2022年02月27日

ウクライナ侵攻について

ロシアによるウクライナへの「特別な軍事作戦」が始まってしまいました。アメリカに次ぐ超大国ロシアと直接対峙するウクライナの恐怖・・・冷戦終結以降も拡大を続けるNATOの包囲網に恐怖するロシア・・・双方それなりに事情があったわけですが、結局、ロシアが戦端を開くに至りました

■ついに開戦、西側は遠巻きに見ているだけ。ウクライナの西側に対する不信感も今回の出来事でかなり深刻になったのでは?
2月23日づけ「ウクライナ情勢をめぐる日本世論について」において私は、「いまロシアがやっていること・これからやろうとしていることは、自国の安全を確保するためのものだとしても、その手法は非常に帝国の手法であり、善悪の基準軸で考えれば肯定しづらいものです」と述べました。同時に「しかし、いま直面していることは悪党を裁くことではありません」とも述べました。直ちに停戦が実現し、外交交渉でこの問題が解決されることを強く願っています

すべてに深く関与してきたアメリカの大統領は、この週末は地元で「戦況を見つめてい」るそうです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f403e87631c51a195577dbee81cca9f820b31760
米英EU内資産凍結 プーチン大統領とラブロフ外相個人に対する経済制裁
2/26(土) 18:04配信
TBS系(JNN)

(中略)
先週末はホワイトハウスに残って対応にあたったバイデン大統領ですが、今週末は地元デラウェア州の自宅に移動し、戦況を見つめています。
開戦するや否や西側から梯子を外されたウクライナ。あれだけ期待させておいて。ロシアとウクライナの関係の感情レベルでの長期的な悪化もさることながら、ウクライナの西側に対する不信感も今回の出来事でかなり深刻になったのではないでしょうか?

■やはり難しかった推測
さて当ブログでは1月29日づけ「「ウクライナ危機」で得をするのは誰か」及び2月23日づけ「ウクライナ情勢をめぐる日本世論について」において、分からないなりに推測しましたが、やはり難しかった。しかし、今後の行く末を占ううえでも引き続き考えてゆく必要があると思います。もちろん、私のような影響力皆無の一個人がどれだけ推測したところで世の中にとっては何の役にも立ちませんが、自分自身が事態を理解するためには行く末を自分なりに推測することが大切だと考えています。無関心が一番悪いと考えています(この点、少なくとも表面的にはリベラリストと同意見)。

1月29日づけ記事で私は「ウクライナを出撃基地とするNATO軍を想定し、その進撃路を阻むように対抗的にロシア軍を配置し、さらに「敵基地攻撃能力」を確保しておく・・・たしかにウクライナ国境に展開していると「される」ロシア軍部隊は、アメリカなどが主張するように先制侵攻にも使えるものですが、モスクワ防衛及び反撃にも使えるものです」と書いたとおり、全面的な侵攻が絶対ないとは言い切れなかった(いざとなれば、ロシアがウクライナを「奪還」することはあり得る)ものの、NATOの東進を嫌がるロシアがウクライナ全土を併合して自ら西進してNATOに近づいてゆくとは考えにくいし、ロシアにウクライナを直接統治する経済力はないので、「ロシアによるウクライナ併合」の可能性は低いと考えていました。また、親ロシア政権を樹立させるにしてもそれを担えるウクライナ側の人材が見当たらないとも書きました。

結局、開戦前日の2月23日づけ記事では、「やるときはやり抜く」のがロシアなので侵攻はありうるが、もしあったとしても「懲罰的な侵攻」ではないかと述べました。これは、ソ連とフィンランドとの間で繰り広げられた冬戦争と、その後のいわゆる「フィンランド化」を念頭に置いたものです。すなわち、ウクライナのリーダーを交代させられないまでも「痛い目」に合わせて「思い知らせる」ことを目的とした侵攻の可能性があるという意味です。NATOとポーランド国境で睨みあいたくないのでロシア軍はウクライナに長居することはないし、ロシアの経済力からいってそれはそもそもできないだろうということです。

軍事作戦の意図を説明するプーチン大統領の演説や、その後のロシア政府関係者の発言を見るに、「NATOの東進阻止」という根本動機においてロシアは完全に一貫しており、また、私の見立ても合っていたようです。また、「NATOの東進を嫌うロシアがウクライナを併合し、ポーランド国境でNATOと直接対峙し続けるとは考えにくい」や「ロシアにウクライナを併合して食わせてゆく経済力はない」も合っていたようです。ロシアにウクライナを併合する気はないようです

