2019年11月23日

「個人の能力と努力に対する評価」が積極的に位置づけられ始めた朝鮮民主主義人民共和国――こんにちの社会主義企業責任管理制と集団主義的競争・社会主義的競争の定着・発展について

https://www.youtube.com/watch?v=WKecHIgCSb0
朝鮮中央テレビ11月19日放送『奇跡はここでも創造される』において、社会主義企業責任管理制について言及がありました。

■「単なるイデオロギー」の域を脱した政策であることが分かる
キム・ジョンウン委員長の経済政策・経済改革における核心である「社会主義企業責任管理制」は、数年前から「新年の辞」を筆頭として継続的に言及されてきました。今年はついに、「テアン(大安)の事業体系」と入れ替わる形で憲法にも謳われる国是にもなりましたが、この動画を見るに、社会主義企業責任管理制は単なる掛け声・スローガンではなく、幾らか「盛って」いる可能性はあるとはいえ、生産現場レベルで成果と言い得るものが上がりつつあるようです。

近頃共和国では、党機関紙『労働新聞』11月21日づけ「사회주의기업책임관리제의 실시와 국가적지도관리의 개선」(社会主義企業責任管理制の実施と国家的指導管理の改善)など、社会主義企業責任管理制について、単なるイデオロギー宣伝報道としてではなく実運用に関する報道という形で言及されることが増えてきています。社会主義企業責任管理制が「単なるイデオロギー」の域を脱した政策であることが分かります

農業分野においては社会主義企業責任管理制ではなく「農場責任管理制」と呼びますが、最近は、昔からある「分組」の下部組織として更に少人数からなるグループによる「圃田担当責任制」を導入しています。『労働新聞』10月25日づけ「분조관리제의 우월성을 높이 발양시키자」(分組管理制の優越性を高く発揮させよう)は、古くからの分組管理制と整合性を取りつつ、新しい圃田担当責任制を位置づけようとする姿勢を見て取れる(「分配から平均主義をなくさなければならない。分配における平均主義は、社会主義分配原則と関係がない」と言及しています)とともに、実運用上の課題について言及している点、これもまた「単なるイデオロギー」の域を脱した政策であることが分かります。

思えば、かなり強力な経済封鎖(巷で言う「経済制裁」のこと)の最中であっても共和国が自強力を以って耐えているのは、西側でさえも否定できない事実です。そこにはキム・ジョンウン委員長の経済政策・経済改革が存在していると言うべきでしょう。

■社会主義国たる共和国で「個人の能力と努力に対する評価」が積極的に位置づけられている
動画中で興味深いのは、社会主義企業責任管理制のもとで「集団主義精神の強化」がなされたコトと「人材登用、人材管理事業を重要視してい」るコトが結びついて言及されている・両立的に言及されている点です。「人材登用、人材管理事業を重要視」とは、動画中の説明によると、「自分が担当する工場の機械に精通し、生産実収益を高める人、次に、生産過程で発生する欠陥に、その時その時に対応できる人。こうした人々を工場の技能工として紹介し、こうした人々に対する評価事業をします」とのこと。つまり、「個人の能力と努力に対する評価」ということに他なりません。

日本の感覚では、とりたてて不思議に思うようなことではないでしょう。しかし、しばしば「悪平等主義」とも表現される社会主義の国たる共和国で、「個人の能力と努力に対する評価」が「集団主義精神の強化」すなわち、社会主義の核心的価値観を実現・強化することに寄与していると積極的に位置づけられ、評価されているわけです。これは、特筆すべきことだと言えます。

■「集団主義的競争・社会主義的競争」の定着・発展
このことは、当ブログでも以前から折に触れて指摘してきたことではありますが、「集団主義的競争・社会主義的競争」の定着・発展であると言えるでしょう。

