それでもアメリカには「やってみよう」の精神が生きているこの主張の当否を考えるには、1.なぜ中道穏健派のバイデン氏及び民主党は勝てたのか、2.これからも中道穏健派のバイデン氏及び民主党は支持され続けるのか、を考える必要があるでしょう。
11/23(月) 6:00配信
週プレNEWS
(中略)
今回の大統領選は、しばしば1968年の大統領選――ベトナム反戦運動の激化、キング牧師と民主党ロバート・ケネディ候補の暗殺、暴動やデモの頻発といった混乱の末、保守派のニクソン政権が誕生した選挙戦――との類似点が指摘されました。
しかし当時と比べれば、2020年の米社会では深刻な政治的分断こそあれ、ある種の「変化に対する前向きさ」「どうなるかわからないけどやってみよう」というマインドがそれなりの規模で共有されつつあると見ることも可能でしょう。副大統領に就任するカマラ・ハリス氏は、連邦レベルでの大麻合法化にも積極的な姿勢を示しています。
もちろん、ドラッグの非犯罪化という一点だけではありません。同性婚、不法移民問題、環境問題など、1960年代から続くさまざまな社会課題が世代をまたいだ"新陳代謝"によっていよいよクリアされつつあり、"分断後"の未来に大きな変革が起きる兆候を感じています。
無数の小さな変化やイノベーションが連鎖し、まるで地下水が小さな裂け目に流れ込んで猛烈な水圧で岩盤を壊していくように、「変化」への渇望が既存の概念や環境を破壊して新しい価値を創造していくという希望です。
(中略)
当然、それを牽引(けんいん)するのは若い世代になるでしょう。大人になればなるほど、社会的地位が約束されていればいるほど、「現行の枠組みのなかで調整する」ことを無意識のうちに優先します。それは保守派のみならず、リベラル層も同じです。
しかし、いわゆるZ世代に代表される若年層は、既存のシステムや既存の豊かさが崩壊するなかで育ち、その恩恵を受けられなかった。いい年になるまでノンポリでいられた人々とは違い、ぼんやりとしたモラトリアム期間を持つことが許されなかった。それこそ物心がついたときから"臨戦状態"だったわけで、ナチュラル・ボーン・アクティビストの世代と言ってもいいでしょう。
この世代は、ここ数年のトランプ現象を上の世代とはまったく違うスコープで見てきたと思います。人種差別の扇動も、環境問題の否定も、奴隷制時代の遺産である大統領選の選挙人制度も、彼ら・彼女らから見ればまったく理解できない"茶番"でしょう。
この世代が本格的に覚醒し、その思想と実行動がうねりを生んだとき、米社会は大きな変化を受け入れることになるのではないでしょうか。後になって振り返れば、トランプ政権の4年間はその助走期間だったということになるかもしれません。
■なぜ中道穏健派のバイデン氏及び民主党は勝てたのか? これからも中道穏健派のバイデン氏及び民主党は支持され続けるのか?
なぜ中道穏健派のバイデン氏及び民主党は勝てたのでしょうか?
