政府がマスクを国に売り渡すよう指示 北見市と中富良野町に優先配布へhttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200303-00050210-yom-soci
3/3(火) 22:00配信AbemaTIMES
新型コロナウイルスの感染地域にマスクを配布するため、加藤厚生労働大臣は先ほど、国民生活安定緊急措置法に基づき、マスクメーカーに対し、マスクを国に売り渡すよう指示した。
(以下略)
北海道に1世帯マスク約40枚配布…対象市町村は調整https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200304-00000102-jij-pol
3/3(火) 18:35配信読売新聞オンライン
政府は、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な北海道の住民に、1世帯当たり約40枚のマスクを配布する。感染者が増えている自治体を対象とし、供給数は計約320万枚を見込む。4日にもマスクの製造業者に対し、国民生活安定緊急措置法に基づく売り渡しを指示する。
(中略)
一方、政府は、マスクの品薄に乗じた高額での転売を規制するための法的な措置を、10日までにまとめる第2弾の緊急対応策に盛り込む方針だ。
備蓄マスクの供給検討 政府、743万枚を保有 安倍首相
3/4(水) 18:57配信時事通信
政府は4日の参院予算委員会理事会で、国が備蓄するマスクが743万1300枚あることを報告した。
安倍晋三首相は同委で「各省庁で必要な枚数を備蓄している」と指摘。新型コロナウイルスの感染拡大でマスクが不足する医療機関が出ていることを踏まえ、「極めて重要度の高い所に出すことができるか検討したい」と述べた。国民民主党の森裕子氏への答弁。
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■「転売の権力的禁止」ではなく「配給制導入」で対応すべき
いま「世論」が求めている、強権的な「転売を規制せよ! 転売ヤーのアカウントを凍結せよ!」の要求に比べれば、政府一括買い上げ→配給は遥かにマシ。もちろん、「原価+標準的利潤」での買取が必須ではありますが、まさかこのタイミングで政府が買い叩きに走ることはないでしょう。
欲を言えば、「標準的利潤+アルファ」があれば、転売ヤーを含めた商業資本を市場原理をとおして淘汰できる点において、より望ましいのですが、まあそれはちょっと理想が高すぎるのかも知れません。なお、原価での売渡要求や原価割れでの売渡要求は、旧ソ連における農業政策の失敗の歴史を振り返るに、いくら「感染拡大予防」の大義があるにしても絶対に避けるべきです。原価または原価割れでの売渡要求は、絶対にやってはいけません。
■転売規制要求は「北朝鮮」のそれにも劣る稚拙な経済政策
さて、いま、転売規制政策の是非を「善悪」基準で測る議論が広く展開されています。この議論は根本的に間違っています。「転売規制政策は善か悪か」ではなく、「転売規制政策は意味があるかないか」だからです。
2月10日づけ「キム・イルソン主席の闇市対策に学ぼう:マスク買占め・高額転売を「道徳」や「民度」の問題とし、「権力的取り締まり」を求める言説の低レベルさについて」で詳しく述べたとおり、闇市的な私的転売を強権的に禁じたところで、転売行為が根絶されるわけがなく、闇市は地下に潜行してゆくだけです。闇市的転売に対する対抗策は、短期的には「配給制度の導入」、長期的には「生産の拡大」以外にはありません。転売規制など大した実効的意味はないのです。
キム・イルソン主席の指摘のうち、関連部分を引用しておきましょう。
人民の需要をみたせない商品は、たとえ国家が唯一的に価格を制定したとしても、闇取引されたり、農民市場で又売りされるということを忘れてはなりません。商店の品物を買いだめしておいて、他人が急に必要になって求めるときに高値で売りつけるような現象があらわれるようになるのです。卵の販売の問題を例にとってみましょう。現在、平壌をはじめ、各地に養鶏工場を建設して卵を生産していますが、まだ人民に十分供給できるほどではありません。そういうわけで、卵も国定価格と農民市場価格とのあいだに差が生ずることになるのですが、これを悪用して又売りする現象があらわれています。もう20年近く日本世論の風潮は「北朝鮮」を見下してきましたが、当の「北朝鮮」のキム・イルソン主席が1960年代には気が付き、その無意味さに警鐘を鳴らしていた「転売行為の権力的規制・取り締まり」を、2020年の日本人が本気で語っているというわけです。日本人の経済政策的センスは「北朝鮮」に劣ると言うほかありません。
