議第14期代議員選挙や党中央委員会第7期第4回全員会議、最高人民会議第14期第1回会議でキム・ヨンチョル氏とキム・ヨジョン氏がともに最高幹部として名を連ねていたという厳然たる事実を踏まえればこそ、本件は当初からかなり胡散臭い情報だということが見抜けたはずです。
ラベル:共和国 メディア
posted by 管理者 at 22:34| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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