ひとつ読み違えたのは、「親ロシア政権を樹立させるにしてもそれを担えるウクライナ側の人材が見当たらない」という見立てについては、私はどちらかというと「侵攻を思いとどめる要素」として考えていました。もちろん、2月23日づけ記事末尾で、チェコ事件の例を引いて「やるときはやり抜くのがロシア」と予防線を張ってはいましたが。しかし蓋を開けてみると、むしろそれが理由で全面戦争に至った感さえあります。「裏で糸を引ける役者がいないなら、力づくで・・・!」になるとまでは読めていませんでした。

■「ウクライナ政府を軍事介入で打倒する考えは一切ない」発言はどうなるのか
今後については、なによりも戦争の終結に向けた道筋を推測して見極めることが大切です。

開戦直前の2月22日づけテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」において、ロシアのガルージン駐日大使は「ウクライナ政府を軍事介入で打倒する考えは?」という問いに対して「そういう考えは一切ない。(我々は)アメリカではない。それはアメリカとNATOのやり方だ」と言明しました。確かにイラク戦争などを見れば「それはアメリカとNATOのやり方」です。しかし、私の調べがまだ足りていないのでしょうが、この説明と目下の状況との整合性がつきません

もしこの侵攻が、「フィンランド化」を目的とした冬戦争的なものだとすれば、ゼレンスキー大統領が「わかった、わかったよ」と音を上げれば戦争が終わるので、確かに「ウクライナ政府を軍事介入で打倒」したわけではなく、ガルージン大使の事前の言と整合性が取れます。しかしながら、最新の報道による西側は「政権転覆を狙っている」と見ている(「米国務長官、ロシアがウクライナ政府の転覆企てと「確信」」2/25(金) 12:10配信 CNN.co.jp)し、ロシアもウクライナ軍にクーデターを勧めるかのような呼びかけをした(「プーチン氏、ウクライナ軍に政権掌握呼び掛け」2/26(土) 1:13配信 AFP=時事)という情報もあります。

私は個人的に「(我々は)アメリカではない」というガルージン大使の発言がどういう意味なのか、どのような帰結を迎えるのかに注目したいと思います。ロシアという国は、ソ連の時代から「自分なりのストーリー・理屈」に沿って行動する国です(ちなみに朝鮮もそう)。このことを知っているだけでもロシアのような国の次の一手を推測するのには大きな助けになると私は確信しています。

■こうやって「あいつら」扱いするから予測を外すのでは?
今回の開戦は確かに予測が難しかったとはいえ、一部「専門家」たちがプーチン大統領の決断について「判断ミス」だの「まったく合理性がない」だのと書き立てる酷い状況が展開されています。自分の予測が外れたからって随分な物言いではないでしょうか?
https://news.yahoo.co.jp/articles/e6045c07f6acb84a3282229589fb53cdf1667814
「クールな合理主義者」でなくなったプーチン大統領 最悪「核」使用の想定も必要か
2/26(土) 17:45配信

ニッポン放送

ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」(2月25日放送)にロシア政治の専門家で慶応義塾大学総合政策学部の廣瀬陽子氏が出演。ロシアが侵攻を開始したウクライナ情勢について解説した。

ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った理由 〜プーチン大統領の判断ミスか
ロシアのウクライナ侵攻が始まった。プーチン大統領がウクライナ侵攻に踏み切った理由を、ロシア政治専門家の廣瀬陽子氏が分析。

新行)ロシアの軍事侵攻の可能性について、専門家の間でも意見が割れていたと思います。廣瀬さんは、どのように考えていらっしゃいましたか?

廣瀬)私は、侵攻の可能性は極めて低いと思っていました。仮に、ウクライナのNATO加盟阻止が目的であれば、侵攻することにメリットはありません。合理的な可能性は1ミリもないので、単なるブラフであり、ウクライナにミンスク合意を履行させることを、ウクライナだけが認めるのではなく、「欧米が揃ってウクライナにそれを実行させる」ことを見出そうとしているのだと思っていました。

外交評論家・宮家邦彦)やはり、廣瀬さんも「ない」と思っていましたか。

廣瀬)ないと思っていました。

宮家)その予想は合理的で正しかったと思います。問題はプーチンさんが判断ミスをしたことだと思うのですが、今後はどうなると思われますか?

廣瀬)こうなると、ウクライナを獲ろうとしているとしか思えません。ここ数日の展開を見ると、極めて周到に準備をしていたのだと思われます。考えてみますと、バイデン大統領が就任したときから、この日のために準備をしていたのではないでしょうか。

(中略)
廣瀬)各所でゲリラ戦が長期化する可能性があります。他方で、いまのプーチン大統領の精神状態は、論理的にはまったく説明できないところがあります。最悪の場合、核の使用というところまで西側は想定し、準備しておかなければいけないと思います。

宮家)いま、重要なことをおっしゃっていました。私は「プーチン判断ミス」論者なのだけれども、最近のプーチンさんは、いままでと違うのではないですか?

