トランプ前大統領に無罪評決 共和党 距離のとり方で難しい立場■さすがにどんな事情があろうとも、議事堂乱入を擁護することは不可能
2021年2月14日 14時36分
アメリカの連邦議会への乱入事件をめぐる弾劾裁判で、議会上院は13日、トランプ前大統領に無罪の評決を下しました。野党 共和党は幹部がトランプ氏の責任を認めた一方で、有罪を支持したのは一部の議員にとどまり、根強い影響力があるトランプ氏との距離のとり方で難しい立場に置かれていることが浮き彫りになりました。
(中略)
評決で有罪と判断したのは、100人の議員のうち、与党 民主党系の50人に加え、共和党の7人を含む57人にとどまり、有罪評決に必要な出席議員の3分の2には達しませんでした。
議会への乱入事件をめぐっては、世論調査で、共和党の支持者の間でも半数近くがトランプ前大統領に責任があると答えています。
評決について、共和党のマコネル院内総務は「前大統領に責任があるのは疑いようがない」と認める一方で、公職に就いていない人物を弾劾することはできないという憲法解釈を理由に無罪と判断したと強調し、理解を求めました。
弾劾裁判を通じて、共和党内ではトランプ氏の影響力が依然として根強いことが示された一方で、国民に大きな衝撃を与えた乱入事件を踏まえ、トランプ氏との距離のとり方で党として難しい立場に置かれていることが浮き彫りになりました。
民主党 ペロシ下院議長 共和党側の対応を厳しく批判
評決のあと、民主党のペロシ下院議長は記者会見で「われわれが上院で見たのは、職を失うことを恐れ、ほかに選択肢がない臆病な共和党議員たちの姿だ」と述べて、共和党の支持者の間でトランプ氏の人気が根強い中、多くの共和党議員がみずからの選挙への影響を懸念し、無罪の判断をしたと非難しました。
そのうえで、共和党上院トップのマコネル院内総務が、退任した大統領を弾劾裁判で裁くことはできないと主張したことについて「20日まで弾劾裁判を開けない状況をつくったのはマコネル氏だ」と指摘し、先月13日に議会下院で可決された弾劾訴追決議を、当時、議会上院で多数派だった共和党側が、トランプ氏が退任する先月20日までに受け取らなかったため、現職の大統領の責任を追及することができなかったと、厳しく批判しました。
評決後の与野党の演説では
評決のあと、民主党の上院トップのシューマー院内総務は演説し「トランプ前大統領は暴徒をけしかけ、権力の移行を暴力的に妨げようとした。憲法の定める最も厳しい措置である弾劾に値する典型的な行為だ」と述べて、改めてトランプ氏を批判しました。
さらに「共和党議員のほとんどは無罪と判断し、トランプ氏とともに歴史に名前を刻んだ。事件があった1月6日はアメリカの歴史に『屈辱の日』として残り、トランプ氏を有罪にできなかったことは議会の歴史に『屈辱の投票』として記憶される」と述べ、共和党も批判しました。
そのうえで「トランプ氏は有罪に値し、国民からも有罪だと評価されるだろう。そして再び公職に就こうとしても、国民からはっきり拒絶されるだろう」と述べ、政治活動などを行うべきではないと訴えました。
一方、共和党の上院トップのマコネル院内総務は演説で「トランプ氏の支持者たちが議会に乱入したのは、地球上で最も権力があるトランプ氏が選挙の敗北に腹を立て、大それたうそをついたことが原因だ。トランプ氏の暴動直前の行為は恥ずべき職務怠慢であり、暴動を引き起こしたことに責任があるのは疑いようがない」と述べて、トランプ氏を批判しました。
ただ、マコネル氏は「トランプ氏が大統領在任中であったなら弾劾訴追について慎重に検討していただろう。しかし、トランプ氏は退任していて、憲法上、有罪評決を受けるのに適格ではない。われわれには公職を離れた民間人を有罪と評決する権限はない」と述べ、トランプ氏を弾劾することはできないという立場を強調しました。(以下略)
「トランプ文化大革命」が最後の最後にリアル文化大革命騒ぎになった件を巡る弾劾裁判に無罪の評決が出ました。予想の範囲内のことではあります。