もちろん、だからといって、卵をいくつか又売りした人を罪人扱いにして教化所に送るわけにもいかず、ほかの方法で統制するとしても、販売量を調節するといったようないくつかの実務的対策を立てること以外に方法はありません。もちろん、こうした対策もとらなければなりませんが、そんな対策では商品が一部の人たちに集中する現象をある程度調整できるだけで、それが農民市場で又売りされたり、闇取引される現象を根本的になくすことは決してできません。
この問題を解決するためには、品物を多く生産しなければなりません。産卵養鶏工場をより多く建設し、人民の需要をみたすほど大量に生産するならば、卵の闇取引はなくなるであろうし、農民市場で売買されることもおのずとなくなるようになるでしょう。こうした方法で国家的に人民の需要をみたし、農民市場で売買される商品を一つ一つなくしていくならば、最後には農民市場が不必要になるでしょう。
■真の問題である「買占めの発生」は、転売ヤーだけが原因ではない――配給制の導入で対応すべき
そもそも、転売ヤーが存在するがゆえの問題は何であるかというと、結局のところ「買占めの発生」であります。買占めが起こることによって物資が十分に行きわたらなくなることであります。しかし、買占めの発生は転売ヤーだけが原因ではありません。
今回は転売ヤーがクローズアップされたのでマスク不足の不満が連中に集中していますが、今後のことを考えると、転売ヤーによる物資不足への対応だけではなく、さまざまな原因で物資が不足するときに対応できる政策、不足物資を分かち合うための方法を用意すべきであります。
たとえば、消費目的の需要が集中したときや、自然災害等で生産能力や輸送能力が壊滅して通常的な需要さえも満たせないほどに供給が低下したときにも物資不足は発生します。このとき、転売ヤーを狙い撃ちするような政策しかもっていない国は、何の対応もできないことでしょう。今回も、マスク不足には転売ヤーの暗躍の痕跡が大いに見られますが、トイレットペーパー等の一時的不足については、転売ヤー云々というよりも一般消費者のパニック的殺到が主要因であるように見受けられます。
買占めの発生が問題の本質であるならば、「買占めをいかに防止するか」こそ政策目的に据えるべきです。買占めの発生という根幹的な問題からすれば、転売など枝葉的な問題に過ぎません。こんなことにコダワっていてはなりません。
その点、上掲:キム・イルソン主席の闇市対策は、「買占めをいかに防止するか」に対して回答を与えていると言えます。短期的には「配給制度の導入」、長期的には「生産の拡大」以外に方法はありません。闇市的な私的転売を強権的に禁じたところで、転売行為が根絶されるわけがなく、地下に潜行してゆくだけなのです。
■転売規制は実際的には導入困難
ここからは少し経済学的な話になります。転売規制は実際的には導入困難です。
チュチェ105(2016)年12月1日づけ「コンサートチケット転売問題は極めて経済学的問題である――転売禁止という雑な配給制がもたらす効果」でも論じたことですが、我々の市場経済においては、消費目的の「商品→貨幣→商品」の経済活動と利殖目的の「貨幣→商品→貨幣」の経済活動は区別しにくいのです。マルクス経済学的に考えるとこれは、「商品流通『W−G−W’』を認めながらも、利殖行為『G−W−G’』は認めない」ということになりますが、実際においてはこれら2つの行為は連続的であり、実践的には片方を禁じてもう片方を許すというのは困難なのです。だからこそ通俗的なマルクス主義者は市場経済を廃止して計画経済を導入するよう主張したのです。
唯一できそうなことといえば、「利幅規制」ですが、こうなると今度は「マルクスを殺した男」といわれるハイエクの議論に行き着きます。すなわち、「適切な利幅とは何であるか」ということです。そもそも、商品の価値は市場に売り出してみて初めて分かるものなのに、「何を以って『適切な価格』と言えるのか」ということなのです。
