2020年11月08日

「トランプ落選」だけを切りとり浮かれる人たちは、トランプ氏が得票率において2%弱伸び、マケイン氏やロムニー氏を上回った衝撃的事実を見落としている:「トランプ文化大革命」を生んだ「分断の構造」は依然として残っている

アメリカ大統領選挙において、バイデン候補当確のニュースが日本時間の今朝未明に報じられました。現職のトランプ候補落選確実ということです。

以前から、それこそ4年前から述べてきたとおり、私はトランプ氏の政治手法はまさに「文化大革命」の手口である点において、彼を支持してきませんでした。トランプ氏の落選で「トランプ文化大革命」に一区切りがつくことは、喜ばしいことです。

しかし、これもまた述べてきたとおり、トランプ氏は「原因」ではなく「結果」です。トランプ氏が国民の間に「分断」を作ったのではなく、国民の間に「分断」が既にあるから4年前にトランプ氏が大統領に押し上げられたわけです。そのため今回の大統領選挙は、トランプ氏の当落だけではなく、彼がどの程度の国民から支持を得られたのか、特に対立候補とどの程度の差をつけられたのかにこそ注目すべきです。それほど両者に差がなければ、「トランプ文化大革命」を生んだ「分断の構造」は依然として残っていると言わざるを得ないわけです。

■トランプ氏が得票率において2%弱伸び、マケイン氏やロムニー氏を上回った衝撃
事実から出発する必要があります。比較のために2008年以降の全体投票率と共和・民主両党候補者の得票率、そしてあまり意味はありませんが得票数について振り返りましょう。

2020年  全体投票率:66.4%  (負)共和・トランプ:47.7%、7080万票  (勝)民主・バイデン :50.7%、7520万票
2016年  全体投票率:55.3%  (勝)共和・トランプ:46.0%、6298万票  (負)民主・クリントン:48.1%、6584万票
2012年  全体投票率:54.9%  (負)共和・ロムニー:47.2%、6093万票  (勝)民主・オバマ  :51.1%、6592万票
2008年  全体投票率:58.2%  (負)共和・マケイン:45.7%、5995万票  (勝)民主・オバマ  :52.9%、6950万票

2016年以前のデータはWikipediaから、2020年の得票率・得票数は執筆時点でのヤフーニュースから、(推定)投票率の出典はこちらから。

こうして並べてみてみると、今回トランプ氏は、前回よりも得票率において2%弱伸びており、間違いなく2008年のマケイン氏を上回っており、2012年のロムニー氏よりも現時点では若干上回っていることが分かります。郵便投票はバイデン氏優勢と言われているので、今後の開票で得票率が下方修正される可能性はありますが、思ったよりも支持を拡大して大善戦したわけです。

※なお、「バイデン氏、オバマ氏を超えて歴代最多得票! 歴史的大勝利!」と騒がれていますが、これだけ全体投票率がハネ上がれば得票「数」がハネ上がるのも当然です。なお、トランプ氏もすでに2008年のオバマ氏を超え7000万票の大台を突破しています(笑)そもそも、全体投票率が違う選挙どうしを得票「数」で比較するのは、統計の初歩も分かっていないレベルの誤謬です。

もちろん、トランプ氏に投票した人たちみんなが「トランプ文化大革命」支持者というわけではないでしょう。それは、バイデン氏に投票した人たちみんながプログレッシブではなく、みんなが中道リベラルでもないのと同じことです。しかし、トランプ氏に投票した人たちは、「文革的政治手法を許容し、目をつぶることができた人たち」であるとは言えるでしょう。苦々しくは思っていても「絶対に許せない」というほどではないわけです。

この事実を重く受け止めなくてはなりません。

■「トランプ劣勢」「トランプ落選」だけを切りとり浮かれる人たち
この大接戦・トランプ氏の大善戦は、開票進行中から既に知られていたことです。事前の世論調査と比して実際の開票状況がかなりの接戦であること、トランプ氏が大善戦していたことは、ここ数日の開票速報に接していれば、どう意図的に解釈しようとも否定できるものではありませんでした。

