「富士そば」が年末年始に休む理由 年越しそばの需要はあっても…新型コロナウイルス禍(コロナ禍)において大きな変化があった今年。年末に「正月三が日の店舗開店」が働き方改革の文脈で話題になるあたり、かつての日常に着実に戻りつつあるようです(コロナ禍の真っ只中では、「働き方改革」どころか「仕事がない」「シフトに入れない」でしたから)。
12/26(火) 7:00配信
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(中略)
そばというと年末の「年越しそば」のイメージが根強くありますが、実は富士そばでは、毎年12月31日午後3時ごろから1月4日まで、全店で休業しています。
かき入れ時≠ニも思える時期に、いつから年末年始の休業日を設けているのか、近年の働き方改革の一環なのかーー。広報担当者に聞くと、はっきりと始まった年はわからないものの、「年末年始の休業は、ずっと続いています」とのこと。
ただ、10年ほど前までは、「一部の店舗で元旦の正午ごろまで営業をしていることがあった」といいます。
(中略)
休業理由は創業者のポリシー
近年、コロナ禍などを背景に、小売業などで年末年始休業の動きがあります。
2022年には食品スーパーを首都圏で展開するサミットが「社員の“元気”充電のため」として三が日はほぼ全店で休業。今年は、ファッションビルを運営する丸井グループが、従業員の働き方を見直すなどの理由から大半の店舗を三が日は休業しました。
かたや、富士そばは年末年始の休業について「近年の働き方改革の影響があるわけではない」といいます。
「休業の理由は、創業者(丹道夫会長)の『年末・正月くらいは、家族でくつろいだほうが良い』という思いからくるもので、深い理由もトリビア的なものも何一つございません」
社会的な働き方改革の号令がかかる前から、独自にワークライフバランスを保ってきた富士そば。今後もこの方針に変わりはないそうです。
しかしながら、コロナ禍以前と様相が大きく異なっているのは、労働市場が需要過多つまり働き手不足であるところ。それゆえ働き方改革は、労働時間の短さや休みの取りやすさ、給与・賞与、福利厚生といった労働者にとっての働きやすさの文脈で語られるようになりました。かつては労働力需要が必ずしも多くはなかったので、労働者は足許を見られてその労働力を安く買い叩かれたり長時間労働を強いられたり、甚だしくは給料未払いが発生したりしていました。それゆえ働き方改革は、長時間労働との闘いという文脈で語られることが多かったものです。労働問題を「自主権の問題としての労働問題」として位置付け労働者階級の立場に立っている当ブログとしては、労働者階級の立場が強化されつつあることは非常に好ましいことであると考えています。
そんな時代背景において出てきた上掲記事。「創業者のポリシー」を云々していますが、単純に、富士そばの主な客層はサラリーマンや中高年層であり、それゆえ年越し蕎麦市場に食い込み切れておらず、年末年始期間に従業員を雇って店を開けてもそれに見合う儲けが出ないだけでしょう。サラリーマンや中高年層が年に一度の年越し蕎麦を、立ち食い蕎麦の系譜に位置する富士そばで済ませなければならないほど困窮してはいないでしょうし、本当に困窮している人たちはそもそも年越し蕎麦を食べてはいないでしょう。
「年末・正月くらいは、家族でくつろいだほうが良い」などといって良い格好したいのならば、「人間は夜は寝るものだ」という真理に即して24時間営業を止めた方がもっと喝采を得られることでしょう。でも、そうはしない。やはり、真相は単純に年末年始期間は儲けにならないだけだと思われます。
にもかかわらず、コメ欄では「創業者のポリシー」なるものを称えるコメントが占めています。「素晴らしいポリシーをお持ちの会長さんですね。従業員の方たちを大事にされているホワイト企業とお見受けしました」などという「関係者の仕込みかな?」と疑念を持たざるを得ないようなコメントまで見られます。未払い賃金の支払いを求めた労組員を懲戒解雇(東京地裁では無効と審判)したり、コロナ禍での雇用調整助成金を不正受給するような会社が「ホワイト」なわけがなかろうに。
労働需要過多に起因する労使関係における力関係の変化、労働者階級の交渉力の向上による社会変化も、「企業の温情」として位置づけられる我らがニッポン社会。社畜根性極まれり。
ラベル:自主権の問題としての労働問題