ロシアのウクライナ侵攻は米欧諸国とロシアとの戦いという構図になっていますが、戦場で思うようにロシアを圧倒できない米欧諸国。日本は米欧諸国の「金魚の糞」としてこの構図の片隅に位置していますが、以前から当ブログでも指摘してきたとおり、日本世論・日本メディアは、敵方が追い詰められているという構図を非常に好みます。より正確に言えば、「敵方が追い詰められていないと精神の安定が保てないのだろうか?」という疑念さえ生じるくらいに、事象の針小棒大な評価と強引な論理展開を非常に頻繁に目にします。
しかしながら、最近は少し事態が異なるように見受けられます。
たとえば、ロシア経済報道。国策報道機関であるNHKは3月15日に「ロシア経済 なぜへたらないのか?制裁が効かない真の理由」というWEB記事を公開しましたが、記事でNHKは「ロシア経済はいったんはマイナス成長に陥ったものの、今では足元で堅調に推移しています」と言明。その理由として「@ 欧州は今もロシア産原油を買い続けている」、「A ロシア産LNGは禁止されていない」「B 巨額の軍事支出とトリクルダウン」そして「C 住宅政策もプラスに寄与」などと解説しています。どういう風の吹き回しなのでしょうか?
ウクライナ産の農産物に対する支援にかかるEU域内での反発についても報じられるようになりました(「EUの農業政策に不満 農家の抗議活動 各地で相次ぐ」 2024年3月23日 17時13分)。「親ロシアブログ」などと罵倒されているミリタリー系個人ブログである「航空万能論GF」は、かねてより戦況分析と並行してこのことについて取り上げていらっしゃいます。ミリタリー系個人ブログが取り上げる話題を「みなさまの受信料」で運営されているNHKが回避してきたわけですが、いよいよNHKがこのことを報じるようになったことに注目する必要があるでしょう。
スウェーデンなどのNATO加盟については、引き続き「ロシアは『藪をつついて蛇を出した』。自業自得だ」という構図で描かれるのが主流ですが、やはりそれがプロパガンダ的な構図化であること見抜く人はいるようで、たとえば「【独自解説】200年の中立を捨てスウェーデンがNATOに加盟 バルト海を“封じられた”プーチン大統領 次なる一手は“核の脅し”⁉さらに、期待する「トランプ氏の再選」」(3/17(日) 12:00配信 読売テレビ)のコメント欄で軍事ブロガーのJSF氏は次のように指摘しています。
ロシアはフィンランドとスウェーデンのNATO加盟に碌に反応を示さず許容しています。過去にもバルト三国NATO加盟でも行動を起こしていません。かつてロシアの首都でもあった第二都市サンクトペテルブルグの目の前に強大な敵が出現するにも関わらずです。この事からロシアは緩衝地帯を設ける戦略を取っていないことが明白です。核兵器がある現代では土地の距離という要素は其処まで重視していないのでしょう。当ブログでも、チュチェ111(2022)年6月29日づけ「ロシアにとっては「敵が改めて敵対的な姿勢を示した」くらいでしかないスウェーデン・フィンランドのNATO加盟をトルコが支持した事実が「朗報」扱いされる日本世論から見えるもの」で似たようなことを述べましたが、もっとわかりやすく整理されています。
一方でロシアはウクライナに侵攻し領土を併合すると宣言しました。併合したらそれはもう「緩衝地帯」ではありません。この侵略戦争は民族的に歴史的にロシアとウクライナは一体であると強く思い込んだプーチンの思想によるものです。ウクライナが独立国家として振る舞い西欧と自由に付き合うことが許せなかったのです。プーチンの思い描くあるべき世界ではウクライナはベラルーシのようにロシアの一部でなければなりませんでした。
たしかに、チュチェ111(2022)年7月9日づけ「フランスF2とNHKとのウクライナ報道比較から浮き彫りになった日本世論の深刻な現状」で取り上げたとおり、プーチン大統領はスウェーデンなどのNATO加盟について「ウクライナと抱えているような問題はフィンランドとスウェーデンとはない。望むならご自由に。しかし軍の部隊やインフラが配備される場合は我々は鏡のように対応しなければならないことを明確に理解すべきだ」と言明していました。やはりプーチン大統領にとっては、単にNATOが東進してきたことが許せないのではなく、自分たちのテリトリーである(と思っている)ウクライナの地にNATO軍が入り込もうとしていることが許せないものと思われます。それゆえ、「ロシアは『藪をつついて蛇を出した』。自業自得だ」論は、「ロシアは追い詰められている」の類の強引な論理展開であるという他ありません。
依然として「ロシアは追い詰められている」の類のプロパガンダは根強く残ってはいるものの、以前と比べると鳴りを潜めるようになってきたと言えるでしょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB17AOL0X10C24A7000000/
ロシアの侵略が長期化するウクライナの社会で「ロシアと停戦交渉をすべきか」という議論が浮上している。膨らむ民間人の犠牲、ロシア軍の攻勢、欧米で勢いづく支援懐疑論。人々は不安を募らせながら、複雑な思いを抱えている。
「子供の命より大切なものがあるのか」
「領土回復にこだわる必要はない」
「悪い和平でも戦争よりはましだ」
有料記事なので「これ以降」は全く読めませんが「無料部分でもここまで書くのか?」ですね。有料記事なので「これ以降」は全く読めませんが「無料部分でもここまで書くのか?」ですね。有料部分がどんな落ちかはともかくこれが「大どんでん返しで落ちは勇ましい主戦論」てこともないのでしょう。
一時期とは偉い違いです。
バイデン撤退論の台頭(実際、撤退に追い込まれ、後釜はハリス副大統領が有力視)で「トランプ政権の可能性が高い」と見ての日経の「トランプへのすり寄り」でしょうか?
なお、小泉悠ら主戦論者の反論を予想すると
「子供の命より大切なものがあるのか→子どもの命を守るために戦ってる」
「領土回復にこだわる必要はない→回復を諦めたら何処までもロシアに侵攻される」
「悪い和平でも戦争よりはましだ→良い和平でも戦争の方がましだ」
でしょうか?
コメントありがとうございます。
一時期とは全く異なる論調ですよね。「子供の命より大切なものがあるのか」が出てきた意味は大きいと思います。