ロシア訪問が先は「間違い」 ゼレンスキー氏、国連総長を批判すでに全日程が終わった訪問の話なので取り上げるには今更感があるでしょうが、ゼレンスキー・ウクライナ大統領が「向いている方向」に疑問を持たざるを得ません。
4/24(日) 11:45配信
AFP=時事
【AFP=時事】国連(UN)のアントニオ・グテレス(Antonio Guterres)事務総長が26日にロシアを、28日にウクライナを訪問する予定となっていることについて、ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は23日、ウクライナの前にロシアを訪問するのは「間違い」だと批判した。
ゼレンスキー氏は記者団に「まずロシアに行き、それからウクライナに来るのは単純に間違っている」とし、「この順番には正義も論理もない」と述べた。
さらに「戦争はウクライナで起きており、モスクワの路上に遺体はない。まずウクライナに来て、現地の人々や占領の結果を見るのが筋だろう」と指摘。キーウ周辺だけでも民間人の死者は1000人を超えていると付け加えた。
(以下略)
「まずウクライナに来て、現地の人々や占領の結果を見」ることを求めるゼレンスキー大統領の狙いは差し詰め、国連を自国陣営に巻き込んでロシア対して自国利益に資する譲歩を要求してほしいといったところなのでしょう。ウクライナは国際世論を味方につけるほかに勝ち目はありません。しかし、この戦争で今真っ先に取り組まなければならない事柄は、停戦でも終戦でもなく民間人の退避です。すでに深刻な被害が出ています。どちらが侵略国であるかという問題はさておき、これ以上の民間人の被害・犠牲を何としてでも避けなければなりません。
もちろん、戦争終結が一番ですが、そもそも戦争は政治の延長線上に起こるものであるため、それを終わらせるためには幾つもの政治的なハードルを超える必要があります。一朝一夕に実現するものではありません。そんな中でも民間人の命は脅かされ続けています。優先順位においても情勢判断においても戦争を終わらせることよりも民間人退避を実現させることを先行させるべきでしょう。
民間人退避実現のためには侵攻した側であるロシアの協力が不可欠です。ウクライナ政府が民間人退避に取り組んでこなかったとは言いませんが、しかし、ロシア政府はウクライナ政府を「ネオナチ」と呼んでおりどこまで本気の交渉相手と見なしているか測り難いところです。現に民間人退避は遅々として進んではいません。ロシアとウクライナとの両国交渉に任せているだけでは民間人退避の実現には不足であると言わざるを得ないでしょう。
「まずウクライナに来て、現地の人々や占領の結果を見」なければ民間人退避の必要性が認識ではないほどは国連組織も無能ではありません。それを見ることで出てくる所感は「侵略者に対する憎悪」であり復讐の決意になるので、むしろ民間人退避が後背に押しやられることになりかねません。
このように考えれば、グテレス・国連事務総長がまずロシアを訪問して民間人退避問題についてプーチン・ロシア大統領と直談判することは取り立てて不自然な流れではなく、一刻を争っている現状においてはむしろ順当であるとさえ言えるように思われます。
グテレス事務総長が先にロシアを訪問することを批判するゼレンスキー大統領は「民間人退避」よりも「侵略者を撃退して祖国防衛の戦争に勝利すること」を上位に置いているように思えてなりません。もちろん一国の為政者として後者を追求することは当然でしょうが、前者を実現させた上で後者を追求すべきことであるはずです。当ブログでは3月6日づけ記事において、この戦争に関する日本世論の反応について「生身の人間の生活を軽視し、大義や筋論などの抽象的なものを優先する」傾向がみられると指摘しました。為政者は、「十年百年の大計」を考えつつも「生活者の一分一秒」を軽視してはならないとも述べました。「十年百年の大計」のために「生活者の一分一秒」を軽視することは生活者を捨て駒扱いすることです。
また、「侵略者を撃退して祖国防衛の戦争に勝利すること」を追求するためにこそ民間人退避には力を入れて取り組む必要があるはずです。西側諸国の軍事援助を受けて心置きなく徹底的に戦ってロシア軍を国境の外に駆逐するためには、戦闘区域から民間人を退避させる必要があるはずです。
民間人の被害について連日「ロシアによる戦争犯罪」と非難しているゼレンスキー大統領。ロシア軍への徹底抗戦の決意が固いゼレンスキー大統領。これ以上、戦争犯罪の被害者を生まないためにも徹底的な反撃戦を展開するためにも民間人退避は必要であるはずです。しかし、そのための現実的で具体的な段取りを取ろうとすると批判する――ゼレンスキー大統領が「向いている方向」は、正直な感想として私には理解しがたいところです。ぜひとも私の勉強不足・理解不足であってほしいとさえ思います。
ラベル:国際「秩序」
ウクライナ大統領府のオレクシイ・アレストビッチ顧問は5日、戦況に関する報告で、「米欧から提供される武器がそろう6月中旬以降」にロシア軍への反転攻勢に乗り出すとの考えを示した。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は3日、ロシアが2014年に併合した南部クリミアの奪還を目指す方針を明らかにした。
真偽のほどは不明ですが、これは事実なら「軍事力をバックに外交でクリミアを取り戻す」ではなく「軍事力で無理矢理奪還」としか読めないでしょう。
いかにロシア相手に善戦してるとはいえ、「クリミア奪還」を簡単に許すほどロシアも甘くないことは誰が考えても分かる。
ゼレンスキーを手放しで称えていいのか疑問に感じます。
コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまい申し訳ございません。
ロシア「専門家」が慌てて、このことの趣旨は「軍事力をバックに外交でクリミアを取り戻す」なのだと火消しに走っていましたが、おっしゃるとおり、「軍事力で奪還」という印象は拭えないものです。すくなくとも、ロシアは「軍事力をバックに外交でクリミアを取り戻す」とは読まないでしょう。
こういうあたり、ゼレンスキー大統領及び側近たちの「センス」を疑わざるを得ないものです。
ウクライナ軍の兵士2人が22日までに、ドニプロ市の病院で共同通信のインタビューに応じ、最前線で「脱走兵が出ている」と証言した。
アントックさんは「前線では脱走兵の情報を聞くことがあった」と明かした。ロシア軍の戦車に自動小銃のみで攻撃を仕掛けるような「自殺行為に近い作戦」を命じられた兵士らが、逃亡するケースが出ているという。
(引用終わり)
ということでウクライナ側も手鼻足で褒められるような軍隊ではなさそうです。
コメントありがとうございます。
「「自殺行為に近い作戦」を命じられた」――民間人退避の遅れといい、ウクライナ側についても疑問符を付けざるを得ない展開が散見されますね。
加えて注視すべきは、ここにきてこのような報道が出てくるようになってきた意味合いであります。関連報道によると結構前から脱走兵騒ぎはあったそうですが、最近まで報道されなかったという事実です。何を意味するのか注視する必要がありそうです。