2019年12月30日

朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会に関する部分的報道内容に基づく考察

http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ftype=songun&no=25975
朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会を招集、第1日会議

朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会の決定によって、朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会が12月28日、平壌で招集された。

朝鮮労働党の金正恩委員長が、総会を指導した。

総会には、朝鮮労働党中央委員会の委員、委員候補と党中央検査委員会の委員が参加した。

また、党中央委員会と省、中央機関の活動家、道人民委員長、道農業経営委員長、市・郡党委員長、重要部門と単位、武力機関の活動家がオブザーバーとして出席した。

朝鮮労働党は、透徹した反帝・自主的立場と絶対不変の意志で幾重にも重なる厳しい試練と難関を排して革命の発展をさらに加速させ、党建設と党活動、国家建設と国防建設において提起される重大な問題を討議するために党中央委員会総会を開いた。


(以下略)
国家建設と国防建設において提起される重大な問題を討議するために」という党中央委員会総会の開催名目と、オブザーバーとして各道の人民委員長とは別に各道の農業経営委員長も参加している点の2つが気になりました。

■国家建設と国防建設とが並列表記されている
前者については、国家建設と国防建設とが並列表記されている点に注目すべきでしょう。12月12日、共和国外務省のスポークスマンは次のように述べていました。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ftype=document&no=25629
朝鮮外務省代弁人 朝鮮は米国が選択するいかなることにも相応の対応をする準備ができている

【平壌12月12日発朝鮮中央通信】朝鮮民主主義人民共和国外務省のスポークスマンは12日、次のような談話を発表した。

年末の時限が日一日近づいている中、米国がわれわれに対する挑発の水位を高め続けている。

10日、米国務長官のポンペオが国連制裁決議を徹底的に履行すべきだと言いふらしたのに続いて、11日、米国は国連安保理の公開会議なるものを開き、われわれの自衛的な武装近代化措置に言い掛かりをつける敵対的挑発行為をまたもや強行した。

国際平和と安全保障を基本使命とする国連安保理が主権国家の自衛的な措置に言い掛かりをつけたのは、国連憲章に明示されている自主権尊重の原則に対する乱暴な蹂躙(じゅうりん)である。

これは、国連安保理が米国の利害関係によって動く政治的道具に過ぎないということを再度傍証する。

われわれは、今のように鋭敏な時に米国がわが問題を論議する国連安保理の公開会議を主導して対朝鮮圧迫の雰囲気を鼓吹したことに対して絶対に黙過しないであろう。

自衛的軍事力を育むのが国際平和と安定を破壊する行為になるなら、各国の国防力強化措置も全て問題視されなければならないという結論が出る。


(中略)

米国は、今回の会議招集を機に我が手で首を絞めるような愚かな行為を働いたし、われわれをしてどの道を選ぶかに対する明白な決心を下すのに決定的な助けを与えた。
これを文字どおり受け止めれば、いわゆる「並進路線」に戻るということになりましょう。

もっとも、「並進路線」という看板を再度立てるかどうかは分かりません。「経済建設に全力」の看板はそのままに「国防力強化措置」を別建てし、両者を並列しつつ、その関係について特段説明をしないことも考えられます。そもそも、地域情勢に即した国防力の調整をすることは独立国家として当然のことなので、看板のかけ替えは必須的とまでは言えません

名目はさておき、実態としては「並進路線」的になると考えられるのです。看板のかけ替えが起こるかどうかまでは分からないものの、最近少し言及が弱くなっていた「国防力強化措置」を再度強調することによって国家建設と国防建設とを「並列扱い」することが「新たな道」だということです。もちろん、「年末期限」を迎えるまでは何ら決定を公表することはないでしょうが、大方の方向性は既に内部的に固まっていることでしょう。

興味深い談話が人民軍の総参謀長から出ていることにも注目しておくべきでしょう。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?lang=jpn&ftype=document&no=25663
朝鮮人民軍総参謀長、談話発表

朝鮮人民軍の朴正天総参謀長は14日、次のような談話を発表した。

最近、国防科学院が重大な意味を持つ実験を次々と成功裏に行って、国防力の強化において巨大な成果を収めていることを私はたいへんうれしく思う。

最近、行った国防科学研究実験の貴重な資料と経験、そして新しい技術は米国の核脅威を確固と、頼もしくけん制、制圧するための朝鮮民主主義人民共和国のもう一つの戦略兵器の開発にそのまま適用されるであろう。