集団主義的競争・社会主義的競争とは、端的に言って「互いに成功を学びあい助け合い切磋琢磨してゆくタイプの競争」のことです。

社会主義社会における伝統的難題だった「集団主義原則と競争原理の両立」というイデオロギー的問題について共和国は、朝鮮労働党第7回党大会を目前に控えたチュチェ105(2016)年3月、『労働新聞』社説において、互いに成功を学びあい助け合い切磋琢磨してゆくタイプの競争を社会主義的競争と位置づけ、弱肉強食の生存競争としての資本主義的競争との違いを定義することで解答を提示しました(当該社説の全文拙訳は、チュチェ105年6月6日づけ「朝鮮労働党第7回党大会は経済改革・競争改革を漸進的に継続すると暗に宣言した画期的大会」で掲載)。

集団主義的競争・社会主義的競争について私は、キム・ジョンウン委員長の経済政策・経済改革の「背骨」になるであろうと繰り返し述べ、実際にそれを示す具体的事象について折に触れてご紹介してきました。

今回ご紹介した動画についていえば、個人の能力および努力を「組織的・集団的成果に対する貢献度」という観点から評価している共和国の現状は、集団主義的競争・社会主義的競争が単なるスローガンに留まるものではなく実際に生産現場で運用され成果をあげつつあることを示していると言えるでしょう。

■その意義
チュチェ106(2017)年7月27日づけ記事」でも述べたとおり、中国共産党の「改革開放」と比較して共和国の集団主義的競争・社会主義的競争は、社会主義的原則により忠実でありながらも経済的実利をも追求している点において、より現実主義的な社会主義であると言えると考えているので、このように共和国の集団主義的競争・社会主義的競争が成果を挙げつつあることは、たいへん喜ばしいことと考えます。

また、チュチェ106(2017)年9月9日づけ「共和国における経済改革の進展――建国69年目のチャレンジの行方」でも述べたように、いまキム・ジョンウン委員長が先導する集団主義的競争・社会主義的競争は、キム・イルソン主席の時代、そして実はキム・ジョンイル総書記の時代でも模索されていた「社会主義における市場の活用」をイデオロギーの面から積極的に支えるものです。

■総括と展望
繰り返しになりますが、今回ご紹介した動画において言及されている人材登用・人材管理事業は、「個人の能力と努力に対する評価」と「集団主義原則」とが、単なる「上からのスローガン」ではなく生産現場レベルで両立しつつあることを示すものです。これはすなわち、集団主義的競争・社会主義的競争が現場レベルで定着・発展しているということです。これを社会主義の進化と言わずに何と言えるのでしょうか?

上掲過去ログでも述べたとおり、1960年代――ソ連や東欧諸国では新古典派一般均衡理論や線形計画法といった数理的技法を用いてまで経済の計画化に躍起になっていた時代・「科学的な客観法則」とやらに則った「科学的に正しい道筋」を上段から人民大衆に押し付けることが「社会主義経済」だと考えられていた時代――においてキム・イルソン主席は独自に、テアンの事業体系すなわち「中央集権的指導と地方の創意性、プロレタリアート独裁と大衆路線を正しく組み合わせた、最も威力あるシステム」を編み出しました。

これは、当時にあってはきわめて「異端」な方法論でした。しかし、こうした「異端」な方法論を敢えて執行すること、そして、物事の原点に立ち返って考察を深めることによって一見して「異端」なものを正統に位置づけなおしてしまうのが、共和国の伝統なのです。

そしてまた、これも以前から述べていることですが、共和国において政策は、新しいアイディアが実験的に実践されてから全面的に導入される例が多いという「科学的社会主義」を標榜する国にしては珍しい特徴があります。社会主義国は一般的に「急進的な設計主義的方法論による制度建設」の路線を歩むものですが、共和国では、意外なことに、「実験的・試行錯誤的方法論による漸進的な制度進化」がよく見られるのです。国家の根幹を成すチュチェ思想も形成史を振り返ればそうでした。

その伝統を引き継ぐキム・ジョンウン委員長におかれては、これからも、新しい方法論を慎重に試しながら社会主義そのものを進化させて行かれることでしょう。
posted by 管理者 at 22:43| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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