2020年03月10日

経済政策の点においても防疫措置の点においても日本政府の政策センスは「北朝鮮」に劣っていると言わざるを得ない:「取得価格を超えるマスク転売」を権力的に禁止する愚かさ等について

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200310-00000043-jij-pol
「取得価格超」は禁止 15日からマスク転売規制 閣議決定
3/10(火) 9:08配信
時事通信

 政府は10日の閣議で、小売店で購入したマスクを取得価格より高値で転売する行為を禁じるため、国民生活安定緊急措置法の政令改正を決定した。

 違反者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す。15日に施行し、新型コロナウイルスの影響で品薄が続くマスクの供給回復を目指す。

(中略)
 規制対象となるのは小売店やネット通販などで購入したマスクで、購入者が取得価格を超える価格で第三者に転売すれば違法とする。製造、卸、小売りなどの事業者間で行う一般の商取引は対象としない。
(以下略)
■バカバカしく政策としての洗練度が低い「マスク転売規制」――「北朝鮮」のそれに劣る経済政策
バカバカしい。政策としての洗練度が低い。闇市的な私的転売を強権的に禁じたところで転売行為が根絶されるわけがなく、闇市は地下に潜行してゆくだけ。2月10日づけ「キム・イルソン主席の闇市対策に学ぼう――マスク買占め・高額転売を「道徳」や「民度」の問題とし、「権力的取り締まり」を求める言説の低レベルさについて」及び3月4日づけ「「北朝鮮」にも劣る稚拙な転売規制要求を展開する日本世論の愚:真の問題である「買占めの発生」には「転売規制」ではなく「配給制の導入」で対応すべき」でも論じたとおりです。

上掲引用記事のコメ欄で、元東京地検特捜部主任検事の前田恒彦氏が「転売サイトや通販サイトなどにおける不正転売を一つ一つチェックするのは大変ですし、特にTwitterなどを利用した地下に潜るやり方だと困難」と述べていますが、この新ルールによる取り締まりは結局のところ、転売ヤーの地下潜行を促すであろう点において、その政策目的を果たすことは困難でしょう。

市場は必ずしも単一ではなく、その価格もまた単一ではありません。オークションサイト・フリマサイトによって標準的価格は微妙に異なっていますそれゆえ、FX(外国為替証拠金取引)におけるアービトラージ(裁定取引)的な利ザヤ目的の投機は、この規制が導入されたとしても依然として存在する余地があります。割安な市場で仕入れ、仕入れ元を誤魔化しながら(そもそも、大量生産品の仕入れ元・購入元を厳密に追跡することは不可能的に困難です)割高な市場で売り抜けるわけです。

悪知恵が働く転売ヤーは、マスク着用文化のない国・地域や日本と比して物価水準が低廉な国・地域を見極める等、何らかの方法で1円でも安く秘密裏に仕入れ、仕入れ元を誤魔化して売り抜けて利ザヤを稼ぐことでしょう。アマチュアの転売ヤーは駆逐できるかも知れませんが、裏社会とタッグを組んでいるようなプロの転売ヤーにとっては、この規制導入は、むしろ「商機到来」といったところでしょう。指定暴力団等のシノギさえも取り締まり切れていない政府が、地下潜行した個別的な闇市的取引をしっかりと取り締まれるとは到底思えません。

単一市場(おなじオークションサイト・フリマサイト)内部においても、その価格は常に上下に変動しています。霞が関の官僚はどのようにして「取得価格を超えているのか否か」を判断するつもりなのでしょうか? 当のマスクがいつ幾らで仕入れられたものなのか、どうやって追跡するのでしょうか? まさか、一日中Amazon等をパトロールするつもりなのでしょうか?

商売人にとっては常識的なことですが、売買というものは、個人間の特別な関係が色濃く反映されるものです。チェーン店化が著しい昨今ではあまり見かけなくなりましたが、事業者間取引に限らず、商店街等での売買においても「いつも買ってくれるから、きょうは負けとくよ」といった具合で値引きしてくれるものです。競争入札、随意契約、またはメーカー希望小売価格での調達しか知らない官僚が「取得価格」を論ずるとは、何かのジョークでしょうか?

繰り返しになりますが、「北朝鮮」のキム・イルソン主席は、転売行為を権力的取り締まりで根絶することは不可能であると1960年代には理解しておられました。そんな「北朝鮮」をに対して日本世論は、もう20年近くにわたって見下す姿勢を取ってきました。しかしこうして見ると、当の「北朝鮮」に対して2020年の日本政府こそが「時代錯誤」的な転売規制:転売行為の権力的取り締まりを導入しているわけです。日本政府の経済政策の水準は、「北朝鮮」政府の経済政策に対して50年以上遅れていると結論づけざるを得ません。日本政府の政策的センスは「北朝鮮」に劣ると言うほかないのです

念のため、キム・イルソン主席の指摘のうち、関連部分を再々掲しておきます。
人民の需要をみたせない商品は、たとえ国家が唯一的に価格を制定したとしても、闇取引されたり、農民市場で又売りされるということを忘れてはなりません。商店の品物を買いだめしておいて、他人が急に必要になって求めるときに高値で売りつけるような現象があらわれるようになるのです。卵の販売の問題を例にとってみましょう。現在、平壌をはじめ、各地に養鶏工場を建設して卵を生産していますが、まだ人民に十分供給できるほどではありません。そういうわけで、卵も国定価格と農民市場価格とのあいだに差が生ずることになるのですが、これを悪用して又売りする現象があらわれています。

