2022年01月30日

【追記】こんにちの朝鮮民主主義人民共和国の経済にかかる3題・・・社会主義的競争、社会主義的イノベーション、嗜好品への注目

昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第4回全員会議で「朝鮮式農村振興戦略」が提起されたことをうけて今年に入ってから共和国では農業政策がホットイシューとなっています。農業省が農業委員会に格上げされたり、朝鮮農業労働者同盟第9次大会が開かれたりしています。アメリカによる厳しい経済封鎖のさなかにおいても、興味深い農業政策及び経済政策が展開されています。関連する記事を新聞スクラップ的にまとめておきたいと思います。
http://uriminzokkiri.com/index.php?ptype=crevo4&mtype=view&no=10059
농업근로자동맹은 우리식 사회주의농촌발전을 위한 투쟁에서 선봉부대가 되자
農業勤労者同盟は朝鮮式社会主義農村の発展をめざす闘争で先鋒部隊になろう
全文を、日本語として意味が通じるレベルで和訳している時間的余裕がないので、各自自動翻訳で大意を掴んでいただきたいと思います。

農村における3大革命、とりわけ思想革命が重要だといいつつ、農村に対する国家的投資についても言及があります。将軍様の労作『社会主義建設の歴史的教訓と我が党の総路線』(チュチェ81・1992年1月3日)によると、設備投資ばかりを優先させたことがソ連・東欧における社会主義体制の崩壊の原因であるとされているので、共和国としては3大革命、とりわけ思想革命の重視はどうしても言及せざるを得ないものです。

しかし、将軍様がおっしゃる思想革命がどうにも単なる精神論的であったのに対して、元帥様がおっしゃる思想革命は、アメリカによる厳しい経済封鎖のさなかでありながらも最大限的に物質的担保があると言えます。いままでの「3大革命」とは良い意味で様相が異なるように思います。

また、ここにおいても社会主義的競争に言及があります。以前から言及してきたとおり、キム・ジョンウン時代のキーワードとして確固たる地位を築いていることがここでも明らかになったと言えるでしょう。

ところで、社会主義的競争を元帥様の時代を象徴する経済政策だとみなす私の見方には、もしかすると異論があるかも知れません。この単語自体は決して新しいものではないからです。

社会主義的競争という単語自体は、たしかにソ連もかつて標榜したことがあるものです。しかし、チュチェ101(2012)年5月11日づけ『朝鮮新報』の「活発な経済単位間の競争、農業・重工業などで増産の原動力に」によると、あくまでも「朝鮮の独特の運動」であるといいます。また、上掲記事がチュチェ101(2012)年5月11日づけで公開されている点、おそらく将軍様(チュチェ100年12月逝去)の時代から既に社会主義的競争が始まっていたことが推察されます。

しかしながら、賃金体系の改正など個人に対するインセンティブを内実伴う形で取り込んだものは、史上初めて、元帥様の時代から始まったものと言えます。ソ連のリーベルマン理論に基づくコスイギン改革は頓挫しました。将軍様の時代において共和国の賃金制度は非常に硬直的で、個人に対するインセンティブは事実上、存在しないといっても良いくらい微々たるものでした(以前から述べてきたとおり、将軍様の経済政策は当時の国際環境=対米対決に伴う準戦時的状況から考えて致し方ない部分はあったと思いますけど)。

それに比べてこんにち元帥様が個人に対するインセンティブに配慮した形で社会主義的競争を位置付けたことは、やはり画期的なことであり、キム・ジョンウン時代を特徴づけるキーワードとして見なすべきと私は考えます

https://news.yahoo.co.jp/articles/82905d319ed99fb30f45e8ffa327117e3e984655
金委員長「食料事情厳しい」…北朝鮮、農業省を農業委員会に格上げ
1/26(水) 15:01配信
中央日報日本語版

(中略)
一方、北朝鮮当局が最近、小麦農作業の拡大を強調していることについては、住民の需要を反映した異例の措置という分析が出てきた。北朝鮮で西欧式の食生活が広がり、小麦粉の需要が増えているという説明だ。

