2022年06月29日

ロシアにとっては「敵が改めて敵対的な姿勢を示した」くらいでしかないスウェーデン・フィンランドのNATO加盟をトルコが支持した事実が「朗報」扱いされる日本世論から見えるもの

https://news.yahoo.co.jp/articles/9485c3b9f6ced25cafeed09487de759cfea80a54
【速報】スウェーデンとフィンランドのNATO加盟 トルコが支持で合意
6/29(水) 3:38配信
テレビ朝日系(ANN)

 北欧のスウェーデンとフィンランドのNATO=北大西洋条約機構への加盟について、トルコが加盟を支持することで合意しました。

(以下略)
「ウクライナは6月以降、反転攻勢に転じる!」と期待されていた6月はあと1日で終わります。反転攻勢どころではない6月でした。セベロドネツクが制圧されルガンスク州のほとんどかロシアの手中に落ちました。西側陣営内部では「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が公然と取り沙汰されています。

「北朝鮮」報道において「当たらない」どころか「まるで見当違い」の「分析」を繰り返す元防衛省防衛研究所研究員・軍事評論家の西村金一氏などはいまだに「6月初旬から、ウクライナ軍に関する情報が極端に少なくなっているんですよ。私の見立てでは、ウクライナ軍にはまだまだ余力がある。6月末に、米独英が和平に向けた本格的な仲介交渉を始める予定なので、ゼレンスキー大統領はその前に全面的な攻勢をかける思惑なのだと思います」などと言っていますが、その気配はまったくありません。

いまや「反転攻勢」を云々するのはスポーツ新聞くらいのものです。うわ言のように「反転攻勢」をつぶやいてきたNHKでさえ、つい先日「ニュースウォッチ9」で田中正良キャスターは「国際法違反の戦争を始めたのはロシアの方だということを念頭に置く必要がある」と言うに至りました。日本社会において「元はと言えば・・・」というのは、議論が煮詰まって膠着状態になったときに論点を切り替えるときに持ち出す常套句です。NHKが国内放送でいくら吠えたところで国際的には何の意味もないのですが、「今日のウクライナは明日の台湾・沖縄」であるだけに、ウクライナ軍が軍事的にロシア軍を撃退できず物価高・エネルギー危機ゆえに西側諸国で厭戦気分が蔓延しつつある中で、NHKは黙っていられないのでしょう。

そんな中でのスウェーデンとフィンランドのNATO加盟に対するトルコの支持表明。久々の「朗報」といったところなんでしょうか、トンチンカンな意見が出ています。コメ欄。
白鳥浩
法政大学大学院教授/現代政治分析

トルコが北欧2国(スウェーデンとフィンランド)のNATO加盟について支持することとなったという。
これには4者会談(スウェーデン、フィンランド、トルコそしてNATO)におけるNATO事務総長の同じ北欧のノルウェーの元首相であったストルテンベルグ氏の努力があったと考えられる。ある意味で、北欧3に対してトルコ1という中での会談で、トルコから譲歩を引き出したという事であろう。
これで北欧の二国が加盟するめどがたった。これによってNATOは北から南まで、ロシアに対して安全保障のきれめのない線を構成することとなった。
小国であるスウェーデンとフィンランドの国民にとって、この知らせは安堵を与えるものだろう。
ロシアの行動は、逆にロシアにとって好ましくない状況を誘発してしまったといえる。
以前から何度か取り上げている白鳥浩・法大院教授。「ロシアの行動は、逆にロシアにとって好ましくない状況を誘発してしまった」・・・スウェーデンとフィンランドがNATO加盟の意志を示した頃から「ロシアは藪をつついて蛇を出した」だの「自業自得だ」といった調子で出てきた典型的な素人「分析」の域を超えるものではありません。

白鳥氏はスウェーデン・フィンランドの「中立」が本当に米ソ・米ロのどちらも組しない完全なる中立だったとでも言うのでしょうか? スウェーデンとNATOの「密約」はよく知られたことですし、フィンランドはソ連の軍事的圧迫ゆえにしぶしぶ「中立」を演じていただけです。なによりも、ソ連の潜水艦が頻繁にスウェーデン・フィンランドの領海を侵犯していたように、ソ連・ロシア自身がスウェーデン・フィンランドの「中立」などまったく信用していませんでしたロシアにしてみれば、今回の出来事は「敵が改めて敵対的な姿勢を示した」くらいのもの、「だと思った」くらいでしかないでしょう

