今般の党人事・内閣人事においては、世間一般では軍トップに返り咲いたパク・ジョンチョン同志の処遇に注目が集まっているようですが、当ブログの関心に即せば、経済部門におけるチョン・ヒョンチョル同志の復帰人事こそ注目したいものです。
チュチェ110(2021)年の朝鮮労働党第8回党大会で電撃的に政治局候補委員に抜擢され、その直後の最高人民会議第14期第4回会議で内閣副首相に任命されたチョン・ヒョンチョル同志。チュチェ111(2022)年には政治局委員に昇進し、朝鮮労働党経済部長にも任命された点に顕著に現れているとおり、キム・ジョンウン時代を象徴する急浮上人事の最たる例でした。
しかし、昨年6月に党経済部長を解任。後任には前任かつ高齢のオ・スヨン同志が復帰するという事態に。党と共和国政府が、人事問題についていちいち詳しくは説明しないことも相まって、この人事にはさまざまな憶測が飛び交ったものでした。たとえば共同通信の平井久志氏は、「【日本一詳しい北朝鮮分析】金正恩が「2つの朝鮮」を宣言した背景」(1/17(水) 7:03配信 現代ビジネス)なる非常な長文において「金正恩党総書記は2023年の経済実績を、穀物生産をはじめ「12の重要高地」ですべて目標を達成したとしており、この実績の事実上の責任者であった全ヒョンチョル氏をカムバックさせたとみられる」などと分析しています。
しかしながら、나무위키の전현철の項目にもあるとおり、党経済部長及び政治局員こそ解任されたものの中央委員、最高人民会議代議員及び最高人民会議予算委員長の座は席を維持していました。何か失敗があったとすれば、もっと厳しい左遷があってしかるべきですが、そこまでではなかったわけです。後任が一旦引退した高齢のオ・スヨン同志であることをも踏まえると、昨年6月の解任は何がしかの事情による一時的な解任であり、もとより復帰前提の人事だったことが推察されるものです。
チョン・ヒョンチョル同志の処遇から推察するに、共和国の経済政策の布陣は概ね変更がないものと思われます。
共和国の社会主義経済政策に関連して興味深い事柄と言えば、朝鮮総聯機関紙『朝鮮新報』のコラム≪메아리≫(日本語版では『春夏秋冬』)の1月17日づけ及び2月1日づけコラム。1月17日づけ「朝鮮のベストテン」では次のように指摘しています。
ともに手を取りつつ競う集団主義的競争は社会主義建設の有力な推進力のひとつである▼社会主義社会を競争の結果にかかわらず等しく分け与える悪平等の制度と見做すのは間違いだ。労働と社会貢献に応じた分配と評価が与えられなかったとしたら、それは社会主義を建設する過程で生じた偏向であって、社会主義の本旨ではないこのくだりに続いて本文は、「社会主義競争の結果を評価し優遇する方法として近年朝鮮では各種ベストテンを選定している」と続けています。
「社会主義」には長い歴史があるがゆえに、さまざまな流派があり、そりゆえに非常に多義的な言葉であります。ゴータ綱領批判が指摘するように「各人は能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」も社会主義だし、平均主義も社会主義であります。社会主義を貶めることに死活的利害関係を持つブルジョア階級が、こうした多義性を奇貨として人民大衆の無知に付け込む形で印象操作を展開してきました。
この点、「社会主義社会を競争の結果にかかわらず等しく分け与える悪平等の制度と見做すのは間違い」と言い切った『朝鮮新報』の上掲コラムが意味するところは非常に大であると考えます。朝鮮総聯が朝鮮民主主義人民共和国と朝鮮式社会主義を支持していることは、彼ら自身がアイデンティティとして言明しているとおり一寸の疑いもないことです。そうした組織の機関紙が、おそらく本国の承認があってしたためたと思われる「社会主義社会を競争の結果にかかわらず等しく分け与える悪平等の制度と見做すのは間違い」というくだりを含む当該コラムは、朝鮮民主主義人民共和国政府の立場であると言ってよいでしょう。
2月1日づけコラムでは次のように指摘しています。
都市と農村、平壌と地方のギャップをなくす。宣伝ではない。最高指導者の決断により労働党の政治局会議で実行計画が採択された。注目されるのは、全国の均衡的同時発展が画一化を意味しないということだ。地域ごとに地理的環境と資源が異なることを踏まえれば「平壌を模した地方都市」を目指すのは妥当ではない。(中略)前述のとおり「社会主義」は非常に多義的な言葉。権力の集権度合いも千差万別です。日本では、ソビエト連邦などの印象が強いからか社会主義=中央集権的・画一的社会というイメージが依然として根強いものです。たしかにソ連の計画都市は、何処に行っても同じような見た目のアパートが整然と並んでいる――日本の団地の比ではない――ので、そういう印象を抱くのも、正直って無理もないものとも思えます。
「地産地消」は環境、エネルギーなど「持続可能な開発目標(SDGs)」とも関わってくる。朝鮮は世界の趨勢に先んじながら人民への福利を充実させる社会主義文明国を目指す。
こうした風潮に対する『朝鮮新報』の上掲コラム。このことが意味するところもまた非常に大であると考えます。分権制というと語弊があるが中央集権一辺倒とも異なる革命的大衆路線の現代的形態であると当ブログは考えます。
朝鮮民主主義人民共和国において社会主義そのものの革新が続いています。