社説この社説で決定的に欠落していることは、マルクスが『資本論』の序言で言明した「資本家も競争の強制法則に晒されている」という事実であり、そしてそうであるがゆえに、「消費者も労働者の搾取に加担している」という現実に言及しておらず、さらに、根本的には緊縮財政主義の問題に行きつくという点を指摘できていない中途半端な仕上がりに終わっています。
技能実習に代わる制度 権利守る仕組みは十分か
毎日新聞 2023/11/15 東京朝刊
外国人にも、労働者としての権利を保障する仕組みを整えなければならない。
技能実習に代わる受け入れ制度の創設に向け、政府の有識者会議の議論が大詰めを迎えている。
最終報告書のたたき台では「人材確保」が目的に明記された。即戦力の外国人労働者が得られる在留資格「特定技能1号」の水準に達するよう、3年間、就労を通じて育成する制度に改める方向だ。
技能実習制度は、日本で技能を身につけ、帰国後に生かしてもらう「国際貢献」が建前だが、低賃金や長時間労働、劣悪な職場環境といった人権侵害を生んできた。
特に問題なのが、転職が原則として認められないことだ。過酷な環境でも我慢するしかない。耐えきれずに失踪する人が後を絶たず、昨年は9006人に上った。
(中略)
しかし、転職は労働者の権利である。働き続けてもらいたいのであれば、待遇や労働環境の向上に取り組むのが筋だ。
(中略)
日本社会は、外国人労働者の存在がなければ成り立たなくなっている。雇用の調整弁として扱うような政策とは決別する時だ。
「働き続けてもらいたいのであれば、待遇や労働環境の向上に取り組むのが筋だ」というのは正しい指摘ではありますが、しかし、待遇や労働環境の向上に取り組むための原資の問題を問わねばなりません。
従来、労働者の搾取にかかる問題は、企業の営利主義動機が元凶とされてきました。要するに、儲け主義のシワ寄せが無産階級としての労働者に被せられているという指摘です。もちろん、こんにちにおいてもこの構図は根本的には変わってはいません。しかし、昨今の企業は「濡れ手に粟」というほど儲けているわけではありません。
いま問わねばならないのは、原材料・エネルギー価格が高騰しているにも関わらず財・サービスの小売価格がほとんど変化していないことであります。要するに、労働者の搾取しているのは企業だけではなく、消費者も労働者の搾取に加担しているわけです。
消費者にも言い分があるのは分かります。「賃金が上がらないのだから安い商品を求めるのは当然じゃないか」と。ごもっともです。現状はまさに負のスパイラルに落ち込んでいると言えます。本来、こういうときのために財政出動と、それを支えるマクロ経済学理論があるはずなのですが、緊縮財政主義が支配する日本においては打開の糸口さえも見出し難い状態が続いています。
労働者は同時に消費者でもあります。消費者も労働者の搾取に加担しているということは、すなわち、労働者同士が互いに搾取し合っているということに他なりません。食うか食われるか、もはや末期症状という他ありません。
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