結論を言ってしまえば、バイデン氏はサンダース氏やウォーレン氏ら左派と「妥協」し、彼らが掲げる再分配優先的な経済政策・社会政策を一部取り込んだからこそ党内左派の支持を得ることができ、民主党の候補者になることかできました。大統領選挙においては、左派色を薄めて中道寄りであることをアピールしました。「バイ・アメリカ」のようにトランプ主義の一部をパクることまでしました。それゆえに、より多くの有権者の支持を得られたから勝利できたのです。党内の左派勢力に配慮し、一般有権者の中道意識に配慮し、さらに前回大統領選挙でトランプ氏の国内産業保護政策に期待した有権者の要求にも配慮した結果、やっとのことで勝利を収めたのです。
今後、この八方美人なやり方を決算すべきときが必ずやってきます。このことはすなわち、これからも中道穏健派のバイデン氏及び民主党は支持され続けるのかという問いにほかなりません。元来、中道派と左派は特に経済政策・社会政策において相容れない関係性にあります。「反トランプ」のために強引に休戦したものの、今後、民主党候補者争いの初期のような対立が再燃してゆくも十分に考えられるところです。
ロバートソン氏は以前の別記事で、「極左ポピュリズム」について「資本主義によって世界が回っているという事実も、その仕組みをスクラップしたらどれほど多くの人が"返り血"を浴びることになるかという議論も無視」していると批判しましたが、民主党内の左派は、同性婚、不法移民問題、環境問題といった「生活の問題ではないとは言わないが、日々の衣食住問題でもない」テーマ以上に、日々の衣食住問題に直結する経済政策と社会政策に最大の関心を持っています。究極の選択として「トランプかバイデンか」と迫られれば彼らは「バイデン」と答えるでしょうが、彼らの関心はあくまでも経済政策と社会政策であり、それはすなわち所謂「民主的社会主義」なのです。
そうなると、「同性婚、不法移民問題、環境問題など、1960年代から続くさまざまな社会課題が世代をまたいだ"新陳代謝"によっていよいよクリアされつつあり、"分断後"の未来に大きな変革が起きる」といったようなリベラル好みの方向にいかない可能性は十分にあるでしょう。「極左ポピュリズム」化は疑いなくアメリカにとって大きな変革に他なりませんが、おそらく中道・リベラル派の望むところではなく、よってロバートソン氏の望むところでもないでしょう。ロバートソン氏は、「バイデン氏勝利」に浮かれているように思えてなりません。
■若者はいつまでもリベラリストのままで居続けるだろうか?
ロバートソン氏は、「大人になればなるほど、社会的地位が約束されていればいるほど、「現行の枠組みのなかで調整する」ことを無意識のうちに優先します」などとした上で「それこそ物心がついたときから"臨戦状態"だったわけで、ナチュラル・ボーン・アクティビストの世代と言ってもいい」とし、さらに「この世代が本格的に覚醒し、その思想と実行動がうねりを生んだとき、米社会は大きな変化を受け入れることになる」と予言しています。
かつて田中角栄は、ロベール・ギランによるインタビューの席上、日米安保条約の自動延長に反対する左派系学生運動について、次のようにのべたとされています(秘書・早坂茂三氏の証言)。
日本の将来を背負う若者たちだ。経験が浅くて、視野はせまいが、真面目に祖国の先行きを考え、心配している。若者は、あれでいい。マージャンに耽り、女の尻を追い掛け回す連中よりも信頼できる。彼ら彼女たちは、間もなく社会に出て働き、結婚して所帯を持ち、人生がひと筋縄でいかないことを経験的に知れば、物事を判断する重心が低くなる。私は心配していない果たして彼らはいつまでも「大人」にならず、いつまでも「社会的地位」が保証されないのでしょうか? さすがに想定しにくい展開です。
仮にそうなるとしましょう。しかし、日本には「貧乏暇なし」という言葉がありますが、いい歳して尚も「既存のシステムや既存の豊かさが崩壊するなかで育ち、その恩恵を受けられな」いとなると、リベラル運動などしている場合ではなくなるのではないでしょうか?
いまのところ、日々の衣食住問題についてはトランプ氏及び共和党もかなりの「ノウハウ」を持っています。共和党は、日々の衣食住問題をテーマにすると票になることを前回大統領選挙の勝利と今回大統領選挙の急激な追い上げによる大善戦で学びました。他方、今回の大統領選挙でのバイデン氏及び民主党の勝利によってリベラル派が妙な成功体験を持ってしまうとなると、リベラル派は日々の衣食住問題を更に軽視するようになるでしょう。
生活者としての人民大衆は、なによりも日々の衣食住問題を最重視します。リベラル派が今後も日々の衣食住問題を軽視して価値観問題に拘泥するようであれば、若者はいつまでもリベラリストのままで居続けることはないでしょう。
以前にも「なぜ若者は投票に行かないのか?」「どうしたら若者は投票に行くようになるのか?」といった問いを立てることもなく、無邪気に「若者は政治に関心が高くなかったり、あるいは政治に絶望していたりといった理由で投票には行っていないものの、実生活ではそれなりにリベラルな感覚を持っている。彼らが投票に行くようになれば社会は変わる」といったビジョンを掲げていたロバートソン氏(11月3日の記事で批判しました)ですが、今回もかなり苦しい「若者期待論」であると言わざるを得ません。
ラベル:リベラリズム批判