にもかかわらず、「トランプ劣勢」「トランプ落選」だけを切りとり、僅差・接戦であることやトランプ氏も相当得票していることを無視して「アメリカの良識が回復した」とか「トランプはやはり一過性のものだった」といった風に浮かれて事態を軽視する言説が早くも出てきています。バイデン氏当選確実が報じられた今後は、さらに増えてくることでしょう。

特にマス・メディア関係者は、長く「バイデン氏大きくリード」や「圧勝の予想」などと報じてきました。蓋を開けてみれば、マイケル・ムーア監督が警告していたとおり、バイデン氏のリード幅は世論調査ほどではなく圧勝というほどでもありません。2度も予測を外すといよいよ立場がなくなるので、今後は「トランプ落選」だけを切りとって大騒ぎし、過去には頬かむりすることでしょう。

そこで今回は、すでに表れてきている典型的な言説を通して、これから噴出してくるであろうバイデン氏勝利に浮かれている「お気楽」な言説の基本的な部分をあらかじめ論駁しておきたいと思います。

たとえば在米ジャーナリストの飯塚真紀子氏は、11月7日(日本時間)の段階で、「バイデン氏「勝利する」 過半数獲得に自信、リード拡大」(11/7(土) 4:51配信 共同通信)のオーサーコメントで次のように述べています。
飯塚真紀子
在米ジャーナリスト

「絶対に諦めない」というのはトランプ氏らしい発言です。それはトランプ家代々の教えとも言えます。

トランプ氏に何度も取材して著書「ザ・トランプス:帝国を築いた三代」を上梓したグエンダ・ブレアさんが筆者にこう話していました。
「トランプ氏は、“勝つことがすべてであり、何が起きても決して諦めるな”というトランプ家の教えの下で育ちました。トランプ氏にとってはすべてが勝つか負けるか、白か黒かだった。勝つためには手段を選ばなかったのです」
しかし、自分が勝つことしか考えない自分中心の性格や生き方は、国民を第一に考えなくてはならない政治の世界では結局通用しなかったのかもしれません。それが、今、票となって現れているのだと思います。
この僅差で、果たして「自分が勝つことしか考えない自分中心の性格や生き方は、国民を第一に考えなくてはならない政治の世界では結局通用しなかった」とまで断言できるのでしょうか? 既にデータでお示ししたとおり、トランプ氏もかなり得票しているわけです。これは、飯塚氏が上掲コメントを書き込んだ11月7日(日本時間)の段階でも明白なことでした。

現実は、トランプ氏的なものは残念ながら依然として人気があることを示しています。バイデン氏率いる民主党政権に失望が広がれば、ただちに「トランプ氏的なもの」が息を吹き返すでしょう。飯塚氏は、願望が過ぎると思われます。

■初めからみんなに好かれようとはしていなかったトランプ氏が得票率を伸ばした驚異的事実
続いて、日本経済新聞元ロサンゼルス支局長でフリージャーナリストの猪瀬聖氏の言説についてみてみましょう。飯塚氏の言説をもう少し膨らませたような内容です。
https://news.yahoo.co.jp/byline/inosehijiri/20201106-00206667/
トランプ氏が後悔する「3つの失敗」
猪瀬聖 | ジャーナリスト
11/6(金) 18:48

米大統領選挙は、主要メディアがバイデン前副大統領の優勢を伝える中、トランプ大統領は大方の予想通り法廷闘争に持ち込む見通しで、最終決着はしばらくつきそうにない。だが、今回の選挙はトランプ氏の信任投票の性格が強かっただけに、得票が過半数に達しそうにないトランプ氏にとっては、明らかな敗北と言える。敗因は、同氏が犯した「3つの失敗」だ。

