まずは日本。下記のような反応は決して珍しくないように思います。
https://news.yahoo.co.jp/articles/577530b214bbe19045b4f3d5eb1aabd0421724bd
トランプ氏感染「自業自得」 経団連会長厳しい発言日本において「自業自得」という言葉が持つ意味合いは、「日ごろから気に入らないが、なかなかケチをつけるチャンスがなかった相手方の失敗を見て留飲を下げる」といったところです。読者の皆さんも肌感覚でわかるのではないでしょうか。日本人の陰湿さを象徴する言葉であり発想であります。
10/5(月) 19:51配信
テレビ朝日系(ANN)
経団連会長がトランプ大統領の感染を「自業自得」と断じました。
経団連・中西宏明会長:「ちょっと不注意じゃないですかね。トランプさんの場合、元々マスクもされないとか、ある意味で典型的、自業自得だなと思います」
経団連の中西会長は新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領について「大規模集会をたくさんの聴衆がいるなか、マスクなしでやっていた」と指摘し、「自業自得だ」と述べました。
(以下略)
これに対するアメリカ世論に関する分析。
https://news.yahoo.co.jp/articles/71721505f94dcb4e647abb09190d0b96f6559fa4
トランプ感染で大統領選のキーワードは「アンダードッグ」にもちろん、アメリカにもトランプ氏に対して「カルマ(業)」という単語を使って非難する言説があるようなので、単純に割り切れる話ではないようです。アメリカにおいても日本的な陰湿さが一部には広がりつつあるのかも知れません。しかし、依然として社会全体としては、「ハンディを負いながらも戦いに臨む者に声援を惜しまない」という思想傾向にあるという指摘です。
10/5(月) 6:30配信
Forbes JAPAN
(中略)
バイデン陣営の動き
バイデン陣営も国民感情に配慮
さきほど、「同情票」と簡便に書いたが、実は同情ともちょっと違う。ここにはなかなかひとことでは言えないアメリカの文化的背景がある。アメリカは、国の誕生の歴史から、「圧倒的な権威や権力」に対する反発感がとても強い。だからこそアンチ・トランプの嫌トランプの念は強力であった。
一方で、アメリカはハンディを負いながらも戦いに臨む者に声援を惜しまない。「アンダードッグ」という言葉がある。それは相手に対して勝ち目のないチームや選手を指すことが多いが、アメリカ人は映画の「ロッキー」シリーズによく表れているように、アンダードッグがとても好きな国民なのだ。
勝ち目のない者に同情するというよりも、勝ち目がなくても正々堂々と相手に向かって行く姿にとてつもない美意識を感じるという志向だ。それは、「選挙権が与えられないなら納税しない」と当時の大英帝国に立ち向かった、250年前の独立戦争に重なるものだろう。
今回の場合、トランプ大統領自身が感染というハンディを負った。すると彼はすでに「バイデンと拮抗する強靭な候補者」ではなくなり、むしろ病状によってはアンダードッグにさえなりうる。
トランプ大統領は現在74歳であり、コロナ感染の場合の死亡率は18歳から29歳の人に比べると90倍のカテゴリーに入る。そのうえ、体重が100キロ以上もある体は、さらに危険を高めている。アンダードッグの「資格」は十分と言えるだろう。
アンダードッグ効果をいち早く恐れたのか、バイデン前副大統領の動きも迅速だった。トランプ大統領が新型コロナウイルス感染の情報が飛び回ると、いち早くツイッターで、「トランプとメラニア夫人の早期の健康回復を妻とともに祈る」と呟き、さらに「わたしたち夫婦は大統領とご家族の健康と安全を祈り続ける」とまで書いている。
あれだけトランプ大統領に、(米国が世界一の死者を出したのは)コロナ対策の不手際が原因だと集中砲火を浴びせていたバイデン前副大統領だから、トランプ大統領の回復に言及しながらも、具体的に彼のこれまでの「新型コロナウイルスを舐めたような政策や、めったにマスクをしない彼自身の態様」を、この時とばかりに冷静かつロジカルに責め立てることもできたはずだ。
(中略)
これも、アンダードッグ効果をすでに恐れ、浮動票がトランプ大統領に流れぬようにと深謀遠慮したバイデン前副大統領側の戦略だと考えていい。ハンディを負った人間に不用意に拳を振り上げると、自分が得ていた味方さえも相手側に回りかねないというアメリカ国民の感情を考えてのことだ。
いま、大統領選挙の勝者を予想することほど、無茶なことはない。
長野 慶太
最終更新:10/5(月) 6:30
Forbes JAPAN
日米両国の主流的世論反応から、日米両国の主流的思想傾向が見て取れた興味深い一幕です。
ところで、アメリカ大統領選挙をめぐっては、それにしても日本国内・日本語メディアでは情勢がつかめない!
