佐野SA、ふたたびストライキ決行へ「前回のストを正当な争議行為として認めて!」昨日づけ「やはり自主管理的経営を目指すべき」にて、「本件のように、巻き返しを虎視眈々と狙っており、かつ、実際に巻き返し的アクションを取ってきたような手合いに相手に尚も労働組合運動で対抗するのは、愚策というべき」と述べたばかりですが、結局、佐野SAのケイセイ・フーズ労働組合は再度のストライキに突入するようです。ただし、「午前7時から1時間程度」とのことで、あくまで象徴的なアクションに留まるもののようです。世論喚起を狙っているものと見るべきでしょう。
11/7(木) 18:15配信
弁護士ドットコム
東北自動車道上り線の佐野サービスエリア(SA/栃木県佐野市)で11月8日、またもしてもストライキが決行される。
佐野SA上り線のレストランやフードコートを運営する「ケイセイ・フーズ」の労働組合(加藤正樹執行委員長)が11月7日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで、記者会見を開いて明らかにした。
(中略)
労働組合によると、会社側は、前回のストライキを正当な争議行為として認めず、さらに加藤執行委員長らに莫大な損害賠償請求をにおわせているという。こうした状況を受けて、労働組合は11月3日、従業員が安心して働ける環境をもとめて、ストライキを通告していた。
今回のストライキは、佐野SA上り線のレストランエリアに限っており、フードコートは営業する。時間は、午前7時から1時間程度の予定という。加藤執行委員長はこの日の記者会見で「できるだけ、お客さんには迷惑をかけたくない」と話した。
(中略)
●NEXCO東日本に申し入れ
ケイセイ・フーズは、東北自動車道を運営するNEXCO東日本のグループ子会社と出店契約をむすんで、佐野SA上りを運営している。ところが、ことし7月、銀行の融資が凍結されるなど、経営上の問題が起きていた。
同社が8月13日、加藤執行委員長(役職は総務部長)の解雇を通告したことを受けて、労働組合は翌14日、ストライキに突入した。その後、経営陣は刷新されたが、労使交渉は決裂している。
労働組合によると、旧経営陣は株主として、現在も影響力を持ち続けているという。こうした状況のため、労働組合側は11月7日、NEXCO東日本にも「企業としての社会的責任」があるとして、ケイセイ・フーズ側に働きかけるよう申し入れた。
弁護士ドットコムニュース編集部
最終更新:11/7(木) 19:01
弁護士ドットコム
現代市場経済は「評判経済」なので、企業は、自社の悪評になることを避けるインセンティブに駆られる点、以前から述べているように、「象徴的スト」は戦術としてアリだとは思います。しかし、やはり、「この手の経営者が改心するはずがない」という点において、実力行使しようが世論喚起しようが、いつか必ずまた巻き返しを図るでしょう。あまり意味がないように思います。ケイセイ・フーズ労働組合の立場は支持しますが、本件についてストライキという戦法を取ることついては、支持しかねるところです。
他方、「できるだけ、お客さんには迷惑をかけたくない」という労組執行委員長の発言を見るに、勝手連的に盛り上がっている労組屋連中とは明確に一線を画しているようです。ストライキというと、かつての国鉄労働組合のように顧客への影響などほとんど考慮に入れず、それどころか「人質」扱いするようなケースもありましたが、「対顧客」という観点が労働組合運動の「現場」で確実に育っている証拠と言えそうです。この点は強く支持します。
ところで、労組活動家の今野晴貴氏がオーサーコメントを寄せています。
焦点はNEXCOグループの「社会的責任」だ。中小企業の労働事件では、元請会社や親会社といった関係企業の責任が問題になることは珍しいことではない。大手企業が下請会社や子会社を強く支配しているケースでは、事実上、親会社や元請会社が解決内容を決める権限を有しているからだ。記事中でも「労働組合側は11月7日、NEXCO東日本にも「企業としての社会的責任」があるとして、ケイセイ・フーズ側に働きかけるよう申し入れた」というくだりがあります。
2011年に国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権指導原則」によれば、企業は、供給業者等の取引先が雇用する労働者の人権侵害についても「負の影響を引き起こしたり、助長することを回避」し、「人権への負の影響を防止または軽減するように努める」ことが求められている(同原則13参照)。これに照らして考えれば、NEXCOグループには「企業としての社会的責任」があり、そうした責任を踏まえて対応することが求められているといってよいだろう。NEXCOに対応を求める世論は日に日に高まっている。
