2020年11月19日

医師の社会常識水準と、非常時に「ビッグ・ブラザー」に縋りたくなる大衆の心理について

https://www.sponichi.co.jp/society/news/2020/11/19/kiji/20201118s00042000551000c.html
日本医師会、不要不急の外出控えて!感染拡大中 緊急事態宣言や最悪ロックダウンも 
[ 2020年11月19日 05:30 ]

(中略)
「コロナに慣れないでください。コロナを甘く見ないでください。国民の皆さまには、今週末は秋の我慢の3連休としてお過ごしください」

 紅葉が見頃を迎え、今週21日からの3連休は全国各地の行楽地で多くの人出が見込まれていた。政府の観光支援事業「Go To トラベル」と感染拡大との関係について中川氏は「エビデンス(証拠)がなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と明言した。その上で「移動を自粛してもらうことが大事だ。一人一人の行動の積み重ねにより、全国でのまん延を防ぐことができる」と指摘。「秋の我慢の3連休」と位置づけることで、改めて注意喚起を促した。ただ、トラベル事業自体に関しては、方針変更を求めなかった。

(中略)
 今後に向けては「短期間で抑えることが危機的状況を抑えるカギになる。万全な予防対策が一番の経済対策につながる」とし、国民それぞれが感染防止策を徹底していく必要性を強く訴えた。今後の感染者数の増加具合によっては、再度の「緊急事態宣言」の発出や、国内初となる「ロックダウン(都市封鎖)」などの強力な措置に打って出る必要性も指摘。法的な強制力は弱いものの、再び街から人の姿が消える可能性も出てきた。
(以下略)
■ギリギリのところで自己保身に走った、いかにも「業界団体の長」というべき中途半端さ
「証拠はないが間違いない」とは、また凄いことを公言される大セイセイであられます。あんたは「バイデン陣営が不正を働いた!」などと、さしたる根拠もなく繰り返すトランプ氏かいな。他方、そんなことを言いつつも、「ただ、トラベル事業自体に関しては、方針変更を求めなかった」とのことで、ギリギリのところで自己保身に走った、いかにも「業界団体の長」というべき中途半端さであります。開業医団体としての日本医師会は自民党の集票マシーンではあるが、自民党からしてみれば「支持基盤の一つ」に過ぎないので、医師会としては踏み込み切れないのでしょう・・・

エビデンス(証拠)がなかなかはっきりしない」とのことですが、たしかに直接的な証拠を揃えることは難しいでしょうが、こういうことは間接的な状況証拠を積み上げて論理的に推論できるレベルまで理論武装してから口にしないと、なによりも自分自身の信用を失うでしょう。「人の移動が増えれば感染機会も増えるはず」などというのは、蓋然性としては専門家センセイに言われなくても素人にだって理解できることです。問題は、それがどれほど現実味があることなのかということです。それを論証できない限り、「単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない」(薬局距離制限事件の最高裁判決風に)という誹りは免れ得ないでしょう。論理の問題として「ある」と主張する側が因果関係を論証する責務を負っています。

産経新聞の報道によると「国が推進することで国民が完全に緩んでいる」とのこと(「「Go Toで国民緩んだ」日医・中川会長」 11/19(木) 12:11配信 産経新聞)。「欲しがりません勝つまでは」ってところでしょうか。本当に「気合を入れる」「気を引き締める」といった具合の精神論が大好きな国民であります。しかし、案の定突っ込まれるや否や中川氏は 「『Go To トラベルが原因だ』とは言っていない。『きっかけになった』と言った。言葉を正確にご理解いただきたい」と反論」などと言い逃れています。だったらスポニチ報道にあった「ただ、トラベル事業自体に関しては、方針変更を求めなかった」って自己矛盾じゃないですかw全体的に筋が通っていない主張であると言わざるを得ません。

この中途半端さはさっそく見抜かれたようで、あの古市憲寿氏にさえも「あそこまで危機をあおるなら会見もオンラインですべき。自分たち医師会がそういうことができてなくて皆さんに我慢を求めますっていうあいまいな言葉で国民に協力を呼び掛けるのはちょっとちくはぐかなって思う」だとか「例えばショッピングモールとか公園とかクラスターが起こっていない場所と、宴会とかクラスターが起こりやすい場所は分かってきている。それ全部一緒くたにして我慢って言っちゃうと言葉に説得力があまりにもない」と切って捨てられる始末(「古市憲寿氏 日本医師会会長の会見に違和感「あそこまで危機をあおるなら会見もオンラインですべき」」 11/19(木) 10:55配信 スポニチアネックス)。「医師会の中川会長は、最近八つ当たりしたくなるような個人的ケンカを菅総理としたのかな?」と疑ってしまうレベルであります。私怨がなければ、こんな辻褄の合わない発言はなかなか出てこないでしょう