たとえば先日の第1回大統領候補者テレビ討論当日のNHK「ニュースウオッチ9」は、「識者の評価」としてそれぞれ異なる分野の3人の識者を出し、その上、「両者引き分け」とする始末でした。
たしかに全知全能完全無欠な候補者はいないのだから、分野によって得手不得手はあるでしょう。しかし、視聴者が注目したいのは、ホットな論点においてどちらが本当に優勢だったのかということであり、それはやはり、特定の論点に関する複数の識者による多数決的評価でしか分かり得ないものです。にもかかわらず、まったく異なる分野の識者を一人ずつ出すようでは、その識者の個人的な見解にすぎません。これでは全体像は分からないのです。私は当日の番組をリアルタイムで視聴していましたが、結局どっちが優勢だったのか全く分からない、意味のない編成でした。
もちろん、NHKの番組編集部がそんなことも分からないはずがありません。このことはつまり、日本メディアもアメリカの情勢について分かりかねており「とりあえず両者痛み分け」としたのが真相なのでしょう。翌日以降、米CNNの世論調査が出るようになると一気に「バイデン優勢」などと報じたあたり、日本メディアがアメリカメディア、特にCNNに依存していることが明らかになりました。
そうかと思えば、独りよがりな独自論評が沸いてくるケースも。
たとえば昨日(10月8日)の、またしてもNHK「ニュースウオッチ9」。「米大統領選・勝敗の鍵握る若者たちの選択」と称して、いわゆるミレニアル世代について「他人の痛みが分かる世代」と評したうえで、そうした世代の投票行動が大統領選挙のカギを握る(=バイデン候補の岩盤支持層になり得る)と報じました。
典型的利己主義社会であるアメリカにおいて「他人の痛みが分かる世代」が育ちつつあることは福音であります。しかし、2000年以降に成人を迎えたミレニアル世代の人口比を考えるに、事実から出発すればこそ、あまり無邪気にはしゃいでいる場合ではないでしょう。
また、ミレニアル世代といっても一枚岩ではありません。西日本新聞が、「「トランプ許せないが、バイデンも信用できず」葛藤する民主党支持者 米大統領選」という興味深い記事を公開しています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/bcdcfe7f725c53b37a09774d417c9d10455faded
「トランプ許せないが、バイデンも信用できず」葛藤する民主党支持者 米大統領選こうした現地発のルポ的報道(=個別的事象の取り上げに過ぎず、統計的妥当性は保証されていない)もまた、どれほど事実を示しているかは不明瞭ですが、「ミレニアル世代」などと十把一絡げに総括して無邪気で独りよがりに論評するよりはマシだと思われるところです。あまりにも願望が先行すぎていると言わざるを得ません。
10/8(木) 10:32配信
西日本新聞
「大統領選はもうすぐなのに、今回ほど民主党の看板が少ない年はない」
ラストベルト(さびた工業地帯)の激戦州の行く先々で、民主党バイデン前副大統領の支持者から嘆く声を聞いた。それでも、全米世論調査ではバイデン氏が共和党のトランプ大統領をリード。9月21日に訪れた中西部オハイオでもバイデン氏優勢が伝えられる。
熱気なき支持拡大―。この訳を、人口27万人の工業都市トレドに住む黒人活動家ジュリアン・マックさん(36)に尋ねると、素っ気ない答えが返ってきた。「トランプは許せないが、バイデンも信用できず、失望している人が多いということだ」
(中略)
大統領選ではバイデン氏に投票する。ただ積極的ではなく「歯を食いしばりながらの選択」という。
マックさんは、国民皆保険制度の導入などを主張し、バイデン氏と民主党候補の座を争った最左派サンダース上院議員の熱烈な支持者だ。自身の選挙でも格差是正など抜本改革を訴え、追い風を感じている。
だからこそ、中道・穏健派の代表格で、現状維持のイメージが付きまとうバイデン氏には共感できない。前回選挙ではトランプ氏が、停滞ムードが漂うラストベルトの現状打破を訴え、民主党支持の中低所得者層から支持を集めた。なのに、党主流派にはその反省が見えない。バイデン氏への投票は「トランプを追い出す」ために他ならない。
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同じような葛藤が、サンダース氏を支持する10〜30代の若者に渦巻く。
トレド市内のバーで話を聞いたクリステン・ロビドゥさん(27)は、社会保障の拡充を求める市民に「共産主義者」とのレッテルを貼るトランプ政権の終焉(しゅうえん)を願う。「でも、単に誰かを落とすためだけの投票なんてしたくない」とも言う。
新型コロナ禍が深刻化した春以降、長期間自宅にこもったバイデン氏を応援する気になれない。「危機の間、姿を消すような人をリーダーとして信頼しろと言うの?」。仕事終わりの一杯だったはずのビールには一口も口を付けず、不満をぶちまけ続けた彼女は、バイデン氏への投票を決断しきれずにいる。
(以下略)
投票まで1か月を切っているというのに、情勢がつかめないところです。