東国大北朝鮮学研究所のキム・イルハン研究教授は「北で小麦粉の価格が急騰しているのは需要の増大による」とし「北の住民が小麦粉を嗜好食品として認識していると推定され、こうした社会的な需要が政策に反映されている」と述べた。

北で小麦粉の価格が急騰しているのは需要の増大による」とし「北の住民が小麦粉を嗜好食品として認識していると推定され、こうした社会的な需要が政策に反映されている」――人民が嗜好食品に目を向け、国家がその需要を満たすべく政策展開する・・・ジャガイモ革命の時代とは隔世の感があります。

嗜好食品に目を向けられるくらい余裕があるということは、こんにちの共和国においては、なんだかんだで生存の基本的需要は一応満たされているということになるのでしょう。

農業とは直接関係ありませんが、広く経済政策として気になった記事があったので併せて新聞スクラップしておきます。
https://www.chosonsinbo.com/jp/2022/01/17sk-12/
イノベーションの鍵は産学連携/新技術とIT製品開発の取り組み
2022.01.17 (17:03)

金日成綜合大学先端技術開発院のIT研究所
金日成綜合大学に設置された先端技術開発院のIT研究所は、朝鮮のソフトウェア開発における中核的な研究拠点だ。人工知能(AI)などの最先端科学技術に基づくIT製品を多数開発し、科学技術の産業化をけん引している。

(以下略)
かつてシュンペーターは、中小企業家がイノベーションの担い手であるとしつつ、次第に大企業化・官僚化し最終的に「社会主義」になるとしました。しかし、こんにち社会主義朝鮮においては、内閣直轄の中央大学がイノベーションの担い手になっているといいます。

「社会主義」を中央集権的・行政指令的なものとみなす限りは確かにシュンペーターの指摘はそのとおりかも知れません。しかしこんにち共和国において展開されている社会主義企業責任管理制による個別企業所の経営独立性を踏まえるに、シュンペーター理論は一定の修正が必要であるように思われます

【追記】
https://kcnawatch.org/newstream/1642323667-54393521/%EA%B8%B0%EC%88%A0%ED%98%81%EC%8B%A0%EC%82%AC%EC%97%85%EC%9D%84-%ED%99%9C%EB%B0%9C%ED%9E%88-%EB%B2%8C%EB%A0%A4/
기술혁신사업을 활발히 벌려
技術革新事業を積極的に広げる

우리 나라의 어느 부문, 어느 단위에서나 자체의 과학기술력량을 강화하기 위한 사업이 활발히 벌어지고있습니다.
我が国のさまざまな部門・単位で自らの科学技術力量を強化するための事業が活発に行われています。

평양건구기술교류사에서는 종업원들에게 선진과학기술을 정상적으로 보급하고 그들을 일하면서 배우는 교육체계에 망라시키며 기술혁신을 위한 필요한 조건들을 보장해주는 등 여러 사업들이 진행되고있습니다.
ピョンヤン建具技術交流社では、従業員たちに先進科学技術を正しく普及し、働きながら学ぶ教育体系に網羅させ、技術革新のために必要な条件を保障するなどの事業が進められています。
(中略)
이런 성과들로 하여 교류사는 전문생산단위도 아니고 큰 기업소도 아니지만 지난 시기 수도 평양의 1만세대 살림집건설장을 비롯한 중요건설장들에 많은 건설자재들을 보장할수 있었습니다.
このような成果により、ピョンヤン建具技術交流社は専門会社でも大企業でもありませんが、昨年、首都ピョンヤンの1万世帯住宅建設現場をはじめとする重要な建設現場に多くの建設資材を送ることができました。
(以下略)
専門会社でも大企業でもないピョンヤン建具技術交流社におけるイノベーションは、共和国における「社会主義中小企業」によるイノベーション。大企業化により官僚化した経済社会を「社会主義」と呼ぶシュンペーター的見方はやはり見直すべきであるように思われます。
posted by 管理者 at 21:17| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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