■いったいいつから医師は経済政策を論ずる立場になったのか?
更に詳しく見てみると、突っ込みどころが沸いて出てきます。たとえば、「短期間で抑えることが危機的状況を抑えるカギになる。万全な予防対策が一番の経済対策につながる」とのことですが、いったいいつから医師は経済政策を論ずる立場になったのでしょうか? そのための費用及び機会費用は考慮ずみなのでしょうか? そもそも、機会費用の概念そのものをご存じなのかという点から疑わざるを得ないところです。なんたって「先生」方は、医学においてはプロ中のプロですが、それ以外については、素人以下であることもザラですからね・・・ちなみに「機会費用」は経済学上の特殊な概念であり、一般常識及び会計上の「費用」概念とはまったくことなるものです。

もちろん、専門家以外が意見してはならないとは言いません。そんなことを言えば、何よりも、何の専門家でもない私自身の首を絞めることになります。しかし、ある程度の基礎知識を持ち持ち合わせていないと、マトモな政策提言にならないことは厳然たる事実です。今春に行われた「休業補償」を再度同等以上に振舞うことは財政的に不可能であります。いくら医療の問題は不可逆的だといっても、医療関係者の要求が無条件に実現されるわけではないのです(一般的な商売に従事している勤労者であれば、対等な相手方の立場も十分に配慮しなければ仕事が成立しないので、自ずと相手の立場を察する能力が鍛えられるものですが、白い巨塔の狭い世界で若いころからセンセイセンセイと持ち上げられてきた医師連中には、自分たちの要求が保留されるなんて事態は理解できないのかもしれません)。

■「秋の我慢の3連休」というには遅すぎた――医学以外には何も知らない医師の姿
また、「秋の我慢の3連休」などと称して警鐘を鳴らすのであれば、「土曜日から始まる3連休直前の水曜日の発表」はあまりにも遅すぎます。この報道を一般庶民が確認するには、早くて当日夜、翌朝になることも決して珍しくはないでしょうが、3連休を利用して旅行を計画している人たちはとっくに交通手段や宿泊先の予約を済ませており、キャンセルするにしても報道を確認した時点ではキャンセル料が発生してしまっているでしょう。率直に言って、医師会の「呼びかけ」程度で「じゃあやめておくか」と予定変更する人は少ないでしょう。どうせ厳密な患者数増加傾向をもとにした発言ではなく、「気のゆるみに対して警鐘を鳴らす」程度でしかない(だってGoToやめろではないのだから)のだから、月曜日時点でも十分だったでしょう。「土曜日から始まる3連休直前の水曜日の発表」の無意味さは、一般生活者としての社会常識があれば十分に予想できることであり、社会常識に照らせば、こうした呼びかけは遅くとも今週月曜日午前中までには発出すべきことでした

そのうえ、「再度の「緊急事態宣言」の発出や、国内初となる「ロックダウン(都市封鎖)」などの強力な措置に打って出る必要性も指摘」とのことで、こんなことを「軽々しく」口にするあたり、「本当に医師は、医学以外には何も知らないんだな」と改めて呆れるところであります(それでも「中川氏は 「『Go To トラベルが原因だ』とは言っていない。『きっかけになった』と言った。言葉を正確にご理解いただきたい」と反論」だというのだから、支離滅裂です)。

■未知の課題に立ち向かう組織指導者の資質とは?
ところで、上掲スポニチ記事では「ただ、トラベル事業自体に関しては、方針変更を求めなかった」などとファクトを報じているものの、例えば同じ内容を報じている朝日新聞は、下記のとおりそこまで言及していません。
https://news.yahoo.co.jp/articles/dfd5cc4abca2d8e7fa9708a42cefdfa9533937bd
コロナ急増、Gotoトラベルが「きっかけ」 日本医師会長
11/18(水) 18:20配信
朝日新聞デジタル

 新型コロナウイルスの感染が急拡大していることについて、日本医師会の中川俊男会長は18日の会見で、政府の旅行支援策「Go To トラベル」が「きっかけになったことは間違いない」との見解を示した。

