2021年08月06日

あまりにも「先手」を取り過ぎたことが今後に及ぼす影響は測り知れない

https://news.yahoo.co.jp/articles/4c9684e8820aec8525dd26ddecb1aa1abe31e5d0
尾身氏「事前に相談なかった」 自宅療養原則への政府方針転換で
8/4(水) 11:25配信
毎日新聞

(中略)
 この点について、田村憲久厚労相は答弁で「病床のオペレーションの話なので政府で決めた」と理由を述べた。田村氏は「(今年春に)大阪では感染が拡大して中等症で重い方々が病床に入れなくなった。(東京は)今はその感染拡大局面に入りつつある」と指摘。その上で、「このままでいくと中等症で入らないといけない方が病床に入れずに在宅で対応できないことが起こる。中等症で呼吸管理している重い方々は入院するが、中等症でも軽い方は(病床を空けることで)重い方が来た時に入れるような状況を作る。国民の命を守るために必要な対応だ」と理解を求めた。
(以下略)
■「入院トリアージ」が必要になりつつある――いままでの「緊急事態」とは訳が違う
医師会を締め上げるなどして遊休状態にある医療資源を掘り起こせばまだ稼働を高められそうな現時点、少なくとも、そのように考えている国民が一定数存在している現時点(近頃、医師会が目立たないように声を潜めていることに注目!)で、その可能性の探究に取り組まず(取り組んでいるのかも知れないが、見えてこない)に「医療崩壊を防ぐための原則自宅療養」への切り替えは、私は時期尚早に思われますが、厚生労働省の担当者は、遠からず「入院トリアージ」が必要になると見ているのでしょう

もし、いよいよ本当にそうするしか道がなくなってしまったらば、これは政治判断になるでしょう。「救急車お断り」と同じで、医師でもある専門家たちは「結果的に救えないことは仕方ないが、初めから見捨てるような原則にはできない」でしょう。しかし、そうこうしているうちに事態が急激に悪化し、軽症も中等症も重症もごちゃ混ぜに一気に押し寄せてくるようになれば、これもまた「救えるはずの命が救えなくなる」ことに繋がります。

トリアージに対する反感・拒否感が根強い日本。もちろん、「選別」しなくて済むに越したことはありません。「すべての命を救う」という医療の大原則には合致しないのがトリアージの原則であります。しかし、必要なときには頭を切り替えなければならないものです。通常医療から災害医療への切り替えの瀬戸際、医療の原則の天地がひっくり返る瀬戸際に今あるのです。いままでの「緊急事態」とは訳が違うのです。

オーサーコメントで佐藤みのり弁護士が「「中等症の軽い方」を入院させずに守ることができるのか、専門家の意見を聞かないと分からないのではないでしょうか」とか「そもそも「中等症の軽い方」とはどこまでなのか、線引きも現場の医者や専門家でなければ分からない」などと主張しています。

前者については、もはや事態がトリアージの段階に入りつつあるとみるのが妥当だと思われます。トリアージにおいて中等症扱いの黄色タグは、重症扱いの赤色タグに症状が悪化する可能性があるものですが、後回しにされる原則です。「政治は、国民みんなの利益をどう調整し、みんなが幸せに暮らせるようにするか、という問題」ともいう佐藤弁護士ですが、トリアージは「非常事態の政治」というべきものです。

後者については、中等症Tに線引きも何もありません。いまだって臨床医が判断しているものです。同じ患者・症状でも医師によって診断が微妙に異なることはあり得ますが、更に細かい「統一基準」を求めるのだとすれば、それは果たして現実的なのかという疑問が浮かびます。何でもかんでも「事前の基準」を求め、それに杓子定規的に当てはめようとする日本人の悪い癖を感じさせるところです。

それどころか、これはそもそも大枠・総路線の提示として捉えるべきものであり、「線引き」のような具体的なことは今後詰めてゆくべきことです。初めから細部まで作り込もうとする日本人の悪い癖を感じさせるものです。

■あまりにも「先手」を取り過ぎたことが今後に及ぼす影響は測り知れない
公明党のみならず自民党内からも撤回要求が出てきています。他方、意外なことに時事通信が「「入院制限」に広がる不安 病院から「仕方ない」の声も 新型コロナ」(8/5(木) 7:10配信)という記事を公開しています。ヤフコメも「事態がここまで悪化するまで有効な手を打たなかった・打てなかった責任を取れ!スガ辞めろ!」といとか「選挙には必ず行こう!」といったコメントは見られるものの、目下の医療ひっ迫をどうにかするという観点のコメントは乏しく、一種の「諦めモード」に入っています。沈みかけの船で「お前が悪い!」「いやお前が悪い!」とやるのは、もはや万策尽きたときの最後のアクションであります。

※しかし「アベ辞めろ!」で辞めさせ、今度は「スガ辞めろ!」で辞めさせられたとして、次の人が事態を解決できる見込みがあるのか実に不思議なところです。「封じ込めに成功している」と言われてきた海外の国でも感染が急拡大している現状です。以前にも述べましたが、システム開発においてしばしば見られる、「実現可能性の乏しい要求を展開するド素人の発注者が全責任を業者に被せ、次々とシステム開発業者を交代させてゆく典型的な失敗」と瓜二つの展開です。

中等症も原則入院対象と明確化 政府、療養方針の資料を修正」(8/5(木) 20:11配信 産経新聞)というニュースも出てきましたが、よくよく見るとほとんど変わっていません。現時点で最終的にどう落とし前が付くのかは私には占うことはできませんが、私は前述のとおり、観測気球だとしても時期尚早に思います。

もしこの方針が凍結・先送りではなく白紙撤回されるようなことがあれば、あまりにも「先手」を取り過ぎたことが今後に及ぼす影響は測り知れないでしょう。この一見が失敗に終われば、今後は間違いなく政治判断を下すことに尻込みするようになるからです。いまの日本では「批判を受けること」を皆が一番恐れており「守りの姿勢」に入りがちな事態です。これで失敗すれば「決断への恐怖心」がますます増すでしょう。

また、上掲の佐藤弁護士のような批判言説が出たことは、ある意味「非情」なトリアージ的な権力発動を遠のかせることにもなるでしょう。もともとトリアージに対する反感・拒否感が強い傾向にある日本でしたが、ますますそれが増強するということです。

さらに、総路線を提示した段階で「線引き」がどうのといった具体的な細部にかかる批判が出てきてしまったこと、臨地・臨床的な判断基準に「事前」に「細かく」定めることを要求する主張が出てきたことは、「事前に・最初から細部まで作り込もうとし、結果として複雑巧遅で硬直的になる」という日本人の悪い癖を更に強めることになるでしょう。

この悪影響は測り知れません。
posted by 管理者 at 07:24| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。