以前から述べてきたように、当ブログにおいて「文化大革命的」というのは最強度の非難の言葉であります。キム・イルソン同志がかつて言明したように「社会の構成員を互いに反目し、憎みあうようにするための階級闘争」は是認できないので、私は文化大革命「的」な政治手法には常に批判的であってきました。
他方、本来は政治的庇護者であるはずの民主党に見捨てられたアメリカの労働者大衆が、本来は資本家の味方である共和党の、労働者性が絶無である大金持ちのトランプ氏に最後の希望を託さざるを得ないというアメリカ政治の絶望的情勢を考えると、文化大革命「的」な政治手法は絶対に容認できないものの徹底的に論難することには些かの躊躇いもありました。当ブログのトランプ氏批判に若干の生ぬるさがあったことを見抜いた方もいらっしゃるかと思いますが、そういう複雑な思いゆえのものでした。
しかし、議事堂乱入はもはや文化大革命「的」ではなく、まさに文化大革命というべき暴挙であると言わざるを得ません。民主党が頼りにならないことには今でも深い同情の念を持っていますが、さすがにどんな事情があろうとも、議事堂乱入を擁護することは不可能なのです。
■結局最後まで、トランプ氏支持者の考えがまったく分からななかった
私の基本的認識を述べたところで、上掲のNHK記事について見てみたいと思います。明らかに、弾劾可決支持の立場に立ちつつトランプ氏に忖度した共和党議員の反対のせいで無罪評決になった、共和党が事実をゆがめたという筋書きで書かれている記事です。しかしながら、すこし詰めが甘いようで、自ら突っ込みどころを埋め込んでいます。
記事中、「議会への乱入事件をめぐっては、世論調査で、共和党の支持者の間でも半数近くがトランプ前大統領に責任があると答えています」というくだりがあります。トランプ氏については世論調査主体によってまったく異なる結果が得られる点、また、「トランプ前大統領に責任がある」という回答がすなわち「弾劾されて然るべき重罪である」に結びつくものではない点、そこを明らかにしないNHK記事は不誠実ですが、それらをすべて差し置いたとしても、このことはすなわち、共和党支持者の間でも半数近くがトランプ氏には責任は「ない」と考えている(または分からない)ことを示しています。
共和党から立候補して当選した議員であれば当然、こうした共和党支持者の意向に敏感であらねばなりません。民主党のペロシ氏は「われわれが上院で見たのは、職を失うことを恐れ、ほかに選択肢がない臆病な共和党議員たちの姿だ」といいますが、「失職の恐怖」が代議員をして民意に従わしめる最も効果的な要素である点、この罵倒は失当であるように思われます。むしろ民主党は、民意を外した政策が個人的に「正義」だと信ずれば、仮に失職しようとも実現にまい進する代議員たちの集団だというのでしょうか? それはそれで怖いですね。
それでは、トランプ氏に責任は「ない」と考えている共和党支持者たちはいったい何を考えてそのような結論に至っているのでしょうか? 「トランプ氏を擁護する共和党支持者たちの言い分」――これが今回の弾劾裁判で最も重要な点であるはずです。しかし、NHKニュースは、弾劾賛成の民主党関係者の言説は紙幅を割いて取り上げる一方で、共和党関係者については、「トランプ氏に責任はあるが弾劾裁判は違憲」というマコネル院内総務の発言を取り上げるにとどまっています。
結局最後まで、トランプ氏を熱心に支持する人たちが何を考えてそうした結論にいたっているのかがまったく分からななかったわけです。
■トランプ氏を生んだ土壌は変わっていない
リベラリストは、トランプ氏の下野について次のような調子で「勝利」を宣言しています。
https://www.cnn.co.jp/usa/35165125.html
ドナルド・トランプ大統領は敗者として去る「父の悪意ある教訓」がドナルド・トランプを育て、彼が民主制度を弱体化させたといいます。一人の男の悪意によって弱体化するほどアメリカの制度は脆弱なんだそうですwそんなわけがありません。「個人」を強調し過ぎている、いかにもCNNらしい観念論としてのリベラリズムの典型的な見方であると言わざるを得ません。トランプ氏個人を排除すれば問題は解決するという考え方は、救世主待望論や悪人粛清論と同じ考え方です。