プーチン大統領の開戦演説に立ち返る必要があります。ウクライナは単にNATO加盟を志したからロシアの攻撃対象になったわけではありません。「歴史的ロシア」たるウクライナにNATOが近づいてきたからこそウクライナはロシアの攻撃対象になったのです。これに対してスウェーデンやフィンランドは「歴史的ロシア」ではありません。もとよりロシアは他国を一切信用していません。そしてロシアは核保有国です。NATOがロシア・フィンランド国境に迫ってきたところでロシアにとっての情勢に変化はないでしょう

もう一つ。「トルコ「望むもの得た」 北欧2国のNATO加盟支持で」(6/29(水) 5:58配信 時事通信)のコメ欄。
これは朗報。
トルコはそもそもスゥエーデンやフィンランドのNATO加盟を真っ向から否定するつもりはなくテロ組織問題や石油パイプラインといった自国への恩恵を得ることを条件に外交交渉を行っていたんでしょう。
NATOにとっても2ヶ国の加入は最新兵器製造技術の導入といった軍事力強化に繋がりロシアへの輸出の大部分も止められる。
現状、黒海封鎖を行っているロシア艦隊に対し実質的に影響の大きいトルコが本格的に動き面する周辺国も同調するでしょう。

よほど誤った考えを貫かない限りウクライナ全土の完全侵略が止まり年内終戦に繋がるかもしれない。
よほど誤った考えを貫かない限りウクライナ全土の完全侵略が止まり年内終戦に繋がるかもしれない」? スウェーデンとフィンランドがNATO加盟したとして、なぜウクライナへの侵攻が止まるというのでしょうか? まったく意味不明です。「黒海封鎖を行っているロシア艦隊に対し実質的に影響の大きいトルコが本格的に動」くとは? トルコの国益はクルド問題だけではないので、まだまだ西側諸国とロシアとの対決構図の中で対ロ関係をカードして使い続けるでしょう

それにしても、もとよりロシアがまったく信用しておらず、今回の出来事についても「敵が改めて敵対的な姿勢を示した」くらいのものでしかないスウェーデン・フィンランドのNATO加盟申請及びトルコの両国加盟支持表明が、斯くも大ニュース扱いになること自体が私には理解困難です。いわゆる「国際社会」は自国利益むき出しの修羅場です。国家間の友好関係はあくまでも策略的なものです(ちなみにプーチン大統領自身、かつてインタビューでそう言明していました)。たとえば、いまでこそ「最大の友好国・同盟国」として扱われているベラルーシとロシアですが、つい10年ほど前はガスを巡って先鋭的な対決を展開していたものです。いわゆる「国際社会」なんて、そんなものです。

日本世論が、いわゆる「国際社会」における「中立」や「友好」を個人レベルの感覚で語っているのではないかと疑わざるを得ません

そしてまた、ロシアによるウクライナ侵攻がスウェーデン・フィンランドのNATO加盟意向の引き金になったとは言えても、スウェーデン・フィンランドのNATO加盟自体はロシアによるウクライナ侵攻の動向に影響するものではないでしょう。このことでロシアによるウクライナ侵攻が止まることはないでしょう。しかしなぜ、このことが斯くも「朗報」扱いされているのでしょうか? むしろ、スウェーデン・フィンランドがNATOに加盟すればこそ、ますますロシアが「最後の砦・最後の緩衝地帯」とばかりにウクライナに執着するという可能性は考えられないのでしょうか?

スウェーデン・フィンランドのNATO加盟意向が日本世論において「朗報」扱いされているという事実、それも随分と短絡的に「朗報」扱いされているという事実は、日本世論が「国際法違反の侵略行為で領土を蚕食されているウクライナを支持している」というよりも「敵性国家であるロシアに失敗して欲しいから、敵の敵であるウクライナを支持している」ことを疑わざるを得ない反応です。
posted by 管理者 at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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