 もちろん、だからといって、卵をいくつか又売りした人を罪人扱いにして教化所に送るわけにもいかず、ほかの方法で統制するとしても、販売量を調節するといったようないくつかの実務的対策を立てること以外に方法はありません。もちろん、こうした対策もとらなければなりませんが、そんな対策では商品が一部の人たちに集中する現象をある程度調整できるだけで、それが農民市場で又売りされたり、闇取引される現象を根本的になくすことは決してできません。

 この問題を解決するためには、品物を多く生産しなければなりません。産卵養鶏工場をより多く建設し、人民の需要をみたすほど大量に生産するならば、卵の闇取引はなくなるであろうし、農民市場で売買されることもおのずとなくなるようになるでしょう。こうした方法で国家的に人民の需要をみたし、農民市場で売買される商品を一つ一つなくしていくならば、最後には農民市場が不必要になるでしょう。

キム・イルソン主席はの上掲教示は、需要>供給(需要過多)の商材について需給を一致させるためには、短期的には「配給制度の導入」・長期的には「生産の拡大」以外にはないことを示しています。闇市的な私的転売を強権的に禁じたところで転売行為が根絶されるわけがなく、闇市は地下に潜行してゆくだけである点において、あえて転売の行為の権力的規制を求める言説は、周回遅れの時代錯誤的言説という他ないのです。

■日本政府の政策センスは「北朝鮮」に劣っていると言わざるを得ない
1月31日づけ「朝日両国の新型コロナウイルス対策について」でも比較しましたが、1月末時点で「北朝鮮」のキム・ジョンウン委員長は、果敢にも「体制の命脈」とも言い得る対中交流を断絶されました。それに対して中国人観光客のインバウンド収入が気になって仕方がない日本の安倍首相は、結局、防疫的入国制限に踏み出せませんでした。防疫措置の点においても、日本政府のセンスは「北朝鮮」に劣ると言うほかないでしょう。

こうして考えると、不足気味の物資の分配(=経済政策)の点においても、防疫措置の点においても、日本政府の政策センスは「北朝鮮」に劣っていると言わざるを得ないでしょう。

■「何とかして転売ヤーに一泡吹かせたい」に凝り固まるのは政策目標達成を阻害する
ところで、今回の日本政府の施策で唯一評価し得る点があるとすれば、「即時施行ではない」というところくらいでありましょう。「世論」は、即時施行でない点に不満を表明していますが、日本政府は一貫して既に個人の私有財産になっているマスクを「没収」するような挙に出る動きは微塵も見せていません。2月28日づけ下記報道によると、経済産業省は、即時施行にしないことで出品者(転売ヤー)が抱える大量の在庫を放出させようと「誘導」しているようです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200228-00000165-jij-pol
マスク出品、在庫放出促す サイト事業者に要請 新型肺炎で経産省
2/28(金) 22:03配信
時事通信
 新型コロナウイルスの感染拡大で品薄が続くマスクの流通を促すため、経済産業省は28日、大手ネットオークション数社に対し、マスク出品を3月14日以降は自粛するよう要請した。

 それまでの2週間程度で出品者が抱える大量の在庫を放出させるのが狙い。
 
(以下略)
これに対して転売ヤー憎しの世論は、道理も何もかも無視して「何とかして転売ヤーに一泡吹かせたい」や「転売ヤーが困る姿を見たい」の一心に凝り固まっています。それゆえ、猶予を設けることには否定的な意見が噴出しています。

しかし、そもそも転売行為の何が悪いかと言えば、その前段階的現象として「買い占め」が起こることで物資の配分・物資の所有状況が歪んでしまうことにあります。しかし、時系列を冷静に整理して考えれば、既に転売ヤーが買い占めを完了しているわけだから、この段階でようやく転売行為を規制したところで、もはや物資不足には影響を及ぼさないと考えられます

もちろん、今後、次々に供給されるであろうマスクが買い占められないようにするためには、本来であれば転売規制ではなく配給制を導入するのが筋だとは思いますが、転売規制にも幾ばくかの効果はあるかも知れません。しかしやはり、既に買い占められた分については、今更どうしようもありません。市場価格で仕入れた限りにおいては、彼らの私有財産を没収することはできないでしょう。

むしろ、すでに物資の所有状況に偏在が生じている段階で即時的に転売行為を規制しようものなら、転売ヤーは、ほとぼりが冷めるまで商材を秘匿することでしょう。とりわけマスクは腐ったり痛んだりするものではなく長期保存に適した商材です。秘匿には適しているといえます。

マスク不足のご時世、たしかに転売ヤーが儲かるのは極めて不愉快な出来事ではあります。しかし、転売規制を即時的に導入することによって希少なマスクを秘蔵・死蔵させるよりは、転売規制を時差的に導入することで「いまのうちに売っ払っておいて方がいいぞー」といった形で時限的インセンティブを付与する方が、市場へのマスク流通量を増大させ得るであろう点において、公益をより増大させ得ると考えられます。

「何とかして転売ヤーに一泡吹かせたい」や「転売ヤーが困る姿を見たい」の一心に凝り固まって転売規制を即時的に導入することは、溜飲を下げることにはなるかも知れませんが、市場へのマスク流通量を減少させるであろう点において公益を損ねることになるのです。

落ち着きましょうよ。

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posted by 管理者 at 22:25| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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