2021.01.15 Fri posted at 18:30 JST
(CNN) 伝記作家はこう述べている。かつて、ある冷酷非情なニューヨークの不動産開発業者が悪意のこもった教訓を息子に授けた。やがて米国の大統領となる息子に。
この世には2種類の人間がいる。フレッド・トランプは事業家見習いの我が子にそう説いた。それは相手の息の根を止める者と、敗れ去る者だ。
伝えたいことは明白だった。戦いには必ず勝て。どんな手段を使ってでも。ルール? 基準? それは敗者のためのものだ。フレッド・トランプは敗者など眼中にない。
この教訓を、ドナルド・トランプは嫌というほど叩き込まれた。
生涯を通じて、トランプ大統領はそうした信念に基づき行動してきたように思える。世界は弱肉強食のジャングルで、強い者が勝者となり、望むものを手に入れる。どんなことをしてでも必ず手に入れる。弱い者だけがルールに従って戦い、敗者となる。
トランプ氏の世界では、うそをついて相手の優位に立つ行為はほとんど問題にならず、むしろそうしないことが問題とみなされてしまうらしい。他の連中を出し抜かなくては、間違いなく自分が出し抜かれてしまうからだ。
それこそがトランプ氏の事業経営の考え方だったように思える。行く先々で後に引けない状況を作り出し、仲たがいしたビジネスパートナーからの訴訟沙汰は数知れず。債権者や規制当局、納税の義務を巧妙に逃れているとの疑いをかけられ、業者への未払いや顧客を欺いたといった非難にもさらされている(本人は商取引であれ納税申告であれ不正は一切行っていないと主張する)。
そうした哲学を、同氏は大統領の職務にも持ち込んだ。ルールや基準に著しく違反し、民主主義の機能を守る制度を弱体化させているのだ。
(以下略)
アメリカでは敵を「クレイジー」と見なす癖があるといいます。悪しき現象を関係者の人間的欠点や歪んだ物の見方に帰したがる。この観念論的誤りは朝米首脳会談の時に反省されたはず(「米朝会談「アメリカは高潔・聡明、敵はクレイジー」外交のツケ」 2018年6月19日(火)16時38分 ニューズウィーク日本版)ですが、ここにきて再び沸いてきたようです。
キム・ジョンイル総書記は「一人では将軍になることはできません」と仰いました(『党のまわりに固く団結し新たな勝利のために力強くたたかっていこう』チュチェ84・1995年1月1日)。個人の決意は組織を通して実現するものです。CNN・リベラル派=主観観念論者は「個人」を万能に描き過ぎているわけです。
トランプ氏個人の悪意にすべてをかぶせてもトランプ氏を生んだ土壌は変わりません。こんな調子では、トランプ氏は黄色信号だとしても、「もう少し洗練されたトランプ氏の弟子」が出てくるのは時間の問題であり、そうなれば情勢はすぐにひっくり返ってしまうでしょう。
■今後もしばらくは、トランプ派が勝つこともあればリベラリストが勝つこともある
また、リベラリストは、トランプ氏の下野を以ってアメリカの良識が回復するといいます。
実に不可思議な歴史観です。歴史的に見て二つの相いれない立場が闘争を展開するときは、あるときは一方が勝ち、またある時は他方が勝つことがしばらく(数十年のスパン)で続くものです。片手で数えられる程度の回数の勝敗では、歴史的視野での勝敗は決め難いものなのです。
トランプ氏を生んだ土壌は依然としてまったく変わっていません。今後もしばらくは、トランプ派が勝つこともあればリベラリストが勝つこともあるでしょう。都合の良い断片的事実に飛びつくのではなく、歴史と科学にもとづいて時系列的・体系的に現実を見る必要があります。
■総括
弾劾裁判を巡るトランプ氏支持者の言い分に迫らないNHKの見方、トランプ氏を生んだ土壌の土壌に迫らないCNNの見方、そして都合の良い断片的事実に飛びつく見方。4年間何も学ばなかったようです。