(中略)

われわれは、敵対勢力の政治的挑発と軍事的挑発にも全て備えられるように準備されていなければならず、対話にも、対決にも不慣れではならない。

(中略)

先鋭な対決状況の中で、米国をはじめとする敵対勢力はわれわれを刺激するいかなる言行も謹んでこそ、年末を安らかに送ることができるであろう。
つまり、国防力強化措置は行う(行わざるを得ない)が、アメリカが共和国を刺激するような言行を慎む限りにおいては、アメリカのメンツを潰すようなことや対話局面が決定的に崩壊するような事態(たとえばICBM実験再開)にはしないと読むことが出来ます。

振り返ってみると国防科学院による12月7日午後の「非常に重大な実験」は、ソヘ(西海)衛星発射場での実験でした。つまり、国防科学院が実施しているとはいえ形式上は軍事的なものではないというわけです。かなり苦しいけれども「言い訳が立つ」レベル、「ICBMはダメだがSRBMであれば問題視しない」姿勢を鮮明にしているトランプ米大統領が相手であれば何とか切り抜けられるレベルではあります。トランプ大統領との約束を正面から破っているとまでは言えないものでした。

「年末期限」を以っていわゆる「並進路線」に少なくとも実態としては回帰するが、国防力強化措置については、アメリカが共和国を刺激するような言行を慎む限りにおいては、軍事的緊張が過度に高まり対話局面が決定的に崩壊するような事態にはしないという意図が読み取れるのではないでしょうか。

■自力更生路線のさらなる鮮明化
次に、各道の農業経営委員長がオブザーバーとして会議に参加している点について考えてみたいと思います。これは、「自力更生」と深くかかわる現象だと思われます。

朝鮮総聯機関紙・朝鮮新報も述べているとおり、今年のキーワードは「自力更生」でした。あらゆる産業において自力更生が求められている共和国の現状ですが、何事も胃袋を満たしてこそ初めて取り掛かることが出来る点、そして食糧生産のためには連関した各種産業の活性化も必須的(最近の経済報道では、チュチェ肥料を中心とする化学産業への注目が高まっているように見受けられます)である点、自力更生が盛んに語られている今日において、「農業生産の自力更生」は一段高い地位にあると考えられます。

自力更生の中心として農業生産の自力更生を位置づけ、そしてその責任者として各道の農業経営委員長が総会に出席したとすると、今回の党中央委員会総会の開催目的には「自力更生路線のさらなる鮮明化」があるように思われます。

また、農業分野ではいま、キム・ジョンウン委員長による経済改革の主軸をなす「圃田担当責任制」が実践されています。社会主義的所有と計画性の枠内で、報酬分配方法を変更することで、農業従事者たちにインセンティブを付与して生産を拡大しようとする、社会主義経済の画期となりうる野心的な政策です(11月23日づけ「「個人の能力と努力に対する評価」が積極的に位置づけられ始めた朝鮮民主主義人民共和国――こんにちの社会主義企業責任管理制と集団主義的競争・社会主義的競争の定着・発展について」等で詳述しました)。各道の農業経営委員長が総会に出席したことは、こうした経済改革の面からも見るべきでしょう。

■総括
このように考えると、年末期限以降の新たな道の概要は、(1)地域情勢に即した国防力強化措置によって事実上、並進路線へ回帰しつつも、アメリカが共和国を刺激するような言行を慎む限りにおいては、アメリカのメンツを潰すようなことや対話局面が決定的に崩壊するような事態にはしないこと。そして、(2)自力更生路線のさらなる鮮明化を二本柱とする「持久戦体制」と推察・考察できるのではないでしょうか。また、経済建設・経済改革の主戦場たる農業分野の地方責任者が、日本で言えば「知事」にあたる道人民委員長とは別個に敢えて言及されている点、単なる対米外交の問題としてだけではなく、内政の問題、とりわけ経済建設・経済改革の面からも今総会を見るべきでしょう。

これならば、共和国の平生の語法に照らして十分に「新たな道」と言い得るものと考えられます。
posted by 管理者 at 12:22| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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