本当に悪知恵がよく働くものです。それも、際どいラインで。朝鮮民主主義人民共和国のキム・イルソン主席が1960年代後半に指摘していた「転売禁止・転売行為の権力的取り締まりの困難性」が、さっそく2020年の日本の地で現実化しました。
やはり3月4日づけ「「北朝鮮」にも劣る稚拙な転売規制要求を展開する日本世論の愚:真の問題である「買占めの発生」には「転売規制」ではなく「配給制の導入」で対応すべき」で論じたとおり、「転売規制政策は善か悪か」ではなく「転売規制政策は意味があるかないか」こそが核心だったようです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200315-23150690-nksports-soci
抱き合わせ、替え玉…マスク転売規制も抜け道横行いまのところ、日本政府によるマスク転売規制政策は抜け穴だらけのようです。おそらく、こまごまとした一つ一つの取引すべてを国家権力が虱潰し的に取り締まることはできないでしょう。ノウハウもマンパワーもありません。
3/15(日) 19:44配信
日刊スポーツ
(中略)
マスク転売の温床とされたネットオークションやフリーマーケットアプリの運営各社ではマスクの出品を全面禁止した。各社ともに出品を確認した場合、ページを削除するとしている。
それでも規制初日にチェックすると「マスク50枚4980円」などの出品が確認できた。仕入れ価格から1円でも高い転売は禁止だけに「中国工場から直接仕入れで転売品ではありません」や「海外直輸入の正規品」など、転売ではないことが強調されていた。
マスクが極端な品薄となる前には、ドラッグストアなどで1箱50枚入りが実勢価格498円〜598円で販売されており、約10倍のイメージだ。ピーク時には「100枚8万円」や、中には同10万円を超える高額の転売もあっただけに価格下落の感はあるが、規制をすり抜けようとする新手の販売も浮上している。
別の商品にマスクをセットした「抱き合わせ販売」が登場した。化粧品などの購入者にマスクをプレゼントするケースがあった。政府は「独占禁止法が禁じる不公平な取引方法につながる恐れがある」と警告するが、「おまけやプレゼントだ」と主張すれば、その判断は難しいだろう。
また「替え玉販売」も登場している。マスクとして出品すると削除対象となるため「ペン」などと偽って出品する。高額出品で注目を集め、実はマスクとのセットであることを巧みに推測させるなど、関係省庁では警戒を強めている。一方で規制対象外となった消毒液は品薄にもかかわらずネット上で高額転売されている。規制する側と「転売ヤー」との、いたちごっこは続きそうだ。
(以下略)
また、仮に国家権力が虱潰し的に取り締まることができたとして、3月10日づけ記事でも書きましたが、そうすると恐らく転売ヤーは一切の販売を中止し、在庫を死蔵化させるでしょう。生鮮食品と異なりマスクは長期保存に適しているので、転売ヤーは、ほとぼりが冷めるまで大人しくしているものと考えられます。
転売禁止は、これから生産されるマスクが転売ヤーの手に落ちることを防ぎ、買い占めの発生を抑え込むことはできても、いま既に転売ヤーの手元にあるマスクについては、どうしようもありません。どう頑張っても市場には出て来なくなります。結局のところ、新たに生産されるまで当面の間、マスク不足は続くでしょう。
そもそも、転売行為の真の問題は、その前段階における「買い占め」の発生です。しかし、買い占めは転売ヤーだけが起こす問題ではありません。今後のことを考えると、転売ヤーによる物資不足への対応だけではなく、さまざまな原因で物資が不足するときに対応できる政策、不足物資を分かち合うための方法を用意すべきであります。それゆえ、買い占めを防ぐという政策課題に対しては、きちんと正面から向き合う必要があります。転売など枝葉的な問題に過ぎません。
いったい何度目の引用になるのかは自分でも覚えていませんが、キム・イルソン主席はかつて、次のように指摘されていました。
人民の需要をみたせない商品は、たとえ国家が唯一的に価格を制定したとしても、闇取引されたり、農民市場で又売りされるということを忘れてはなりません。商店の品物を買いだめしておいて、他人が急に必要になって求めるときに高値で売りつけるような現象があらわれるようになるのです。卵の販売の問題を例にとってみましょう。現在、平壌をはじめ、各地に養鶏工場を建設して卵を生産していますが、まだ人民に十分供給できるほどではありません。そういうわけで、卵も国定価格と農民市場価格とのあいだに差が生ずることになるのですが、これを悪用して又売りする現象があらわれています。供給不足の物資を買い占めて闇市的に私的転売することを強権的に禁じたところで、転売行為が根絶されるわけがなく、地下に潜行してゆくだけ、そのとおりになりました。やはり、供給不足に陥っている商品の需給を一致させるためには、短期的には「配給制度の導入」・長期的には「生産の拡大」以外にはないのです。
もちろん、だからといって、卵をいくつか又売りした人を罪人扱いにして教化所に送るわけにもいかず、ほかの方法で統制するとしても、販売量を調節するといったようないくつかの実務的対策を立てること以外に方法はありません。もちろん、こうした対策もとらなければなりませんが、そんな対策では商品が一部の人たちに集中する現象をある程度調整できるだけで、それが農民市場で又売りされたり、闇取引される現象を根本的になくすことは決してできません。
この問題を解決するためには、品物を多く生産しなければなりません。産卵養鶏工場をより多く建設し、人民の需要をみたすほど大量に生産するならば、卵の闇取引はなくなるであろうし、農民市場で売買されることもおのずとなくなるようになるでしょう。こうした方法で国家的に人民の需要をみたし、農民市場で売買される商品を一つ一つなくしていくならば、最後には農民市場が不必要になるでしょう。
3月4日づけ記事で取り上げたとおり、新たに生産されるマスクの一部は政府買い上げになるのであれば、その買い上げを拡大し、配給制(切符制ふくむ)を導入すべきでしょう。
ところで、消毒液は規制対象外になってしまったんですね。この手の規制について3月4日づけ記事で、「実運用を想定すれば、官僚の思い付きになりがち」という旨を書きましたが、まったくその通りになってしまいました。はやく消毒液も配給制にした方がよいでしょう。
一刻も早く供給量を増加させ、医療関連物資が高額転売される異常事態および、マスクは転売規制するのに消毒液の転売規制を忘れるようなアホな官僚に資源配分の権限を握らせる異常事態から脱却すべきです。
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3月4日づけ「「北朝鮮」にも劣る稚拙な転売規制要求を展開する日本世論の愚:真の問題である「買占めの発生」には「転売規制」ではなく「配給制の導入」で対応すべき」
3月10日づけ「経済政策の点においても防疫措置の点においても日本政府の政策センスは「北朝鮮」に劣っていると言わざるを得ない:「取得価格を超えるマスク転売」を権力的に禁止する愚かさ等について」