実運用を想定すれば、官僚の思い付き的な「標準価格」の設定が関の山でしょう。しかし、20世紀の社会主義計画経済の失敗は、まさに官僚が思い付き的な命令・行政処分を乱発して経済が混乱したためでした。そしていま日本では、厚労省が混乱のうちに機能麻痺に陥っていますが、では経産省なら大丈夫だと言えるのでしょうか? また、「軽減税率」を起こい起こせば、あれは財務省ですが、どうにも腑に落ちない理屈で権力的に裁いています。ソ連・東欧諸国の歴史を振り返り、また、日本の経済行政を見るに、私は官僚に対してそこまでの信頼を置くことはできません。
■補論:転売業に意義はあるか
転売業に意義はあるか――この風潮の中、危ないテーマを論ずることにしますが、久留米大学の塚崎公義教授が既に精力的に発信されているところです(すでに何本も類似記事を発表されているようです。勇気があり精力的でもある活動に敬意を表します)。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200301-00025741-gonline-bus_all&p=1
悔しい「マスクの高額転売」を野放しにせざるを得ないワケ経済学的に正しい解説だと私は思います。しかし、たぶん一般的には理解はされないことでしょう。なぜなら、学者にありがちな「客観」的な説明であり、生活者を中心に説明していないからであります。
3/1(日) 10:00配信幻冬舎ゴールドオンライン
これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ久留米大学教授の塚崎公義先生が、身近なテーマを読み解きます。第8回は、マスクの高額転売を苦々しく思っても禁止できない事情を解説します。
(本文省略)
生活者を中心にこのことを考えたとき、これもまたチュチェ105(2016)年12月1日づけ「コンサートチケット転売問題は極めて経済学的問題である――転売禁止という雑な配給制がもたらす効果」でも論じたことですが、我々が暮らしている市場経済では、需要者(買い手)の支払い申し出価格は、彼の商品に対する価値評価を反映しています。オークションを想定すれば理解し易いでしょうが、多くの買い手が支払い価格を申し出合うことによって、どうしても欲しい人はそれ相応の買い取り価格を提示し、それほどでもない人は「こんなものに、こんな額は払えない」として、オークションから退出します。価格設定が自由な条件下において、こうした買い手同士の競争が展開されることで、「なんとなく欲しい人」にではなく「どうしても欲しい人」に貴重な商品が渡ることになります。苦労して稼いだ金銭と貴重な商品とを引き替えにするからこそ、買い手側はマジになるのです。
売り手に対して高い金銭を払ってでも購入しようとする人は、喉から手が出るほど欲しがっている人です。価格設定を自由にすることによって、「なんとなく不安だから備蓄を積み増しておこうかな・・・」という人ではなく、「いままさに必要だから多少高くても買う!」という人に商品が回るのです。たしかに転売ヤーが儲かるのは癪に障る話ではあります。しかし、「なんとなく欲しい人が手に入れ、転売ヤーが儲かる」よりは「いままさに必要な人・どうしても欲しい人が手に入れ、転売ヤーが儲かる」方がマシではあります。その点、転売業は必要悪であると言えるでしょう。
もちろん、上掲過去ログでも述べたとおり、これは「金銭万能」をも正当化してしまう言説であり、私も全面的には支持するつもりはありません。たしかに転売は「喉から手が出るほどに欲しがっている人にこそ融通できるシステム」でありますが、もっと規範的分析においてスマートな分配論があれば、そっちであることに越したことはないと考えます。
以前から申し述べているように、私は社会主義支持の立場を鮮明にしているところです。歴史的事実を踏まえればこそ計画経済ではなく市場経済を活用するほかないことは理解していますが、市場万能主義に組することは決してあり得ません。だからこそ、そろそろ私的転売が目に余るようになってきたこのタイミングで、上述のとおり私は、「配給制を導入すべきだ」と言っているのです。
■総括
このように、転売の規制は実運用的には実施困難であり、また、転売ヤーも必要悪的な役割を果たしているわけです。そもそも転売ヤーが存在するがゆえの問題は何であるかというと、結局のところ「買占めの発生」ですが、一般的に買占めの発生は、転売ヤーの参戦だけが唯一の原因ではありません。買占めの発生が問題の本質であるならば、買占めが発生しない政策的対応をするのが本筋・王道です。その点において私は、転売規制などに取り組んで油を売るのではなく、早くから配給制を導入すべきだとするのであります。