世田谷の保育園が「即日閉鎖」から「自主営業」へ 「一斉退職」しなかった保育士たち素晴らしい! 労働者が、利用者(消費者)の利益を考えて自主的に業務を継続した本件。利用者(消費者)にとっての利益と労働者の職業的矜持を両立しています。また、当ブログでは以前から自主権の問題としての労働問題というテーマを掲げて労働問題について論じて来、その中で私は、「自主権の問題としての労働問題の最終的解決は、生産の自主管理化にある」としてきましたが、本件は生産の自主管理化という未来社会展望に通じるところがあると言えるでしょう。
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
12/1(日) 17:40
(中略)
保育士の「一斉退職」や「虐待」、「死亡事故」など、悪いニュースが続く保育業界。実は、突然の閉園も珍しいことではない。
ただし、今回、保育士たちは「一斉退職」とはまったく逆の路線を採ることにした。子どもたちを見捨てられない保育士たちは、保護者や介護・保育ユニオンの支援を受けて、「自主営業」の道を選んだのである。
実際に、会社が運営を放棄した後も自分たちで営業を続けるという。園が封鎖されないよう、その日の夜から交代で園に泊まり込み、明日以降も園を運営できるように準備を進めているという(尚、労働者が平和的手段で職場を占拠する行為は労働組合法によって保護されている)。
(中略)
「一斉退職」ではなく「自主営業」へ
保育士個人の事情を考えれば、この不安定な職場に留まるのではなく、今すぐにでも転職した方がよかったに違いない。仮にそういう選択をする保育士がいたとしても、誰も責めることはできないはずだ。
実際に、世の中では劣悪な保育所で次々に「一斉退職」がおき、社会問題化している。近年報じられている「一斉退職」したニュースでは、ここで紹介している園と同様、賃金の未払いがあったり、保育環境が劣悪だったりすることが背景にあることがわかっているのだ。
ただ、「一斉退職」となると、現実の問題として、保育園が閉園したり、劣悪な保育がそのままになったりして、子どもたちや保護者がそのあおりを受けてしまうことがある。
この園の保育士たちは、通っている子どもたちや保護者のことを考えると、今、この園を投げ出すことはできなかったという。
金曜の夜、貼り紙1枚で立ち去ろうとする取締役に対して約4時間に渡り抗議を続け、そのあとも園に留まり、保育士どうしで今後について話し合った。そこで、月曜日に突然閉園することだけは防ごうと、現場のスタッフ全員が一致したのである。
保育士たちの力で、月曜日から「自主営業」することことがこうして決まった。保育所閉鎖問題が社会問題化する中で、「一斉退職」ではなく、「自主営業」を選択した極めて貴重な実例だと言うことができるだろう。
とはいえ、会社が倒産した後に労働者が「自主営業」を行うことなど可能なのだろうか。非現実的だと思われる方もいるかもしれない。だが、これまでにも会社倒産後に、労働者が「自主営業」を行った実例は少なくない。
(中略)
職場の労働者の合意さえあれば、「自主営業」を遂行すること自体は決して不可能ではなく、日本社会の歴史においても実例が多いのである。
「自主営業」が成功する鍵は?
今回の保育園のケースで、「自主営業」が成功するために注目したいポイントは二つある。
一点目は、保育士たちの取り組みに、園児の保護者との協力・連携だ。
会社取締役が保育士たちに保育園の閉鎖を告げる場に居合わせた一部の保護者は、保育士と一緒になって会社と交渉し、月曜日の「自主営業」に協力するという意向を示しているという。
また、保育士たちも保護者と積極的にコミュニケーションをとろうとしている。閉園を告げられた翌日には保育士たちが保護者に電話をかけて事情を話し、労働組合の主催する保護者説明会の案内をしたという。
「自主営業」が成功するためには、保護者たちの理解を得て、信頼関係を構築することが不可欠だ。協力してくれる保護者がいるというのは成功の大きな要因になるだろう。
もちろん、今回の自主営業では、保育士自身の賃金債権の回収や雇用の確保も目的の一つではあるだろう。ただ、それ以上に「子どもたちを守りたい」という思いが彼女たちを動かしているという。だからこそ、保護者との連携が上手くいきつつあると考えられる
注目したい二点目は、労働組合の制度をうまく利用している点である。
労働組合というと、「春闘」のような賃上げ交渉をイメージする方も多いと思うが、むしろ、仕事のやり方も含め、職場で起こるあらゆる問題に柔軟にできるところに労働組合の強みである。今回のようなケースでも、労働組合の柔軟な対応力が発揮されているといえるだろう。
また、労働組合に加入していることによって、突然の倒産のような不測の事態でも、組合員の間で協力して事態に対処することができる。
実際、今回のケースでは、保育士たちが閉園を告げられたその日からユニオンの組合員が代わる代わる支援に訪れ、「自主営業」に向けた準備を手伝っているという。
「介護・保育ユニオン」は、企業を超えた業種別ユニオンであるため、同業他社の保育士が支援をすることができるのである。
(以下略)
ところで、少し面白かったのは「労働組合というと、「春闘」のような賃上げ交渉をイメージする方も多いと思うが、むしろ、仕事のやり方も含め、職場で起こるあらゆる問題に柔軟にできるところに労働組合の強み」というくだり。日本の労働者の大多数は労組に組織されておらず、賃上げ交渉は大企業の企業内労組や官公労に限られるものである点、大多数の労働者にとって「労組=賃上げ交渉」というイメージは遠い話であり、むしろ、労組に対するイメージといえば、やはりかつての国労(国鉄労働組合)のイメージ;身内エゴ的なストライキ等消費者直撃型運動のイメージでありましょう。そして、今野氏のような旧来型労組活動家こそが、国労的な労働運動・労働組合運動に対するそうしたイメージを形成・定着させてきた張本人です。
たとえば、チュチェ107(2018)年4月25日づけ「消費者直撃の労働運動が正当化される例外的ケースについて」では、消費者直撃型の方法論である東京駅自販機補充ストについて、かつての国労を思い出させる「順法闘争」という単語を連発する今野氏その人の姿について取り上げました。国労の「闘争」は、いまの労働運動・労働組合運動に対するイメージを形成・定着させるにあたって「大きな貢献を果たしてきた」と言えます。労使対決にしか意識が向かっていない消費者不在・消費者直撃型労働運動は、まさに旧来型労組活動家こそが展開してきたものなのです。
単なる賃上げ要求でさえ低調な労組界隈において、ある意味において時代錯誤的に消費者不在・消費者直撃型の労働運動を先鋭的に展開してきた今野氏が、ここにきて利用者(消費者)にとっての利益と労働者の職業的矜持を両立している活動実績・生産の自主管理化を展望に収める活動実績を取り上げ、それを割とマトモなロジックで総括しているわけです。今野氏も変わったものですねぇ。
日本の労働運動・労働組合運動において比較的大きな影響力を持っている今野氏が、利用者(消費者)にとっての利益と労働者の職業的矜持を両立している活動・生産の自主管理化を展望に収める活動について積極的に評価していることは、僭越ながら大変に評価できることだと思います。これを機に、労使対決にしか意識が向かっていない消費者不在・消費者直撃型の労働運動から決別していただけば幸いに思います。
ラベル:自主権の問題としての労働問題