廣瀬)違うと思います。

宮家)なぜ、あれほどバイデンさんやウクライナを甘く見るのか。用意周到なのはいいけれども、もう少し冷徹な計算ができた気がするのです。

廣瀬)いままでは「クールな合理主義者」だと思っていました。しかし最近の動きには、まったく合理性がないのです。これまで私がやって来た研究の知識が生かされない状況が起きていて、ためらっています。

(以下略)
朝鮮半島情勢でもそうですが、こうやって「あいつら」扱いするから予測を外すのではないでしょうか?

たとえばロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠氏は、2月26日のTBS系「報道特集」においてプーチン大統領について「経済的ダメージを受けるより地政学的目標が優先される、我々と若干違う世界観の中で動いている」と解説しました。確かにロシアの外交史、とくに「他国に対する不信と恐怖の歴史」と絡めて考えると、これは有力説になるでしょう。これこそ分析というものであり、「判断ミス」だの「まったく合理性がない」だのは分析ではありません。せめてどうしてそうなったかを「焦り」という言葉を使わず解説して初めて分析の水準に至るといえるでしょう。

■ロシアvsウクライナだからこういう世論展開になってはいないだろうか?
日本にとってロシアは「敵性国家」であり、2月23日づけ「ウクライナ情勢をめぐる日本世論について」において書いたとおり、1月下旬以降、「ロシア=悪の帝国」という構図が定着してきました。アメリカ発のニュースが大量に供給されることにより「アメリカの緊密な同盟国」らしい雰囲気が漂っています。

それゆえ、『世に倦む日日』の「ゼレンスキーとバイデンの戦争責任 – 異端の少数意見ながら 」では次のような指摘があります。
イラク戦争のときのことを思い出す。国連憲章違反の一方的な侵略戦争だった。侵攻する側が時間をかけ大量に兵力を集め、無茶苦茶な大義名分(口実)を言い立て、最後通牒を突きつけて空爆に踏み切った。巡航ミサイルで地上の防空システムを破壊し、制空権を握り、地上軍を首都に侵攻させた。あのときと絵は一緒だが、今回は侵略される側に世界の同情と支持の全てが集まっている。国連事務総長がロシアを非難糾弾しまくっている。あのときは、正義の戦争だとして美化し、侵略者のアメリカを支持する声がずいぶん多かった。

あのとき、19年前、戦争の原因を作った張本人として指弾され、責任を押しつけられたのは、侵略を受けた側のサダム・フセインだった。今回、ゼレンスキーに責任があると批判する声を聞かない。今度の戦争にバイデンに責任があると断罪する者はいない。

これと関連して、Twitter界隈で次のような意見もありました。
https://twitter.com/jyutyegeijyutu/status/1497481633804345348
なんだかなー
「反ロシア、反戦」타령 にモヤッとした感情が、、、

いま反戦を唱えている人たち、もし国連軍が「北朝鮮を先制攻撃」するとなると「北朝鮮の民主化のためだから」と嬉々として賛成しそう。国連、国際法が絶対正義ってか?そんなこと考えながら八宝菜を作ってます。
私も同感です(八宝菜は作っていないけどw)。ロシアvsウクライナだからこういう世論展開になってはいないだろうかという思いがモヤモヤしています

■オープン・インテリジェンスの限界、外交努力の歴史における「区切り」
雑多に書き連ねてきましたが、最後に今回アメリカが採用した「オープン・インテリジェンス戦略」について取り上げたいと思います。

オープン・インテリジェンス戦略とは、「インテリジェンス機関が収集し分析した情報を積極的に世界に発表して、ロシアの意図はウクライナ侵攻であるというメッセージを、メディアを通じて世界に発信し、世界の注目をウクライナに集め、ロシアが実際に侵攻できないようにする抑止策」(「「ロシアはウクライナに侵攻する」どれだけ反発されてもバイデン米大統領がそう主張を続けるワケ」2/19(土) 10:16配信 プレジデントオンラインより)だといいます。相手の邪な言動を積極的に暴露して非難の世論を盛り上げることで、相手の立場を悪くするという、ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)の暴露戦法に非常によく似た手法であるといえるのではないでしょうか?

しかし、ポリコレが熱心なトランプ大統領支持者にあまり効かなかったように、批判を恐れない人にはこういう手法は効かないものです。物理的暴力を司るものに対して、その社会的立場を悪くすることで牽制するという手法。一つの手でしたが、今回、限界が見えてしまいました

■終わりに
第二次世界大戦後に積み重ねてきた外交努力の歴史が、今回の一件で一つの歴史的区切りを迎えてしまいました。朝鮮半島情勢を見ればすでに明らかでしたが、改めて現実を突きつけられると残念でなりません。
ラベル:国際「秩序」
posted by 管理者 at 20:48| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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