2021年06月20日

やはり「キム王朝」は実際には「王朝」とは言い難い

朝日新聞記者:牧野愛博氏の無茶な「分析」記事について取り上げた6月17日づけ「「金王朝の変質」論を事実に即して検討すると、そもそも金「王朝」ではないということになる」のコメント欄に、読者さんから情報提供がありました。コメントありがとうございます。

やせた金正恩氏、気力に衰え? 減る「現地指導」、気になる「第一書記」ポスト」という、牧野愛博氏の記事をご紹介いただきました。なかなか凄まじい内容であると言わざるを得ません。

主張内容が散漫的で、全体を通して何が言いたいのかいまいちよく分からない仕上がりですが、タイトルから推測するに「気力に衰え」などと言いたいようです。それにしても「余計で些末なエピソード」が詰め込まれています。「ぼくちゃん、こんなに『北朝鮮』について詳しいもんね!」と知識をひけらかす中学生的な振る舞いを彷彿とさせるものです。

せっかくご紹介いただいた記事ですから、読むのも苦痛なレベルの散漫な文章でしたが頑張って読んだところ、次のくだりに目が留まりました。
金正恩氏はカリスマ性があって正真正銘の独裁者だった金日成主席とは異なる。ドイツ大使として北朝鮮に2度赴任したトマス・シェーファー氏も「金正日総書記も軍などに気を遣っていたが、正恩氏の権力は父親よりもはるかに弱い」と語る。正恩氏はエリート層との共生関係にある「名目上の独裁者」に過ぎないといえる。
6月17日づけ「「金王朝の変質」論を事実に即して検討すると、そもそも金「王朝」ではないということになる」で取り上げた記事の内容と同じ趣旨ですが、当該記事よりもハッキリと、「キム王朝」が実際には「王朝」とは言い難い事実を指摘しています

牧野氏がいままで言ってきたキム「王朝」の権力とは、絶対主義王権の典型:フランス・ブルボン朝のルイ14世を超えるような権力、王者が完全にフリーハンドで誰にも気兼ねせずに自由奔放に権力をふるうことができ、臣下は誰も王者に意見できないような絶対的権力を念頭に置いたものです。しかしここにきて「金正日総書記も軍などに気を遣っていたが、正恩氏の権力は父親よりもはるかに弱い」というシェーファー駐朝ドイツ大使のコメントを引く牧野氏。本当に「血統」が権力の源泉であるのならば、絶対的王君が軍に気を遣うはずがありません。つまり牧野氏は、2代目指導者であるキム・ジョンイル総書記の時代から既に、共和国政権は「王朝」とは言い難かったと言っているに等しいわけです。さすがに2代目への権力継承時点で「王朝」だとは言えないとすれば、そもそも「王朝」ではなかったと言う他ありません。このあたりに慎重だったコ・ヨンギ(『デイリーNKジャパン』編集長で、エロゴシップ記者)などは、ある意味「将軍様天才論」に乗っかっていたものでした。

次のくだりも、牧野氏の「北朝鮮音痴」に如実にしめすものです。
しかし、経済状態の悪化で成果を出せる施設が減っている。正恩氏が訪れた施設も中小規模の工場や建築物が目立っていた。2020年まで実施した国家経済発展5カ年戦略も失敗した。米国との外交戦にも敗れ、何の経済的利益も得られなかった。
中小規模の工場や建築物に対する重点的な訪問の意味が牧野氏は分からないんですね。20年以上前の「苦難の行軍」期に発揮された「カンゲ精神」以来、地方の中小規模の生産拠点の重要性が「自力更生」のスローガンの下に重視されています。今日の苦境を乗り越えるカギは、地方の中小規模工場にある――これは共和国政権の動向を見守っていれば分かるはずです

牧野氏が「血統」論に拘るあまり、いかに現実を見ていなかったのかがよく分かるくだりと言う他ありません。
朝日新聞外交専門記者を名乗る牧野愛博氏の見解とは、この程度というわけです。

老婆心的に申し上げておけば、まずは分析対象の内的理論を、荒唐無稽に見えたとしても受容する必要があります。「儒教倫理」と「科学的社会主義」という、正統性を何よりも重視する2大思想の特徴を具有する共和国政権は、なによりもストーリー性の確保にこだわります。「カネになれば何でもいい」という営利主義的な手合いには理解不能かも知りませんが、世の中には「正統性第一主義」の立場があるのです。

「異なる立場の人士の事情を慮る」というのは、それこそ朝日新聞の社是として「多様性重視」に繋がるものだ思うんですけどね・・・
posted by 管理者 at 19:09| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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