失敗その1:コロナを軽視

(中略)
しかし、トランプ氏の経済優先策は結果的に感染拡大を加速させ、皮肉にも景気の大幅な悪化を招いた。それに伴い、支持率も大きくダウン。そして、新型コロナはその後も沈静化せず、争点となり続けた。

失敗その2:BLMへの威圧的態度
(中略)
しかし、抗議デモによる暴動や略奪はほとんど起きなかったため、都市郊外の無党派層や女性らは、BLMに恐怖より共感を抱いた人が多かった。共和党員の多い地方の小さな都市にまで抗議デモが広がり、多くの白人がデモに加わったのが、その証拠だ。対立を煽るトランプ氏に対しては逆に、嫌悪感が増す結果となった。

失敗その3:政治を甘く見ていてた
(中略)
選挙戦の終盤でバイデン氏の応援演説をしたオバマ前大統領は、「(トランプ氏は)自分と自分の友人のためになることにしか関心がなく、大統領という職を、彼自身を有名にするためのリアリティショーとしか見ていない」と痛烈に批判した。

トランプ氏のこうした性格や振る舞いは、不動産業やテレビの世界では成功したが、時には妥協や合意形成を必要とする政治には、向かなかった。その証拠に、トランプ氏は、民主党や多くの無党派層、主要メディアだけでなく、身内の共和党員も次々と敵に回した。

例えば、トランプ氏から解任されたボルトン前国家安全保障問題担当・大統領補佐官は、「トランプ氏は国益のことなどどうでもよく、自分のことにしか関心がない」と述べ、「トランプ大統領が1期で終わることを望んでいる」と語っている。選挙戦で大々的に反トランプ・キャンペーンを展開した「リンカーン・プロジェクト」は、トランプ氏に批判的な共和党員のグループが立ち上げたものだ。

結局、トランプ氏は米大統領の職を、ワンマン経営で事足りるビジネスや、テレビのリアリティショーの延長ぐらいにしか考えていなかったのだ。そのツケがいま回ってきていると言える。
おそらく今後出てくる浮かれた言説の多くは、猪瀬氏の言説に似たようなものになるでしょう。丁寧に読み解いていきたいと思います。

まず、「今回の選挙はトランプ氏の信任投票の性格が強かっただけに、得票が過半数に達しそうにないトランプ氏にとっては、明らかな敗北と言える」という包括的な状況判断についてですが、そもそもトランプ氏は前回も得票数が過半数に達していません。今回も初めから「みんなに好かれよう」などとは思っていなかったでしょう。「政治から見捨てられた人たちのために、エスタブリッシュメントに立ち向かうアウトサイダー」というのがトランプ氏の基本的なブランディング戦略です。

もし「みんなに好かれよう」などと思っているのであれば、敵をデッチあげて対決するという文化大革命のような手法を取るはずがありません。カリフォルニア州のような民主党の牙城にも乗り込んでいったでしょう。トランプ氏は、全国の岩盤支持者とラストベルトの有権者を味方につけ、人数は多いが熱意の低い支持者を抱える事よりも、少数であっても熱烈な支持者を基盤として強力に政策を推進することしか考えていなかったフシがあります。「勝者総取り」のゲームルールを上手く使って勝ち抜けるというのがトランプ氏にとっては今も昔も唯一の道です。

それが「民主的」なのかと言われると議論が分かれるところでしょうが、民主主義は多数決主義ではなく少数派の利益をくみ上げることも必要です。以前にも論じたように、勝者総取り方式による選挙人制度は、少数意見の汲み上げにおいて上手くできているので、こういう戦略もありなのではないかと考えています。

その点、「今回の選挙はトランプ氏の信任投票の性格が強かっただけに、得票が過半数に達しそうにないトランプ氏にとっては、明らかな敗北と言える」という見方は、そもそも誤りでしょう。トランプ氏にとっては、バイデン氏に「獲得した選挙人の数で負けたこと」だけが敗北なのです(本人はまだまだ諦めるつもりはないようですが)。