企業の社会的責任――言いたいことはよくわかります。取引先における労働者への人権侵害等について、見て見ぬふりすることは許されないでしょう。他方、労使紛争はあくまでも当該企業における問題であるという点、NEXCOのように紛争中企業とは商取引の関係しかないような企業がどのようにどこまで介入すべきかの実践的線引きが困難であるという点、そして、そもそも労使紛争は本来的には行政や司法の領分でありそれを差し置いて「NEXCOに対応を求める」というのは、踏むべきステップを飛ばしているのではないかという点など、疑問をつけようと思えば幾らでも付けられる主張であります。
『日刊スポーツ』は次のように報じています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191107-11070558-nksports-soci
佐野SAレストラン再びスト、労組幹部が解雇迫られひとつずつ検討してみましょう。
11/7(木) 18:09配信
日刊スポーツ
(中略)
また加藤氏は、東北道を管理、運営するNEXCO(ネクスコ)東日本と子会社のネクセリア東日本に対し同日、申し入れ書を提出したことも明らかにした。申し入れ書には
<1>ケイセイ・フーズに不当な主張を撤回するよう指導すること
<2>加藤氏への退職推奨を行わないことを確約させた上で、ケイセイ・フーズと再契約すること
<3>それが取り付けられない場合、同社との契約を解消した上で、新たに運営委託契約を結ぶ会社との間で、佐野SAで働く従業員全員の雇用を継承することを確認し契約内容とすること
との内容が記されていた。
加藤氏は「NEXCO東日本の社会的使命は、高速道路を安心、安定的に運営することだと私は思う」と述べた。その上でNEXCO東日本とネクセリア東日本に対し「今の佐野SAは、もう当事者同士で解決する状況は超えている。交渉相手として引きずり出したい。ただの大家と店子(たなこ)の関係ではないと、日常でも感じる」と、使用者としての対応を求める考えを強調した。【村上幸将】
「<1>ケイセイ・フーズに不当な主張を撤回するよう指導すること」――それっぽく見えるものの、「不当な主張」とは具体的に何であるのか不明瞭です。行政や司法の見解に準拠するよう求めるのであれば理解可能ですが、いくら社会的大企業たるNEXCOといえども、このような「利害対立ド真ん中」たる論題について自主的な判断を求められるのは、「酷」を通り越して「筋違い」とさえ感じるところです。
「<2>加藤氏への退職推奨を行わないことを確約させた上で、ケイセイ・フーズと再契約すること」――読点以前の前半部分については、上述と同じ理由からNEXCOが率先して立ち入るような内容ではないと考えられます。読点以降の後半部分については、出店にかかる契約は、NEXCOの総合的な経営判断であり、労使紛争だけを以って再契約を確約するのは筋違いな要求でしょう。そもそも本件騒動のおおもとは、ケイセイ・フーズ社の信用不安情報に基づく商品納入停滞。NEXCOの立場に立てば、「それで結局、業務継続能力はあるの?」と問いたいでしょう。
「<3>それが取り付けられない場合、同社との契約を解消した上で、新たに運営委託契約を結ぶ会社との間で、佐野SAで働く従業員全員の雇用を継承することを確認し契約内容とすること」――これに至っては、一企業たるNEXCOとしては、いったい何の義理があってケイセイ・フーズ従業員の雇用を維持しなければならないのかという話になるでしょう。この条件を呑む委託先が現れなかったら? まさか直営だなんて、高速道路ユーザーにしてみれば勘弁していただきたい。修繕を要する部分はあちこちにあるわけです。以前にも論じましたが、雇用維持ないしは「ソーシャル・ブリッジ」構築は行政機関の責務であり、個別企業に中途半端に課すべきものではありません。
「社会的責任」という、それっぽく聞こえるけれども内実としては曖昧な概念が独り歩きすることで、コジツケまがいの無茶な拡大解釈が生まれないか心配でなりません。
拡大解釈は、解釈する人の判断が重要な要素になります。法の運用から解釈を完全に排除することが不可能なのは事実ですが、法の解釈には「人治」の余地があることも事実です。解釈者が常に妥当に解釈してくれればよいものの、そうは問屋が卸さないもの。とりわけ、「正義」のニュアンスを含む語句であればあるほど危ういものです。内実が曖昧な概念を多用しすぎると、ダブル・スタンダードや辻褄の合わない判断の乱立等によって、法の運用が不安定化する危険があります。まず、実践的・具体的内容を詰めましょうよ。
ラベル:自主権の問題としての労働問題