 中川氏は感染拡大とトラベル事業との関連性を問われ、「『Go To トラベル』自体から感染者が急増したというエビデンス(根拠)はなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いないと私は思っている。感染者が増えたタイミングを考えると関与は十分しているだろう」と話した。

(著作権法規の制約によって以下略、全文はクリックして確認してください)
医師会会長の発言を切りとって、今春ように、クレーマーまがいの方法で「追及の攻勢」を再び仕掛けようとする意図が見え隠れします。そして、これに呼応しているというか、まんまと扇動されているコメントが再燃しています。不安のあまり「救世主」を渇望するコメントです。「【速報】菅首相「静かなマスク会食を」、 感染者最多更新は「最大限の警戒状況」」 11/19(木) 9:36配信 FNNプライムオンラインのコメント欄から。
専門家の意見?日本医師会の会長が言ってますよね?医師会のトップが、gotoは拡大した要因だと言ってるんだよ。どこの馬の骨に聞くんだよ。リーダーの意見はないのかよ。国会で役人の資料を棒読みする人には自分の意見はないか!悲しいね。
「リーダーの意見」「自分の意見」――今春、安倍首相(当時)に対してもよく聞いた言葉です。

しかしそもそも、組織指導者というものは、組織内の合議を主宰し組織の意思として決定したことを正確に発表してくれれば及第点を得られるものです。とくに今般のように人々の英知を集結して未知の課題に立ち向かって解決しなければならない段階においては、リーダーはリーダーであるがゆえの権威を以って議論の交通整理に専心し、熟議の結果を発表してくれればそれだけで合格なのです

もちろん、首領・党・人民大衆の三位一体な一心団結によって社会政治的生命体の構築を目指す主体的社会主義者としては、リーダーの仁徳には是非ともこだわりたいところではあります。しかしそれは、「手続き的仕事ぶりであったとしてもやるべきことをやった上で、持ち合わせていれば尚よし」の要素であります。その点、大学の文系学部を卒業した感染症問題についての素人にすぎない菅首相の「リーダーの意見」「自分の意見」などお呼びではありません。菅首相にあっては、専門家の意見を集約してそれを正確に広報してくれれば結構なのです。素人が欲を出してリーダーシップを発揮しようとしないでほしい!

「リーダーの意見」「自分の意見」は、指導される側の感情に訴えて社会組織の求心力を高めることはあっても、リーダー自身がその道に造詣が深くない場合は、それ自体の実務的な効力は乏しいというべきなのです。

安倍前首相にしても菅首相にしても、この人を選挙制度の結果としての首相として認めたとしても、この人の下で積極的に一心団結をして尽忠報国しようと思っている日本人はそれほど多くはないでしょう。そもそも感情的に一体感をもつ気になどなり得ない顔ぶれです。よって、感情に訴えかけるようなパフォーマンスは不要であり、無機質的であっても粛々と仕事を進めてほしいものです。

■非常時に「ビッグ・ブラザー」に縋りたくなる大衆の心理をまたしても実証している
ところで、こうした要求からはいったいどういった心理が読み取れるでしょうか? 実務的な問題解決よりも心理的な「寄り添い」や「安心」を求める姿を見て取ることができるでしょう。7月11日づけ「コロナパニックの裏返しとしての「キレイな独裁」論」などでも論じた、「清廉潔白・公平無私なる救世主な権力が正確無比に強権を振るい、国民の命と生活を守り抜く」ことを求めている要求とあわせて、今春以降、実によくみられた現象です。

こうした心理の発露は、8月以降の感染者数の低減によって下火になっていましたが、ここにきて感染者数の増加傾向と軌を一にして再燃してきた点、非常時に「ビッグ・ブラザー」に縋りたくなる気持ちが沸いてくるのは大衆の心理の常だということなのでしょう。

ただし、今春との違いを指摘すれば、明らかに大多数の国民は、コロナに「飽きて」います。マスクをしないで人込みに繰り出す人も珍しくなくなってきました。マスクパニックからまだ1年経っていないとは思えない変化です。一部の人たちは依然として、本心からなのか政府批判のためだけなりかは知りませんが、深刻視している本件ですが、確実に人々の関心は低下しています。
posted by 管理者 at 23:46| Comment(0) | 時事 | 更新情報をチェックする
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