繰り返しになりますが、むしろ、ここまで悪しざまに言われてきたのにこの僅差であり、前回よりも得票率を2%弱増やし依然として固い支持層が国民の半分弱いるという驚くべき事実にこそ注目すべきです。その点考えると、猪瀬氏の見立ては、事実に正面から向き合わずに自分が見たいものだけを見て総括しているようです。

■「自らが為政者だったら・・・」と仮定したとき、「経済優先」以外の選択肢はあり得るのか?
次に、「失敗その1:コロナを軽視」については、コロナの軽視は確かに痛かったが、日本のように貯金に励む国民性を持たない「アメリカ人」の国において「経済優先」以外の選択肢があったのかという疑問が当然に生じるでしょう。今回の選挙は、誰であっても現職には厳しい選挙だったと思われます。

このことが分かっていた有権者も多かったのでしょう。ニューヨーク・タイムズの報道によると、評価は分かれているようです。
Which is more important?
Containing the coronavirus now, even if it hurts the economy
51% of voters

Rebuilding the economy now, even if it hurts efforts to contain the coronavirus
42%
また、連邦レベルと州レベルを比較するのは乱暴な議論ではありますが、United Statesであるアメリカは各州が主権をもっています。「民主党知事の州はどうだったのか」というのは、このことを読み解くヒントになるでしょう。民主党の州知事が幾ら会見を開いても、州民はそれほど言うことを聞いていたわけではありませんでした。劇的に抑え込めているとも言えなさそうです。

「コロナを軽視したことが失敗である」というのならば、お気に召すようなコロナ対策メニューが実際にアメリカで実施できたのかという思考実験を行ってみる事が必要でしょう。十分な根拠があって「できたはずだ。でもトランプ氏はやらなかった。だからこれは失敗だ」と言えるのでしょうか?

猪瀬氏は日経新聞のロサンゼルス支局長だったそうです。基本的にマス・メディア関係者は、「自らが為政者だったら・・・」とまでは考えずに、お気楽野党的に「失敗だ!」と書き立てるものですが、果たして猪瀬氏はどうなのでしょうか・・・

■BLMは争点だったのか?
失敗その2:BLMへの威圧的態度」という指摘について考えてみましょう。BLMを争点化しようとする動きは両陣営にありましたが、有権者の関心度合いにおいては、CNNの出口調査で2割程度、上掲のニューヨーク・タイムズの報道でも、だいたい同じくらいの結果になっています。小さくはないが、そこまで大きくクローズアップしてよいものか判断に苦しむ要素ではないでしょうか?

また、「BLMに恐怖より共感を抱いた人が多かった。共和党員の多い地方の小さな都市にまで抗議デモが広がり、多くの白人がデモに加わったのが、その証拠だ」というのは、証拠として弱いというか説明不足であるように思われます。なお、上掲ニューヨーク・タイムズの調査では、大統領選投票で最も重視した政策項目として"Racial inequality"を挙げた共和党支持者は、8%に過ぎませんでした

「共和党員の多い地方」といっても民主党員がいないわけではないし、「多くの白人」といってもどの程度多いのかわからないし、そもそも白人にだっていろいろな人がいるでしょう。「共和党員の多い地方都市の白人は、人種差別をするものだ」という乱暴極まりない偏見の存在を疑います。

「『法と秩序』をアピールポイントにしようとし、経済対策やコロナ対策が手薄になったのが間違いだった」というのならば分かります。大統領選投票で最も重視した政策項目として"Crime and safety"を挙げた人は、上掲ニューヨーク・タイムズの調査では、11%にすぎませんでした。しかし、「BLMへの威圧的態度」が3大敗因の一つだというのは、誇張し過ぎているでしょう

早くからBLM等の人種差別問題は、社会的には大きなムーブメントではありつつも、大統領選挙の争点としては浮上してきていないと報じられていました。BLMと大統領選挙の関連を過剰にクローズアップするあたり、猪瀬氏はイデオロギー問題に深入りし過ぎているように思われます。実際の政治はもっと「生活感」のあるものであり、みんなそんなにイデオロギー問題には興味がないのです。

