2022年12月11日

わざと? 絶望的外交センスゆえ?

少し前の報道ですが・・・
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221127/k10013904911000.html
米バイデン政権 ベネズエラで石油生産再開を条件付きで許可
2022年11月27日 11時44分

アメリカのバイデン政権は、石油大手・シェブロンが南米のベネズエラで石油の生産を再開させることを条件付きで許可すると発表しました。

ベネズエラではマドゥーロ大統領による独裁が続いていますが、バイデン政権は「民主主義を促すための措置」で、国際的な石油価格の高騰に対応するためではないとしています。

(中略)
バイデン政権は、ロシアによるウクライナ侵攻で世界的な石油価格の高騰が続く中、ことし3月、断交状態にあったベネズエラに代表団を派遣し、エネルギー問題などについて議論したと明らかにしていました。

バイデン政権高官は26日、今回の措置について「マドゥーロ政権の対応しだいで、いつでも取り消すことができる。民主主義の復活に向けて双方が踏み出すためのものだ」とし、石油価格に対応するためではないと強調しました。

今回の措置が、世界有数の石油埋蔵量を誇るベネズエラの国際市場への復帰につながるのか、注目を集めることになりそうです。
マドゥーロ政権はまだ国内親米派と「対話」を再開させただけで、「民主主義の復活」なるもののために何らかの制度的な措置を講じたわけではないし、何か積極的な成果があがったわけでもありません。「スタートラインに立ったようにも見える」だけです。その程度の段階でバイデン政権はベネズエラでの石油生産の再開をシェブロンに許可したわけです。

アメリカ基準では「権威主義国」であるロシアがウクライナに侵攻し、同じく「権威主義」的な中国が台湾との統一のための段取りを組んでいるところ、ここは筋を通してすべての「権威主義」国に一貫して毅然とした態度を取るのかと思えば、ベネズエラに対しては随分と大甘な対応を見せています。歴史を世振り返るに私は、そもそもアメリカにとって「民主主義」だの「権威主義」だのといったお題目は、国家の経済的利益追求における名目でしかないと見ているのですが、今回もそれが如実に現れたものと考えます。

NHKが指摘しているように「バイデン政権は、ロシアによるウクライナ侵攻で世界的な石油価格の高騰が続く中、ことし3月、断交状態にあったベネズエラに代表団を派遣し、エネルギー問題などについて議論した」という経緯という経緯を踏まえるに、真意はここにありそうです。いったい誰が「「民主主義を促すための措置」で、国際的な石油価格の高騰に対応するためではない」なる言い分を信じるというのでしょうかw呆れるほどのご都合主義。かつて、盟友だったサダム・フセインやウサマ・ビン・ラディンが僅か10年で不倶戴天の敵に転化したことがありましたが、その頃からご都合主義っぷりにかけては、まったく変わりないようです。

かつて岡田英弘氏は「アメリカ文明は歴史のない文明だ」と指摘しました。アメリカ人にとって過去はもう済んだことであり、現在がどうあるかということにしか関心がないそうです。もちろん、アメリカが総本山である金融資本主義経済においては信用が何よりも大切な要素なので、アメリカ人が「過去」に対してまったく無関心というわけではないでしょう。しかし、ヘロドトス以来の大陸ヨーロッパの歴史観念や中華文明の正統史観が歴史の来し方行く末を重視するのとは決定的に異なる感性を持っているのは間違いないでしょう。こうした感性がアメリカ流のご都合主義の源流であると私は考えています。そして、アメリカ人は今のことしか考えていないから、昨日の敵が今日の友になったり今日の友が明日の敵になったりして、そのたびに右往左往しているのだとも考えています。

それにしても、「マドゥーロ政権の対応しだいで、いつでも取り消すことができる。民主主義の復活に向けて双方が踏み出すためのものだ」とは何とも居丈高な。こんなに偉そうに言っていられる立場なのでしょうか? エネルギー価格の高騰にウクライナ情勢が関わっていることは間違いないことです。そのウクライナ情勢を鑑みると、10月15日づけ「「追い詰められている」のはアメリカ」で取り上げましたが、あのボルトンが「このままでは苛酷な消耗戦が続く」ので「ロシア内部の造反を煽る」必要があると述べました。近頃もミリー・米統合参謀本部議長の発言がありました。ロシアも苦しいがアメリカも苦しい状況にあるようです。最近私は、アメリカは、ウクライナへの武器供与を調整することで意図的に戦争を長期化させロシアを弱体化させているというよりも、着地点を見失いどうしてよいのか分からなくなった結果、戦争がダラダラと続いてしまっているように見えてきました。

ところで、バイデン政権はもう少し上手に真意を隠せなかったのでしょうか? あからさま過ぎるように思われます。思い起こせばつい先日、アメリカは共和国の核実験を牽制しようとして、むしろそれを促すような不用意な発言をしたばかりでした。日本大学国際関係学部の川口智彦氏が運営する「北朝鮮報道で書かれないこと (dprknow.jp)」の「オースティン国防長官「核使用は金正恩政権の終末」:「金(正恩)政権の終末」は「元帥様」の死、圧力どころか核実験を催促する文言 (2022年11月3日 「米国防省」)」が指摘しているとおりです。≪any nuclear attack against the United States or its Allies and partners, including the use of non-strategic nuclear weapons, is unacceptable and will result in the end of the Kim regime.≫という表現がどれほど共和国を刺激する発言であるか・・・

あからさま過ぎるくらいにやることで、メッセージの取り違えがないようにしているのか、それとも絶望的外交センスゆえに素でやっているのか・・・バイデン政権の場合どちらもありそうです。
ラベル:国際「秩序」
posted by 管理者 at 23:31| Comment(3) | TrackBack(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 親米国家「サウジ」などに増産要請して、「反米国家」ベネズエラにこんなことは意地でもしないのではないか、と思っていたのですがね。
 ベネズエラをよほど舐めてるのでしょうが、そう上手くいくかどうか?
 勿論「増産しない方が高値で売れる」と言う計算もあれば、「米国がいつ掌を返すか分からない」という認識もあるでしょう。
Posted by bogus-simotukare at 2022年12月13日 20:18
 追加ですが「米国も産油国」なので、「米国国内の石油生産」を増やすという手段も一応ありますよね。とはいえ「民主党の有力支持者」である環境保護派がそれを望まないので、バイデンもそれができないのでしょうが。
Posted by bogus-simotukare at 2022年12月14日 05:58
bogus-simotukareさん

コメントありがとうございます。

このニュースが報じられる前、バイデン政権は非常に熱心にサウジに原油の増産や安定供給を要求していましたが、サウジが盟主を努めるOPECプラスの回答は「大幅減産」でした。どうしようもなくてベネズエラに縋ったと考えると、日本メディアお得意の表現を借りれば「バイデンは追い詰められている」ということになるでしょう。

ご指摘のとおり、シェール革命以降アメリカは産油国になったはずですが、バイデン政権の有力支持基盤である環境保護勢力の手前、それで凌ぐことはできないかったのでしょう。

なお、「シェール革命によってアメリカにとっての産油地域の重要性は低下した、世界史の流れが変わるかもしれない」と言われてきたものですが、アメリカのベネズエラへの擦り寄りを見ると、「世界史の流れ」が元に戻り始めたとも言えるかも知れませんね。
Posted by 管理者 at 2022年12月14日 20:42
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