ゼレンスキー氏、大統領任期が満了 選挙先送りで「正統性」論争もコメント欄。
5/19(日) 13:42配信
毎日新聞
ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、2019年から5年間の任期の満了日を迎える。ロシアの侵攻が続く中で、今年3月に実施予定だった大統領選は先送りされ、実施のめどは立っていない。ゼレンスキー氏は暫定大統領として職務を続ける見通しだが、その「正統性」が論争となっている。
(以下略)
JSFなるほど。ウクライナ法の条文上は確かにそのとおりなのでしょう。ではなぜ、ウクライナのパトロンである米欧諸国は「ウクライナの民主主義を示すべき」として大統領選挙の実施を働きかけたのでしょうか?(「ゼレンスキー氏、来春の大統領選延期を示唆 「適切な時期ではない」」毎日新聞 2023/11/8 05:10)
軍事/生き物ライター
解説
ウクライナ法「戒厳令の法制度について」の第11条「戒厳令下のウクライナ大統領の活動」の3「戒厳令中にウクライナ大統領の任期が満了した場合、その権限は、戒厳令解除後に選出された新たなウクライナ大統領が就任するまで延長される。」
よって、法制度上はゼレンスキー大統領が任期満了後も戒厳令が続く限り続投しても何も問題がありません。正当性論争はロシアが流した言い掛かりのプロパガンダに過ぎず、相手にする必要が無いのです
これは、「たとえ戦時下でも選挙を行うべきだ」というほどに米欧諸国にとっては選挙が政治的な正統性の確保において重要なのだということに由来しているでしょう。王権神授説を社会契約説に転換することで成立した米欧諸国の現体制。選挙こそが政権の正統性の源泉です。とりわけ、「民主主義と権威主義との戦い」なる構図をロシアのウクライナ侵攻に当て嵌めている米欧諸国としては、先に大統領選挙を実施したロシアとの対立軸を鮮明化するためには、ウクライナにおいてもロシアでのそれを上回るレベルの「民主」的な選挙を行う必要があるわけです。
「よって、法制度上はゼレンスキー大統領が任期満了後も戒厳令が続く限り続投しても何も問題がありません。正当性論争はロシアが流した言い掛かりのプロパガンダに過ぎず、相手にする必要が無い」と言い放ったJSF氏。「法律でこうなっている」と言えばどんなに理不尽な規定でもスゴスゴと引き下がる日本人の典型的な、国際感覚からズレた反応のサンプルであるように思われます。
ところで、王権神授説から社会契約説への思想革命の意義は、政治権力の正統性の源泉を生身の人間に求めたところにあると言えます。社会契約に基づいて形成された秩序である法が人間同士の社会的関係を規定していますが、このことはすなわち、人間同士の社会的関係は、生身の人間自身によって規定されることを意味します。
山本栄二『北朝鮮外交回顧録』筑摩書房(2022)のp29によると、金丸訪朝団に対して首領様は「第十八富士丸の問題については、よくわかりました。法は人間が作るものです。協議すれば解決できると思う。お二人を満足させることができると思う」とおっしゃったとのこと。また、同書p23によると、キム・ヨンスン同志は、外交「慣例」を墨守せんとする日本外務省の姿勢について「国際法、法律は国と国との関係を発展させるためにある。法律に従属させられたら困る。とりあえず善意を見せる何らかが必要である」と述べたそうです。首領様が創始なさったチュチェ思想は「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」という哲学的原理に立脚しています。なお、同書によると金丸氏は概ね共和国側の主張・立場に同感だったそう。「お利口さん」が増えた今日、金丸氏のような胆力のある政治家はもう日本には現れないでしょうね。
チュチェ思想の社会政治的生命体論と米欧流の社会契約説はもちろん大きく異なるものです。しかし、生身の人間が目下直面した課題を解決するために柔軟な対応を必要としているときに、過去に直面した必要性によって作り置きしておいたモノに過ぎない「法」を金科玉条のごとく守ることを要求し、結果として法によって生身の人間が苦しむという本末転倒を平気で行う日本精神との対比においては、チュチェ思想の社会政治的生命体論と米欧流の社会契約説は「生身の人間中心」という点において通ずるものがあるように思われます。
チュチェ思想派として当ブログは、生身の人間を中心にして世界に対応するという観点が日本精神には些か不足していると考えます。自然と人間を対立構図にせず一体的に把握する日本的世界観は、米欧的世界観と対比するに、ある局面においては有用なこともありますが、こういう場合には生身の人間を中心にすることを貫徹できない点において、著しい不足が顕わになると考えます。
コメントありがとうございます。
まだ内地の生活には影響が薄かった時期とはいえ、日中戦争が泥沼化し対米戦争も始めたは良いが終わらせる道筋がまったくない中でも挙行された翼賛選挙の例がありますから、JSF氏の言い分は法的に「合法」だとしても政治的には苦しいですよね。
コメントありがとうございます。
軍事的には意味不明な拠点に、おそらく政治的な意味で固執して兵力を擦り減らすくらいなら、5年に1回の大統領選挙をやって「ウクライナの民主主義」を誇示した方がよほど内外に対して強いメッセージを示せるでしょうに、それをやらないというのは、ゼレンスキー氏が選挙結果に不安を抱いていると見なさざるを得ないでしょうね。
そして、実際に執行されたロシア大統領選挙がどういう根拠に基づいているのかよく分からないが「不正選挙」とされるのに対して、現時点で執行もされていないウクライナ大統領選挙については「問題なし」とするのは、まさしく西側的二重基準の典型例ですよね。
ちなみに、当ブログ4月8日づけ「中途半端な結果に終わった日本における反プーチンプロパガンダ」(http://rsmp.seesaa.net/article/502935071.html)で取り上げたとおり、ロシア大統領選挙の在外投票においては、プーチン氏の得票率はイタリア・ローマで61.73%、東京でさえ44.1%あったといいます。あのNHKでさえ「必ずしも『圧力一辺倒』の結果ではなく、一定の国民からの支持もある」とか「かなりの部分が消極的な支持に向かったことが考えられる」などと報じていたものです(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240318/k10014393961000.html)。
これに対してゼレンスキー氏は、もともとコメディアンなので人気投票的な分野へのアンテナの高さには長じていると思うのですが、プーチン氏が獲得したような消極的支持さえも得られる自信がないのでしょうかね?
米『タイム』誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」表紙を"Volodymyr Zelensky and the Spirit of Ukraine"として飾ったのが2022年でしたが、ゼレンスキー氏については、すっかりと凋落したものです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、キーウでの記者会見で、ロシアとの戦争の終結に向け「世界の大多数が支持する戦争終結計画を示すことが非常に重要だ」と述べた。明確で詳細な終結計画を作成中で、年末までに準備が整うと明らかにした。
(引用終わり)
軍事的勝利でアレ、外交交渉でアレ、終戦の兆しなど見えませんが果たして一体どんな終結計画を作る気なのか。
しかしこんなことを言い出すとはゼレンスキーも政治的に追い詰められているのか。
コメントありがとうございます。
トランプ復活が現実味を帯びてきたので、年内にカタチしなければならないのかも知れませんね。
先般の米大統領テレビ討論会以降の米民主党内の混乱っぷりを見るに、28日のゼレンスキー発言当時よりも事態は「切迫」しているように思われます。