リベラル派を中心に、こういうイデオロギー的な点をあげつらって「トランプの敗因」だと主張する人物が今後相当増える予感がしますが、そもそも間違いでしょうね。

■オバマ氏やボルトン氏の悪口は取り上げるに値するのか?
失敗その3:政治を甘く見ていてた」については、すべてそれで片付きそうな雑な主張であり、案の定、最後にいろいろと詰め込んできている感がありますが、解きほぐしながら考えてみたいと思います。

猪瀬氏は、オバマ氏の発言を引用しています。このオバマ氏の言い分に真実性はあるのでしょうか? 単なる悪口の域を超えないと思われます。 まさにこの間の討論会で彼自身が告白したように、トランプ氏は、オバマ氏やバイデン氏らが司った旧来型の政治が我慢ならないから人生の晩年にあって大統領選挙に打って出たそうです。本人がこう言っているのに、「大統領という職を、彼自身を有名にするためのリアリティショーとしか見ていない」などとオバマ氏はどうして断言できるのでしょうか?

そもそもバイデン氏の応援演説に来たオバマ氏がトランプ氏を評価するはずかありません。そういう文脈で語られた言葉を切りとるのは、誠実な編集態度だとは思えません。

また、ボルトン氏がいう「国益」など、いったいどういう「国益」なのでしょうか? 世界中に火種を撒き散らせておいて、そしてその火種が大火事になって自国に跳ね返ってきても自分自身は安穏としているあの男の「国益」談義など、取るに足らないものです。さしづめ、戦争狂であるあの男のことだから、トランプ氏がついに戦争をしなかったのが気に食わないので口汚く罵っているだけでしょう。

せめて、「古き良き共和党」の故マケイン氏やブッシュ一家を出してほしかったですね。

ところで、「トランプ氏は、民主党や多くの無党派層、主要メディアだけでなく、身内の共和党員も次々と敵に回した」というくだりは、全体の文脈からいって少しおかしいですね。「得票が過半数に達しそうにないトランプ氏にとっては、明らかな敗北と言える」という書き出しから始まっているのだから、国民の支持をいかに失っていったのかを論証するのが筋。「民主党」のことや「身内の共和党員も次々と敵に回した」ことは文脈的には意味のない話でしょう。全体の文脈を貫くためには「無党派層」についてのみ書くべきでした。

そもそも、「元不動産屋で政治経験ゼロのアウトサイダー」というのがウリであり、既存の政治を刷新することを目指してきたトランプ氏が政界での評判がよくなくても驚くことではないように思われます。

猪瀬氏にとっては大嫌いなトランプ氏を叩くには今が絶好の機会ですが、その感情が先走ってしまって必要以上にトランプ氏を悪く言うために蛇足をつけてしまっているようです。

■ワンマン経営こそがトランプ氏であり、それが得票率を伸ばしたのではないのか?
それはさておき、トランプ氏のワンマン経営云々という指摘について考えてみましょう。ワンマン経営的な政権運営は、トランプ政権の一貫した特徴だったわけですが、トランプ氏支持者たちにとってはむしろこれこそが「トランプの魅力」であります。

では、この「トランプ政権の最大の特徴」と言いうるワンマン経営的な政権運営は、有権者にはどう評価されたのでしょうか? それもまた得票率の推移から推測できます。

繰り返しになりますが、トランプ氏は僅差で負けたとはいえ前回よりも得票率を伸ばして未だに40%台後半の得票率、過去にマケイン氏やロムニー氏が記録した得票率を超えています。これでトランプ氏の得票率が4年前よりも減っていれば、言い訳の余地なく「支持を失った」といえるでしょう。しかし、2%弱(1.7%)伸ばしているのです。苦々しく思っている共和党支持者もいるでしょうが、「それでもバイデンなんかよりはマシ」といって目をつぶれた人が多くいたのです(例外は、トランプ氏と激しく対立した故マケイン氏の地元:アリゾナ州)。

4年前のクリントン氏の得票率に対して今回バイデン氏は2.6%程度伸ばしているので、たしかにそれと比べるとトランプ氏の支持の広がりは小幅です。この「票の掘り起こしの差」が全体の雌雄を決したとはいえるでしょうが、それでも両者の差は現時点では1%未満です。「嫌われ者王決定戦」の一方だった4年前のクリントン氏と、それほど人格的に嫌われてはいない今回のバイデン氏を単純に比較することはできませんが、それでも歴史的レベルで嫌われていた4年前のクリントン氏に対してバイデン氏はそこまで嫌われてはいません。にもかかわらず、バイデン氏は相対的にはそれほど大きくは支持を拡大できなかったのです。

それだけトランプ氏の強引な政治手法・文化大革命的な方法が、今のアメリカでは依然として好まれているという危機的な状況にこそ目を向けなければならないのです。

■総括
トランプ氏は、前回よりも得票率において2%弱伸びており、間違いなく2008年のマケイン氏を上回っており、2012年のロムニー氏よりも現時点では若干上回っています。トランプ氏に投票した人みんなが「トランプ文化大革命」支持者というわけではないでしょうが、しかし、トランプ氏に投票した人は、「文革的政治手法を許容し、目をつぶることができた人たち」であるとは言えるでしょう。苦々しくは思っていても「絶対に許せない」というほどではないわけです。「トランプ文化大革命」を生んだ「分断の構造」は依然として残っていると言わざるを得ません

そのため、トランプ氏の手法が政治の世界では通用しなかったとまで断定はしきれないところです。これでまた民主党政権に失望が広がれば、ただちに「トランプ氏的なもの」は息を吹き返すでしょう。

個別的なトランプ氏の政策については、まず新型コロナウィルス対応については「経済優先」以外の選択肢はあり得るのかという疑問が生じます。そもそも今回の選挙は、誰であっても現職には厳しい選挙だったと思われます。

BLM運動については、そもそもこれが大統領選挙の争点だったのか自体が疑わしいものです。

そして、「トランプ政権の最大の特徴」と言いうるワンマン経営的な政権運営は、今回の得票率を見るに、そこまで否定的に評価されているとは言えなさそうです。

依然としてトランプ氏の強引な政治手法・文化大革命的な方法が、今のアメリカでは好まれているという不都合な事実に向き合う必要があります。

最後に自己批判。4年前私は「トランプ氏の当選を労働者階級として敢えて歓迎する――政治改革の幻想が打ち砕かれた「トランプ後」こそが、いよいよ労働者階級にとって正念場になる」において、次のように書きました。
トランプ氏は、労働者の「期待」に応えることはできないでしょう。このことこそが、長期的に見て労働者階級にとって福音となります。クリントン候補のような「明らかに既得権益層」が見限られたのにつづき、数年以内に「改革のビジネスマン」が見限られるのは間違いないでしょう。「政治改革」がついに行き詰まり、それが幻想に過ぎないことが白日の下に晒されるのです。

「政治改革」などという小手先の小細工の行き詰まりこそが、「社会総体の大改革」への道を切り開きます。経済、社会、思想文化を含めた社会総体の構造こそが、いまの閉塞感の元凶であることを否応なしに認めざるを得なくなるのです。「トランプ後」こそが、いよいよ労働者階級にとって正念場になるのです。
しかし実際のところ、トランプ政権下で経済は浮揚し、雇用は増大し、労働者階級目先の政策は一定程度改善しました。これにより、トランプ氏は今回も底堅い支持を獲得しました。

4年では「小手先の小細工」の行き詰まりには至らなかったわけです。すこし勇み足が過ぎたようです。この点は自己批判したいと思います。
posted by 管理者 at 16:12| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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